一人目の歌姫
特に何かがあるわけではないが、なぜかいつも朝早くに来てしまう。
そんなある日、俺が教室に行くと、クラスメイトの、上野春香さんがいた。
彼女は、教室の掃除をしていた。うちのクラスは、朝からずっと教室が綺麗だ。しかも毎日、だ。
誰がやっているのだろうとみんな不思議に思っていた。俺がやっているんじゃないかとい噂が流れたこともあった。でも俺は否定した。なぜなら、俺が来る前からいつも綺麗だからだ。そう答えると、もうそのことについては誰も気にしなくなった。教室が朝から綺麗なくらいで犯人探しなんて馬鹿馬鹿しい。
でも俺は犯人を見てしまった。それは偶然とはいえ俺はすごく驚いた。そして俺は彼女に話しかけた。
「いつも朝早くから掃除しているのって上野さんだったんだね」
俺がそう言うと、彼女はびっくりして、慌てふためいていた。俺が話しかけた瞬間彼女は、勢いよくほうきを床に落としそれを拾おうとして床に落ちていたぞうきんにつまずきそうになり、その勢いでロッカーの上に置いてあったじょうろを倒した。じょうろの中には水が入っていて床に水がこぼれてしまった。
「あっ…ごめん驚かせちゃって」
「ぜっ全然大丈夫です」
「床拭くの手伝うよ」
「大丈夫です。一人で拭けますから」
「でも俺のせいでこうなっちゃったから、手伝うよ」
俺はそう言って、ぞうきんを手に取り、床を拭き始めた。そうすると上野さんも一緒に拭き始めた。そして全部拭き終わったとき
「あっあのありがとうございました」
「上野さん。なんで朝掃除してるの?」
「えっと」
彼女は少しだけ考えていた。
「だってさ、放課後日直の班が掃除してるから汚れてないはずだけど」
「掃除してるとはいえ、隅々までではないですし、花に水やりは仕事じゃないからやってないと思いますし…」
「そっか」
「誰かそろそろ来ると思うのでこのことは誰にも言わないでください」
「うん。分かった」
彼女はそう言って、自分の席に座った。
そうすると、本当にクラスの人が来た。
「よっおはよう」
「あぁ、おはよう」
「今日も特に用はないのに来るの早いな」
「いいだろ、別に」
今日だけは、早く来てよかったと思った、
「なぁお前さ、上野さんのことどう思う?」
と小声で質問してきた。
「どうって?」
「どういう人だと思う?」
「うーん…なんでそんなこと聞くんだ?」
「だってさ上野さんって喋らないじゃん。だからどういう人なのかもわかんないっていうか」
「なるほど」
気になると言えば気になることだが気にならないと言えば気にならないかも。そんな質問だった。
「まあでも無口なだけだからそんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
「うーんじゃあお前上野さんに何で喋らないのか聞いてみろよ」
「なんで俺なんだよ」
「だってお前…暇だろ」
「なんだその適当な理由は…」
「いいじゃんいいじゃん。いつでもいいから聞いといて〜」
そう言われた次の日。
俺は上野さんに聞いてみることにした。
朝二人きりの時に。
「あのさ上野さん」
「何ですか?」
「なんで普段喋らないの?」
「えっとその……人と喋るのが、あまり得意ではないんです」
俺は何となくほかのことも聞いてみた。
「じゃあなんで音楽の授業に出ないの?」
その質問の答えは返ってこなかった。
上野さんは下を向いたまま何も言わなかった。
「答えたくないなら別にいいけど」
「えっと……私、自分の声があまり好きじゃないんです。それと、歌を歌おうとしても歌えないんです」
「そうなんだ。俺は上野さんの声綺麗だと思うけど」
「……ありがとうございます」
上野さんは下を向いたまま恥ずかしそうにしていた。
その日の昼休み俺は友達と屋上で昼飯を食った。
そいつとは幼馴染。クラスは違うが、たまに話したり一緒に帰ったりしてる。
そして俺は何となく上野さんの話しをしてみた
「あのさ、歌おうとしても歌えないってどんな感じだと思う?」
「はぁ?何だよ突然」
「いやその、俺のクラスにいる人でさ音楽の授業に出てない人がいるんだ」
「へぇ」
「だからどんな感じなのかなと思って」
「そんなの俺に聞かれても困るよ。俺もわからん」
「だよな」
「その子にさ、歌えるように一緒に練習しようって言ってみたら?」
「なんだよ突然」
「だってさどんな歌声か気になるじゃん?」
言われてみたらそうかもしれないけどよく分からなかった。
「それにお前その人のこと気になるんだろ」
「ちげぇよ!友達に何で喋らないか聞いてほしいって言われて…」
「ほんとか?じゃあ授業のことは?」
「授業に出ないのも気になったからついでに聞いてみただけだ」
「へぇーなんで喋らないんだ?」
「なんか、自分の声が嫌いなんだって」
「へぇー」
「お前、話聞くきあるのか?」
「あぁ、あるよ」
そう言いつつずっとスマホをいじっている。
「とりあえず…やっぱ誘ってみたら?」
「分かったよ…」
そして次の日の朝。
俺は上野さんに話しかけた。
「あの、上野さん」
「はい。なんでしょうか?」
「歌の練習…一緒にしない?」
「なんで、ですか?」
「えっと…今度音楽の授業でさ、歌のテストがあって…俺歌そんなに上手くないから、一緒にどうかなって思って…」
俺はだめもとで上野さんに聞いてみた。
「すみませんが、お断りします」
「やっぱりだめだよね」
「すみません…」
「もう一つ練習したい理由があるんだけど」
「何ですか?」
「えっとその、上野さんの歌聞きたいなって思って」
「……ホント、ですか?」
「うん」
「…じゃあ…一緒に練習、します」
上野さんは下を向きながら恥ずかしそうに言った。
「じゃあ放課後、屋上で練習しよう!!」
「はい…」
「あっ後俺の友達もいるんだけど大丈夫?」
「だっ大丈夫です」
「じゃあまた屋上で」
「はい…屋上で…」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
二人目の歌姫ということでまずは一人目の話です。
一人目はあと2,3話つずくと思います。
楽しみにしていてください。
後書きまで読んでくださりありがとうございます。
よろしければ他の作品も読んでいただけると幸いです。
それではまた。