これは魔法のチラシなんじゃよ……
【いざ!決戦の時は来た!勇者の仲間大募集、君も英雄になろう!】
もうこの時点で俺はぶっ倒れそうになったが、このままぶっ倒れても現実は何も解決しないので気力を振り絞って続きを読むことにした
『魔王が戦争を仕掛けてきてから、かれこれ色んなことがありました。最初こそは我々人類は物資や数に物を言わせ、魔物達と戦ってきましたが、5年経ち、10年を超える頃には兵は疲労し、物資は目に見えて減り、騎士は倒れ始める始末、しかし魔族は死者や恨み妬みの負が原動力、徐々に勢力は覆り、遂には為す術もなく、人類は滅びの道を迎えることになる……そんな時、女神マーテルが祝福した勇者の刻印を持つ赤子が王族より生まれ、我々は魔王に存在を知られぬよう、必死にその存在を守ってきました。
しかし、もう耐える必要は無いのです!その赤子は今では麗しく立派に成長し、今は亡き我らが国王の意志を継ぎ、今こそ起つ時、とのご決断をされました。つきましては、私達王国軍人事課は、我らが勇者様の旅のお供を募集しております。我こそ!という方は、是非こちらまで一度お電話下さい!』
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読み終えた後、俺は、ちらっと親父の顔を見ると、親父は俺の視線に気づいたのか、はたまた俺の言いたいことを先読みしたのか笑顔で言った。
「あ、もう電話ならしたぞ?」
「違うよ!それじゃないよ!?俺が聞きたいの!ねぇ、馬鹿なの?馬鹿なの?っていうか電話繋がったことにびっくりだよ!」
「明日、面接に本社まで来てくれだってさ」
「いや、だから!勝手に、話を!進めるなよ!?」
「なんだよ、どうせ働くのは父さんなんだから、別に何をしたっていいだろう?なぁ、結はそう思うよなー?」
さっきまで置いてけぼりで話を振られた結(俺が投げ捨てたチラシを拾い、でも漢字が読めないのか言葉の意味がわからないのか、辞書で何か引いてた)は話をふられたことに気づき、嬉しそうに賛同していた。
「うん!パパがとりあえず、英雄になるんでしょ?英雄ってあれだよね、偉いんだよね?私達、お金持ちになれちゃうね」
「おう、パパ頑張っちゃうぞ~」
英雄=偉い=お金持ち、な発想に若干ついていけないが、というよりこの馬鹿二人のテンションについていけないが、俺はとりあえずは諦めることにした。
どうせ、明日になったらこの馬鹿親父も現実を知るだろうし、何より母さんが怒るだろう。
「ん?というか母さんは?」
家についてからいきなり馬鹿話に以降したため、未だに玄関にいる俺達だが、そういえばさっきから普段なら家に居るはずの母さんが出てこない。
うちの母さんは基本的にマイペースなのだが、絆だとかそういうのを結構大切にする人で、こうやって家族が集まっているなら、基本的に姿を表すはずである。
俺が疑問に思っていると、結が答えてくれた
「ママなら、少し前に買い物に行ったよー」
「えっ、母さんはチラシ読んだのか……?」
「ううん?パパが帰るなり『仕事クビになった!でも新しい仕事見つけたぜ!今夜はごちそうだ!』って言って帰ってくるもんだから、ママ張り切って出で行ったよ?」
なんなんだろう、なんでうちの家族はみんなあの馬鹿親父の言葉を全部信用して鵜呑みに出来るんだろう、それで俺達結構後悔してるよね?この家とか自慢じゃないけど物凄いボロ屋だよね?てかうち貧乏だもんね?誰のせいとは言わないが。
俺の視線に気づいたのか、はたまた俺の言いたいことを先読みしたのか親父は言った
「そう言えば、面接会場、城の兵士詰所前ってなってるんだけど、城ってどこの城にいきゃ良いんだろうな?やっぱ江戸城かな?」
もしかしたら、親父もチラシの内容まともに読んでないんじゃなかろうか、としか思えない発言だった。というか、もう俺知らないよ。
そして、俺はまだチラシを読もうと必死に辞書を引いてる妹と、いや、もしかして大阪城かな?いやいや名古屋城かも……とかなんとかぶつぶついってる親父はほっておいて、自分の部屋に行くことにした。
自分の部屋に行く途中に、親父に「晩飯はすき焼きだから寝てたら晩飯残ってねーぞー」と言われた気がしたが、馬鹿すぎる話を聞いて精神的に疲れていた俺は、そのままベットに倒れるように眠ってしまったんだ。
そして、これが俺の住むこの日本での最後の夜となった。
次から、異世界突入です。