メリーゴーランド。まわる景色にご注意下さい。
とりあえずは、このスタンプカードに書かれたアトラクションを、順番に乗っていけばいいのだろう。
アトラクションの数は五つ。
観覧車の次は、メリーゴーランドだ。
スタンプカードには紐がついていたので、首に掛ける。
ウサギの縫いぐるみを腕のなかにおさめると、私はメリーゴーランドへ向かった。
*
遊園地全体に流れる軽快な音楽とは少し違い、ゆったりとしたクラシックな音楽が聞こえる。
スタッフのような人影も、さっぱり見えない。
とりあえずはチケットを買わなければと券売機へ向かうが、既にメリーゴーランドの出入り口である扉が開き、こちらへどうぞ、などという紙が貼ってあるのに気付いた。
どうやらチケットは要らないらしい。
柵の中へ入ると、台へ上がり、馬車の形をした乗り物を選んで座った。
向かい側に、ウサギの縫いぐるみを座らせてあげることにする。
「さて、それでは、夢のようなゆったりとした時間をお楽しみください」
それと同時に、メリーゴーランドのアナウンスが流れた。
一番始めに聞いた声と同じような気もするが、雰囲気に会わせてか、落ち着いた声色である。
ガクンっと音がして、メリーゴーランドは動き始めた。
ゆっくりとめぐる園内の様子を、特にはしゃぐこともなく、見ている。
もう“お子さま”といわれる年齢ではないし、友達といるわけでもないのに、正直どのようにはしゃいでいいのかわからない。
ふと気になって、前を見た。
バランスを崩して少しだけ体が傾いた、新品のように綺麗なウサギがそこにいる。
この子には、名前があったりするのだろうか。
そんなことを思っているうちに、メリーゴーランドは動きを止めた。
あぁ、もう終わってしまったのか、そう思いながら立ち上がり、縫いぐるみを腕のなかに抱える。
「ん……」
ただの、自分の勘違いか。
少しだけ、心なしか重くなったような気がした。
「ご利用有り難うございました! 引き続き夢の国をお楽しみください!」
後ろで、アナウンスの声が聞こえる。
そういえば、最後に遊園地へ来たのはいつ頃だったか。
次のアトラクションまで移動する間、そんなことを考える。
小さい頃の記憶は曖昧な上に、父親の車に揺られるままに向かっただけだったからか、何という名前の遊園地だったか、何十分走行したのかすらも、もう覚えていない。
途中に置かれた園内の案内図を見て、次の目的地へと向かう。
その場所は、メリーゴーランドとは反対のところに建てられていた。
胸に下げたスタンプカードを確認する。
さっき乗ってきたメリーゴーランドの場所には、知らずのうちにスタンプが押されていた。
ここで目を覚ましてから、何だか奇妙なことばかりおこる。
手からスタンプカードを離すと、コツンと胸に当たり、自分の動きにあわせて、また静かに揺れ始めた。