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ドリームキャッスル。背後と思い出にはご注意下さい。

 ミラーハウスの次。

 隣の四角には、ドリームキャッスルと書かれていた。

 遊園地の軽快な音楽は、何故か私を急かしているように感じる。


 ドリームキャッスルの場所は、真ん中の、一番に目立つ場所へ建てられていた。

 『夢のお城』

 ドリームランドというこの遊園地のメインであるようなその場所へ、私は向かう。

 今度は、どんな遊びで楽しめばいいのだろうか。

 園内の真ん中。

 一際明かりの目立つドリームキャッスル。

 その前で、一度足を止める。

 お城全体は、派手だとでも言えそうなくらいにピンクで飾られていた。

 まあるい扉までもが淡いピンク。

 取っ手は、金色でギザギザの模様が刻まれたミラーハウスの扉よりも豪華だった。

 その取っ手をつかんで、押す。

 扉の上の方につけられた鐘が、上品に、カランコロンと鳴った。


 中は、とても広い。

 大広間のような場所。

 天井には、シャンデリアのような電気が取り付けられている。

 まさにお城。

 女の子達が憧れるような、そんな場所。


 手のひらサイズのカラーボールが沢山敷き詰められたコーナーや、複数人でぴょんぴょんと跳ねることのできる大きめのトランポリン。

 どれも小さい頃だったら、きっと真っ先に飛び付いて行ったのだろう。

 今の私には、どれをどのように扱えばいいのか、少し戸惑ってしまう。

 とりあえず、私から見て右奥の、沢山のカラーボールが敷き詰められた場所へ歩み寄る。


 足を踏み入れると、足の裏がカラーボールを踏んで滑り、その場で尻餅をついた。

 痛さに片目を瞑る。

 ぶつけたところを擦ろうと、沢山のカラーボールの中へ手を伸ばしたときだった。

 指先が、何か出っぱりのような場所に当たる。

 こんなところに出っ張りなんて、危ないな。そう思った。

 手から滑り落としてしまっていた縫いぐるみを側へ退けて置き、出っぱりのようなものがあった辺りのカラーボールを退けてみる。


 「えっ……」


 そこにあったのは、一人が二人くらいは立てるほどの面積のある、四角い扉のようなものだった。

 指に当たった出っぱりのようなものというのは、恐らく、そのドアの端についているもの。

 これが、取っ手なのだろうか。

 戸惑いながらも、手を伸ばす。

 取っ手をつかんだ。

 この下には何があるのだろうか。

 建物の土台か、地下水路……は流石にないか。

 取っ手を、上に引っ張る。

 パコッと音がして、扉が少し、浮いた。


 「……開いた」


 思わず、そう口に出していた。

 全開まで開いていく。

 退けきらなかったカラーボールが数個、穴の中へ落ちていく。

 ボタッという音がすぐに聞こえた。

 ということは、この下にはまだ、コンクリートか何かの床があるのかもしれない。

 よく見ると、したの方へ梯子が伸びていた。

 これは、ほとんどが好奇心、興味からの行動だった。


 梯子に足をかけると、カツカツと下へ下りていく。

 下へ行くごとに、音は余計に響く。

 地面は、思っていたよりもすぐ近くにあったようだ。

 置いてきぼりにしてしまった縫いぐるみのことを思いだし上を見るが、戻ってしまえば、また再び下りてこようと思う気持ちが薄れそうだった。

 私は戻らずに、後ろを振り返る。

 そこには、想像を遥かに超えた場所が広がっていた。

 てっきり、もっと可愛くデコレーションされたような部屋だと思っていた。

 けれど実際は、全くもって真逆であった。


 壁に沢山かけられていたのは、ロープ、それと、鞭。

 更にこの地下の真ん中辺りには、まるでこの世のものとは思えないもの。

 太く刺のように突き出た、沢山の鉄。

 それが取り付けられた十字架のような形の椅子。

 先には、何かを固定するためか、縄が取り付けられている。

 部屋の端のほうも、同じだった。

 中央にある器具と同じようなものが、数個置かれている。

 心なしか、床にも、何か……赤いものが染み付いているような気さえした。


 ここは、恐らく。

 いや、ここは__拷問部屋なのだ。


 こんな、夢のようなお城の地下に。

 こんな、嘘のような地獄の場所。


 ここに居てはいけないと、誰かに言われているようだった。

 体が自然と後ろへ下がる。

 その時。

 戻ろうとしていた方向で、ガシャンッと大きな音がした。

 息がつまるんじゃないかと思うほどに驚き、ばっと後ろを振り向いた。

 脈がはやくなって、頭痛がする。


 「う、うさ、ウサギ……っ」


 そこにいたのは__恐らく、私の抱えてきたはずのウサギ。

 けれど明らかに違うのは。

 自分と同じように、人間の形をした体。

 しっかり腕も足もあって、それが何故か、私と同じ服を着ている。

 顔は……そう、顔の部分は、ウサギの被り物を被っていた。

 数ヶ所、乱暴に縫い合わされたような痕。

 汚れて黒くなった体。

 やけにリアルに、目から口の辺りへ垂れた、赤いシミのようなもの。


 手には……ナイフ。


 「や、あ……っ!?」


 誰だ。

 目の前にいるこいつは。

 頭痛は治まらず、逆に激しくなる。


 「い、たい、痛い痛い痛いっ……!」


 ザザッと、砂嵐が見えたようだった。

 また、笑い声。

 今度は__ここ、ドリームキャッスル。

 何かを、思い出す。

 ドリームキャッスル。そこで楽しそうに笑いあう、三人。

 一人は男性。一人は女性。もう一人は、可愛いげのある、小さな女の子。

 何か、何か__


 ザザッ、と。

 今度は、家。

 笑い声は、なくなった。

 怒鳴りあう、二つの声。

 何かを言い合い、その瞬間、ガコッと、痛々しい音。


 「あ、ああ、ああああああああ__!」


 もう、嫌だ__!


 『思い、出せない……?』


 目の前の影が、そう言ったように聞こえた。

 何かの機械を通して聞いたような、何の感情も表へ出さないような声。

 目を瞑り、開いて。

 確かにその姿を、視界に捉える。

 相変わらず、ウサギの被り物を被ったそいつ。

 ナイフを持った手とは反対側の手を、ゆっくりと口許に当てる。


 それから、肩を震わせた。

 笑っているのだ。


 __思い、出せない__


 脳裏に、その言葉が思い出される。


 視界が狭くなる。


 「私は__」




 プツリ、と。





 意識が途切れた。

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