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森を抜けて、プロメルムとあの冒険者が言っていた大きな街も数日前には通り過ぎた。
今自分がどこにいるのかすら分からない。
ただ幽鬼の様に歩き続ける。
しっかりとした睡眠も取れず、百合子さんがいない一人という状況へのストレス。
身体は休憩を欲して、足腰に力が入らず自然と覚束ない足取りになる。
それでも、百合子さんに会いたい一心で足を前へ前へと歩み進める。
悪夢が見せた百合子さんの死が脳裏に焼き付いて離れない。
「待っててね、百合子さん…。次は僕が貴方を救ってみせるから…。」
乾いた唇から漏れる言葉は自分を奮い立たせる為の言葉。
気を抜いたら気絶してしまいそうな軟弱な自分への言葉。
街道を行ければまだ良かったが、百合子さんはただひたすら真っ直ぐ北上をしているようだった。
全力で駆け抜けたであろう地面は転々と土が抉れ、進行の邪魔になったであろう木々はなぎ倒されている。
今はただ進むしかない。
「おーい、大丈夫かー!?」
遠くから声が聞こえる。
視線を上げると、なぎ倒された木々の向こうから甲冑をきた男達が5人こちらに向かって来ていた。
声を出すのも億劫な僕は、構わないでくれと僅かに手を上げる。
だが、そのジェスチャーが見えていないのか気にしていないのかずかずかと僕に近づいてきた。
僕を取り囲むように立つ男達。
ぼんやりと視線をくれてやると、男達の内一際体格が良く、先程僕に声を掛けた者であろう男が自分の剣の柄に着けている飾りを僕に見せてきた。
「安心してくれ。俺達は怪しい者ではない。ペルケウという街で近衛兵をやっている。ちょっとした調査でここに来たのだが…うーむ。」
多分騎士だとかなんかの身分を表すものであろう。
見てもさっぱり分からない僕はただ軽く頷くだけに収める。
一刻も早く先へ進みたいのにこの男達は僕を行かせるつもりはないようだ。
「見た所怪我も負っているうえに体調が優れないようだな。少し話を聞きたいのだが…場所を改めた方がよさそうだ。悪いが、俺達の詰め所まで来てもらえないか?そこなら治療も行えるし、話も聞けるしな。馬に乗ればすぐだから、な?」
今の僕は百合子さんとの戦いで服はボロボロで、なおかつ自分の喉を掻き毟ってそのまま放置している。
一言で言えば酷い有様だ。
酷いからこそ怪しい奴と思われてもおかしくない。
なのに、先程からこの男は身分を持った者が持つ無駄に高いプライドからくる威圧的な態度ではなくどちらかと言えばフレンドリーな感じで接してくる。
何か裏がありそうだ、と僕が疑念の念を持ったのに気付いたのか男は慌てて両手を上げて降参のポーズをとる。
「見た所首から下げてあるそれはAランク冒険者が身に着けるものだろ?高ランク冒険者さんに無礼な態度は取って怒りを買ったとなれば我が領主に叱られてしまう。」
首元に手をやれば首から下げた冒険者カードが手に当たる。
ゴタゴタしている時にいつの間にか服の下から出てきていたようだ。
高ランクは優遇されると聞いていたが、思わぬところで効力を発揮したな。
少し喉に力を入れると、鈍い痛みが襲ってくるが構わず声を出す。
「今は先を急いで…」
そこでハッとした。
ペルケウといえば情報屋が待っていると言っていた街の名ではないか。
そこで僕と別れた後の百合子さんの情報も入るのではないか?
進むべきか情報を得るべきか。
逡巡するが、どうやらこの男達は僕を先に行かせるつもりはないだろうと考え着く。
ならば、素直に従った方が時間と体力の節約になるだろう。
「…いや、分かった。詰め所に行こう。その代わりこちらも何点か聞きたいことがあるから聞かせてくれ。」
僕がそう答えると明らかに男達はホッとしたような雰囲気になる。
Aランク冒険者と事を構える事態が回避できたことに安堵したのだろう。
男達が乗ってきたであろう馬に乗る時にひと悶着起きてしまった。
野郎と二人乗りしたくない僕と万が一にでも馬に乗って逃げられては困るという近衛兵達。
最終的に僕が乗った馬の周りを他の近衛兵が乗った馬で囲っていくという話に落ち着いた。
護衛されてるお偉いさんのようであまり気分が良くなかったのはここだけの話だ。
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