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前話短かったので。

百合子さんから話すよりも先に僕が口を開いた。

僕がいかに汚い選択をしようとしたかを言いたくて。

百合子さんのお叱りを受けたこと、その後どんどん様子がおかしかったこと、僕が…百合子さんに殺されようとした事。

殺されて楽になろうとした事。

そして、途中マキシが現れたこと。

百合子さんは何も言わずに目を閉じ、静かに聞いてくれた。

話し終わった後、何を言って良いのか分からず僕は下を向く。

嫌われてしまっただろうか、どうすればよかったのだろうか…。

グルグルと色々な事が頭の中を巡る。

地面を見つめていると百合子さんが口を開いた。


≪前に番と子供が居たって言ったことあるじゃない?≫


条件反射で顔を上げると百合子さんは僕の方を見ていた。

目と目が合い、その目の奥には憎しみの炎が燃えているように思えた。


≪ここからずっと北の方に向かっていくとね?パールティアっていう名前の街があるんですって≫


話の脈絡が分からず、僕は百合子さんを見つめる。


≪そこの領主の館ではね?アタシと同じ種の魔獣が剥製になって飾られているらしいのよ≫


その言葉で僕は息を飲む。

待て、百合子さんは以前妻と子供二匹を殺されたって…待て、待ってくれ…。

僕の祈りは虚しく百合子さんの話は続く。


≪何代も前の領主が狩った魔獣の剥製、成獣一体と幼獣二体…≫


駄目だ、それ以上は…。

僕が言葉を制する前百合子さんは立ち上がり、視線を星空に向けた。


≪年代的にも場所的にも私の番と子供たちのだったわ≫


言葉を遮る事を許さない、そんな凛とした佇まいで百合子さんは話を続ける。


≪私を見つけた冒険者がね?「これを倒してパールティアの領主に届ければ一気に金が稼げる」って喜んでたの。締め上げたら今言ったようなことをベラベラ喋ってくれたわ。

私の妻子は人間共の観賞用兼強さを見せつける物として今もなお利用され続けている。そんな話を聞いてしまってアタシは…アタシは…≫



百合子さんの体が震えている。

肩を抱き寄せてもいいものか僕の右手が空をさ迷う。


≪アタシは全ての人間(・・・・・・)が憎くなってしまったのよ…≫


さ迷っていた手が止まる。

僕は分かってしまったのだ。

百合子さんの言葉の意味が。


全ての人間という中に僕が含まれていたとこに。


≪割り切っていたつもりだ。アンタはルゥナ様に育てられた神獣の子供で人間とは違うって。…でも、アタシの本能はアンタも人間なんだと。人間という枠組みに組する生き物なんだと…アタシの本能に判断されてしまったの≫


百合子さんがどんな表情をしていたのか分からなかった。

瞼は開いているのに目の前が真っ暗だったからだ。


人間を憎んでいる僕が人間?

そんな冗談きついよ。

そう軽口を叩けるほど僕の唇は軽くはないみたいだ。

鉛を口の中に押し詰められたように。

何も言葉は紡げなくなった。


≪…魔獣は所詮知能の高い獣ってことよ。さようなら≫


トンっと軽い音を奏でて百合子さんは僕の傍から立ち去ってしまった。

いつもなら僕の弱音を百合子さんが聞いてくれて。

それを最後まで聞いてくれた百合子さんは僕に喝を入れてくれてまた前に歩く力をくれて。

それで2人で歩き出して。

それで…それで…?

僕は百合子さんに何をしてあげれていた…?

人間(・・・・)である僕が。

人間に憎しみを抱く百合子さんに。

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