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二年程更新してなくてすみません。
仕事に資格取得にと私生活がわたわたしてました⊂⌒~⊃。Д。)⊃
少し落ち着いてきたのでまた細々と更新開始いたします。
深い森の奥には大きな洞窟があった。
ぽっかりと口を開ける洞窟にはささやかだけれども、確かに幸せが詰まっていた。
足が速いのが自慢の雄のクァールと魔法の扱いに長けた雌のクァール。
そして、その二匹の血を受け継いだまだ成体には至ってないクァール。
三匹はその洞窟に住み着き、日々誰に気を使うこともなく自由に生きていた。
子のクァールに狩りの仕方や魔法の扱いを教え、いずれ子が巣立ち番を見つけ、また子を成す。
脈々と続いている生物の繁殖、命の連鎖。
賢い雄のクァールは人間の恐ろしさを知っていた。
一匹に手を出せば、その何倍もの数が報復にやってくる。
罠を仕掛け、謎の道具を使い、数の暴力で仕留めにやってくる。
雄のクァールは子に何度も何度も人間には手を出してはいけないと教え込んだ。
幸いにもここは森の最深部に近い場所であり、人がおいそれと入っては来られない場所である。
子のクァールは人間を恐れつつも、見たこともない人間に少しの興味を持っていた。
月日は流れる。
子のクァールは雌のクァールより二回り小さいながらも確実に成長していた。
魔獣が成体になるには長い月日が必要であり、一人前として巣立つにはまだ時間がかかりそうだ。
閉ざされた森の奥で子のクァールが成長すると共に外の方も変化をしていた。
少しずつだが、着実に森は人の手によって開拓されていた。
洞窟がある場所の近くまで人がうろつくようになる日も近いだろう。
今はまだ、人の足では洞窟に辿り着くには数日を要する距離だが、クァールの狩りの範囲に人の領域が被り始めてきた。
雄のクァールも狩りに行く度に足をのばし、木々を伐採し開拓している人間の様子を見に行く。
人の出入りが増えた森は確実に蝕まれている。
木々が減り、食い物が減り、住処が減り、獣達は数を減らす。
獣が減れば自分達の食う物がなくなる。
雄のクァールは移住すべきか思案しつつ洞窟へと戻る。
番と子に新しい住処を探してくると言ったその日の自分の決断を呪わずにはいられない。
新しい住処が見つけてすぐ戻る。それまで人に見つからぬよう気を付けて待っていて欲しいと伝えた。
人間が近づいてきており、この森はもう駄目だと薄々気付いていた雌のクァールは頷く。
子のクァールは良く分からないながらも両親の決断に従うことに。
雄のクァールは自慢の足の速さを遺憾なく発揮し、人に見つからぬよう森を脱し新天地を探しに行った。
子と雌のクァールは人に見つからないように狩りは最低限にし、暮らし始める。
ある日雌のクァールの具合が悪くなり、寝込むようになった。
その腹の中にまた新たな命が宿っていたのだ。
子のクァールは父と母から狩りの仕方を教わっていた為、これからは自分が狩りを行なうと母に言った。
父がいない間、母とこれから生まれる弟を守るのが兄である自分の務めだと。
母は渋々ながらも任せることにした。
自分だけで狩りに行くのは初めてで気分が高揚していたのだろう。
走り回っていると人の気配がした。
人間は恐ろしいと父から教わっていたが好奇心には抗えない。
そっと木の上から見てみると足を怪我して動けない人間がいた。
初めて見る人は土まみれの何かを身に纏い、光る棒を手にしていた。
視線を人間から上げると数メルトル程の断崖がある。
そこから足を踏み外して落ちたのだろう。
「…ちくしょう!こんなはずじゃなかったのに!!」
蹲り地面を激しく叩き何かを言っている人間を見て、何て弱弱しい生き物なのだろうと子のクァールは思った。
それは同情からくる気まぐれ。
人間という生き物を知らぬ無知からくる無謀な行い。
破滅への一歩。
クァールは人から少し離れた所に静かに降りた。
気配を感じ顔を上げる人間と目が合うなり、人は光る棒を右手で掲げながら、左手と怪我をしていない右足で器用に後退していく。
「お、俺を食べる気か!た、た、タダで食われるほど俺も落ちぶれちゃいねーぞ!!むむむ、むしろお前を倒して父上に認めてもらうんだ!!」
クァールには人の言葉は分からない。
首を傾げ、人を観察する。
「な、何見てんだよ!お前も他の奴等みたいに俺を馬鹿にするのか!?」
みるみる内に目に涙を溜め、光る棒を投げつけてきた。
乱雑に投げつけたそれはクァールの所に届く前に地面に擦れ、停止した。
「ちくしょうちくしょうちくしょう!!どうして何もかも上手くいかないんだ!!俺は…っ…俺は落ちこぼれじゃねぇぇぇ!!!!」
泣きながら再度地面をたたき始める人にクァールは目を丸くする。
何て騒がしくて忙しい生き物なんだろうと。
そうして人は続ける。
「あぁ、あぁ!そうさ!!どうせ何をやっても次男様には劣る落ちこぼれの長男さ!!そんな落ちこぼれは森の中で人知れず魔獣に食われて死ぬのがお似合いな最後なんだ!おい!そこの魔獣!!見てないでさっさと俺を食え!!」
今度は大の字になり、何もかも諦めたように空を見つめる人。
クァールは恐る恐る近づき、とりあえず匂いを嗅ぐことにした。
「毎日風呂に入ってるから臭くねーよ!」
ガバリと起き上がる人に、クァールはぴょんと後ろに飛びのく。
急な動きに驚き、尻尾の毛が逆立ち太くなる。
人はそのクァールの様子を見て、一瞬目を見張り、その後大笑いした。
そのクァールの様が庭で見かけた野良猫の動きにそっくりだったからだ。
こうして、後の悲劇を引き起こす人間とクァールが出会ってしまった。
コメントなどくれるとやる気が出て更新スピード上がるかも?w