アクアツアー。降りかかる水にご注意下さい。
次に乗るよう指示されていたのは、アクアツアーだった。
メリーゴーランドみたいな、小さな遊園地にでもあるような乗り物には流石に乗ったことがあるけれど、アクアツアーなんてものは、正直初めて乗る。
アトラクションの入り口へまわると、そこにはもうコースターが到着していた。
レールの少し下に水面がきていて、ちゃぷちゃぷと波打っている。
これはもしかして、水に濡れる系であろうか。
一瞬ためらったが、スタンプカードのことを思いだし、コースターの椅子に座る。
二列になっていたので、隣の席に縫いぐるみを座らせた。
縫いぐるみの椅子に取り付けられた安全バーを下ろしてあげる。
小さすぎてすり抜けてしまうのではないかとも思ったが、何とかおさまった。
その後、自分の安全バーも下ろし、しっかり固定されているか確認する。
「準備はできましたか? それでは、噴き上がる噴水と、夏の夜に気持ちのよい水飛沫をお楽しみください!」
アクアツアーのアナウンスが響く。
すぐ近くで、水の噴き上がる音がする。
ゴウン、と音がした後、ゆっくりと進みだした。
だんだんと速くなり、坂を上っていく。
コースターが、左を下にして横に傾く。
一瞬ヒヤリと背筋が凍ったようになって、脈が上がった。
アクアツアーとはこういうものなのかと思っていると、ザーっと、滝ような音が聞こえた。
次の瞬間、水面から勢いよく水が噴き出す。
驚いて目を瞑ると、逆に気持ち悪くなったのですぐに開いた。
六本ほどの大きな水柱がすぐ横で噴き出している。
水飛沫が目に入り、顔を背ける。
水は遠慮なく降りかかってくるので、蒸したような暑さが消える代わりに、水に濡れた服や髪が、顔や肌に貼り付いた。
そんな水柱を通り越して、ただ走るだけの道が続く。
するとまた途中に、今度は何本か細く噴き出す水が降りかかってきた。
もうびちゃびちゃだ。
遊園地のアトラクションにしては、やりすぎなのではないだろうか。
終盤に近くなってきたのか、緩やかなレールの上を走るコースターの速度も遅くなってきた。
だんだんと速度を無くしていき、コースターは元の場所へ戻ってくる。
自分の安全バーを上げ、髪が吸った水を手で絞った。
服の裾や袖も絞る。
プールでもないのにこんなに濡れて、大変だと思った。
「ご利用有り難うございました! 引き続き夢の国をお楽しみください!」
コースターを降りてから、隣の席に座らせておいた縫いぐるみを見る。
同じように安全バーを上げたあと、それを持ち上げた。
これは水を吸ったからだろう。
さっきとは明らかに重さが違う。
少し抵抗しながら、縫いぐるみの体を両手で締めた。
絞り出た水がバラバラと地面に跳ねて、足にかかる。
手の力を緩めてみたが、重さはあまり変わらないようにも思えた。
それと恐らく、これも水を吸ってしまったせいなのだろうか。
一番始めに縫いぐるみを手に取ったときよりも、大きくなったように思う。
初めは両手から少しはみ出るほどの大きさ。
今は、片腕ほどの大きさだ。
水気だけでも、ここまで変わってきてしまうのだろうか。
私は思わず顔をしかめた。
「うっ……」
アクアツアーのエリアを出ると、むさ苦しいような暑さに思わず声が出た。
水を浴びすぎたせいもあってか、アクアツアーを体験する前よりも暑さが増している。
重さと大きさの増した縫いぐるみを抱え直し、次のアトラクションへ向かった。