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始まりは、観覧車から。

 目が覚めると、そこは、大きな観覧車の中だった。

 驚いて思わず立ち上がり、窓に手をつく。

 見下ろすと、丁度天辺にいて、遠くの方には灯りが見えた。

 その観覧車がゆっくりと下へ降りると、ゴンドラは止まり、扉が開く。

 私は状況が飲み込めないまま、ゴンドラから降りた。

 夏の夜。

 暑苦しく、一瞬、じめじめとした空気が肌に張り付いた。


 「ここ……どこ……」


 目の前に広がる光景に、目を見張る。

 そこは、廃園になったらしい遊園地だった。

 近くにある観覧車のチケット売り場はボロボロで、ボタンは押せないどころか取れて無くなっている。

 その券売機の上の、街灯の光さえもさえぎってしまっている布の屋根は、黒ずみ、裂けて垂れていた。

 私は、こんなところに来た覚えはない。

 そもそもここは廃園になっているようだし、だとしたら、何かの噂を聞いて、一人で肝試しにでも来たのだろうか。


 視線を巡らす。

 その先に、私は何かを見つけた。

 街灯に照らされてポツリと立つそれ。

 少し近寄ると、それは台のようだった。その上に、何かが置かれている。

 更に近づこうとすると、ザザッという音。顔をあげる。


 「ようこそっ、ここ、裏野ドリームランドへっ!」


 自分よりもうんと高い位置にあるスピーカーから流れる、やけにテンションの高い女の人の声。


 「この遊園地は、現在貸しきりとなっておりますっ。今あなたの目の前にある台には、ウサちゃんの、それはそれは可愛い縫いぐるみが置かれていますので、その子と共に、どうぞ遊園地をお楽しみくださいっ!」


 語尾に音符でもつきそうなほどの、ぴょんぴょんと跳ねたような喋り方だ。

 足を踏み出して台に近寄る。

 そこには言われた通り、力なく仰向けに置かれたウサギの縫いぐるみの姿。

 私はそれを見て、思わず顔を歪めた。

 これの、どこが可愛いというのだろう。

 数ヶ所、乱暴に縫い合わされたような痕のある顔。

 体も汚れて黒ずみ、目からは赤いシミのようなものが口の辺りへ垂れている。

 けれど、見間違いだったのだろうか。

 無意識にひとつ瞬きをすると、汚れていたはずの手の上のウサギは、普通の可愛らしい縫いぐるみに戻っていた。


 それと、もう一つ。

 ウサギの縫いぐるみの下に、裏向きにされた一枚の紙も置かれていた。

 両手から少しはみ出るくらいのこの縫いぐるみと同じくらいの大きさだった。


 ブツリ、と、音。

 無意識にスピーカーの方を見た。


 「ああ、言い忘れていました! そちらの紙は、今日この遊園地のアトラクションに乗る際に使えるスタンプカードです! 左上からスタートで、アトラクションに乗る順番が書かれています! 宜しければ順番に回って、遊園地をお楽しみくださいっ!」


 また、ブツリ。

 今度は遊園地でよく流れるような、軽快な音楽が流れてきた。

 スピーカーを見上げたついでに、周りを見渡す。

 明かりとなるものは、等間隔で立てられて光る街灯くらいで、薄暗い。

 そのうちの数本はチカチカと点滅していて、小さな虫が(たか)っていた。

 

 その時、辺りのアトラクションのライトが、チカチカと光り始める。

 次の瞬間、自分の後ろに立つ観覧車から、波のように明かりがつき始めた。

 様々な淡い色に染まる遊園地。

 スピーカーから流れる音と共に動き始める。

 さっきまでの出来事が、まるで嘘のようだ。

 壊れていた券売機のボタンも、なおっている。

 賑やかな遊園地に、たった一人。

 それだけが、違和感。


 台に向き直り、紙を手にする。

 裏になっていたそれをひっくり返すと、結構大きなスタンプを押せるほどの四角が数個書かれていた。

 そしてもう既に、一つ押されていることに気がついた。

 観覧車__そこは、私が始めに目を覚ました場所だ。


 私は、何故こんなところにいるのだろう。

 ここは、どこなんだろうか。

 

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