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「いいか、アルバ。魔法には決まった呪文などない。どんな魔法を使いたいのかを明確に思い描くことが大事だ。そしてどの位の魔力量を込めるか。込めすぎても魔法は霧散するし、足りなければ発動しない。使う魔法によって魔力の適量は変わるということを覚えておけ」
名づけの日から数日経った。
僕の名前はアルバになった。
ルゥナさんが「夜明けという意味でアルバがいいんじゃないかな?」と言うとギルさんは「それは良い名前です!そうしましょう!!」と力強く同意しつつ僕に「まさか嫌だと言うんじゃないだろうな?」と目で脅しをかけてきた。
頷くしか僕の生き残る道は残っていなかった。
額に衝撃が走り痛みで我に返る。
額を手でさすりながら足元に目をやると氷の欠片が光っていた。
ギルさんが魔法で出したものだろう。
「話を聞いていなかっただろ。」
眉間に皺を寄せ厳しい表情を浮かべてるギルさん。
やばい、これは本格的に怒っている。
「えっと、僕の名前について考えてたの。いい名前だなって…」
「ん?そうだろうそうだろう!ルゥナ様自らがお考えになり付けて下さった至高の名だ!誇るがよい!!」
ちょろいわギルさん。
ルゥナさんが関わると一気にちょろくなるわー。
機嫌が良くなったギルさんはまた魔法について話し始める。
「魔法の属性は6つだ。火・水・土・風・光・闇。基本の四属性と上位属性二つ。氷や雷等は複数の属性を混ぜて使われる複合魔法だ。まずは基本四属性を使いこなすことから慣れていけ。」
掌の上に風を起こして消して。水の球を出して消して。
順番に四属性の魔法を使っていく。
次に右手と左手で反発ずる属性の魔法を出して維持する訓練をする。
右手に火の玉、左手に水の球。
これは気を抜くと魔法が霧散してしまい無駄に魔力を浪費するだけになるので要注意だ。
魔力切れになると体が怠くなり、酷い時は眩暈と吐き気に襲われる。
更にギルさんからのお説教もセットであるので精神的ダメージも合わさる。
いつ訓練が終わるか分からないので常に魔力量に気をつけなければならない。
「よし、二つ同時行使は慣れてきたな。次は三属性でやれ。属性同士が互いに反応しないよう十分に意識してやるんだぞ」
二つでも大変なのに三つって鬼だ…。
今ですら右手でお手玉をしつつ、左手で編み物をしているような状態だ。
思わず渋い表情になってしまう。
僕の顔を見てギルさんは鼻で笑った。
「複数の魔法同時行使が出来ないのなら強くなれんぞ。ルゥナ様を守りたいと言ったのは嘘だったのか?」
それを言われるとやるしかなくなる。
ルゥナさんには争いごとに関わってほしくなくて強くなりたいと思ったんだ。
やるしかないんだ!
気合を入れて火と水と風を発動させる。
「なっ!ばかも」
焦ったようなギルさんの声が聞こえた気がした直後、強烈な熱風と共に爆音が響き渡った。
鼓膜が破れたのか耳がキーンとして何も聞こえない。
体中が熱さと痛みに侵され目も開けられない。
痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱い痛い熱いいたいイタイイタイ。
何が起こったか分からず思考が痛みに埋め尽くされる。
「 」
急に痛みが引いて音が戻ってきた。
目を開けてみるとルゥナさんの顔が間近にあった。
眉を下げて困った顔で笑っている。
「ダメじゃないか。同時行使をする際は属性同士が反応し合わないようにしなきゃ。思いっきり火と水と風が混ざってて大爆発が起こったんだよ?」
呆然としている僕の眉間を人差し指で小突きメッと叱られてしまった。
ゆっくり周りを見回すと僕を中心に周囲の木々が草が根こそぎなくなりぽっかりと穴が開いていた。
風が火の力を強めそこに水が加わった結果の水蒸気爆発だ。
こんな惨状を引き起こしたのが自分だと分かり体が震える。
「あっ…ごめ…ごめんなさ…」
うまく言葉が紡げずルゥナさんに縋りつく。
涙が溢れて嗚咽が出る。
そんな僕を優しく抱きしめ背中を撫でてくれるルゥナさん。
僕がギルさんの言うことをしっかり聞いてなかったから悪いんだ。
ちゃんと集中してなかったから。
あれ?
「ぎ、ギル…どこ…?」
そうだ。ギルさんがいないじゃないか!
僕の近くで指導してくれてたギルさん。
顔を上げ周りを見回す。
さっきと変わらない荒れ果てた状態に焦りと恐怖を覚える。
僕のせいでギルさんは…死んだ…?
そう思うとヒュッと息が吸えなくなり意識がブラックアウトする。
ごめんなさいギルさん。僕がもっとちゃんとしてればこんなことにならなかったのに。
ごめんなさいギルさん。もっといっぱい叱って欲しかった。褒めて欲しかった。
ごめんなさいごめんなさい。