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story3

「前回のあらすじ。


豪雨の中仕事から帰ってきた主人公だったが、帰宅途中でマンションの鍵を落とした事に気付き道を戻る。


だがしかし、鍵を拾おうとした時に古き良き青春シチュエーション、 路地でパンこそくわえていないが少女とぶつかり倒れてしまう。


そしてラノベ系高校生男子にはたまらない展開、少女に抱きつかれて助けを求められる。


落ち着いて現状を確認する間もなく、当摩は四人のエージェントと対峙してしまった。


いきなりクライマックス感溢れる今現在。当摩の運命はいかに!」


言い切った当摩に対し彼以外の全員は目と口を開いて唖然としている。


そして当然ながら彼らの思考は完全に困惑していた。


(どうしよう。真顔でナチュラルに言い切ったせいで違和感が仕事してないどうしよう)


(しかも"前回"とか言っちゃったよ)


(俺ら、多分イナバウアーで有名な某映画のエージェント的な認識されてるんじゃないか?)


(しかもアイツどこに向かって言ったんだ)


四人のエージェントは当摩に背を向け、顔を見合わせひそひそと話し出す。


少女はただ黙ったまま当摩を見つめていた。


「それより、アンタ達この子の何だ 」


抱く手の力を強めながら当摩がエージェント達に睨みをきかす。

その三白眼に深い影を落とし身構える様は先程とは打って変わってシリアスな雰囲気を漂わせる。


「……お前には関係ない。ただその小娘をこっちに渡してくれれば危害は加えないと約束する」


エージェントの一人が当摩に向き合い冷淡な声で答える。

渡す気配が最初からないのを分かっての発言である。


「渡さなかったら?」


当摩が問えば、そのエージェントが袖からナイフを振り出す。

その刃は雨に濡れ外灯の淡い光を乱反射させ、鋭さを強調してくる。


「この警告を無視すれば容赦はない。何としてでもそいつは取り返す」


刃先を少女に向けながらエージェントが言った。

その直後だった。


当摩が少女を抱いたまま濡れたアスファルトを蹴り、一気に距離を縮める。


予想しなかった当摩の行為にエージェントの反応は遅れ、ナイフの刃先は獲物を捕らえるという役割を一瞬失う。

すぐに思い出したかのようにエージェントはナイフを振ろうとするが、それよりも早く当摩が行動を起こす。


エージェントの眼前に当摩の足が入り込んだと思えば、その手からナイフが離れアスファルトの上に落ちる。

ナイフを落とすため振り上げられた当摩の脚は、そのまま容赦なくエージェントを薙ぎ倒した。


派手に水しぶきを上げ倒れ込んだエージェントに他のエージェントが駆け寄る。

そして、再び目を見開いて当摩を見た。


その視線には驚愕と少しの恐怖の念が込められており、一番最初の彼のイメージは片隅に追いやられる程の衝撃を与えられていた。


濡れた前髪の間から倒れ込んだエージェントを見下ろす当摩の目は、刃物のような冷たさと鋭さを孕んでおり、雨による寒気とは違う身震いが彼らを襲う。


危険だと察知したエージェントは倒れた方を担ぐと後退していき、やがて夜の闇に包まれて消えた。


「ロリコンか……あいつらは」


今度見かけたらどんな名前をつけて呼んでやろうかと考えている当摩の服を少女が引っ張った。


「あの……」


「待て。話は聞くから一旦、俺の家いくぞ」


少女の言葉を遮り言うと、当摩は走り出した。


「そのびしょ濡れのまんまだと家にも帰れないだろ」


「…………」


当摩の言葉に少女は小さく頷くと彼の胸元に顔を埋め、目を閉じた。




────


豪雨の中を再び走ってマンションに帰った当摩は真っ先に風呂を沸かすと、少女を脱衣所に入れた。

そして風呂に入るように告げると当摩も玄関で重たくなった服を脱ぎ、部屋着に着替えた。


脱いだ服を洗濯機に放り込むと彼は深くため息をついた。


勢いのまま保護したはいいが先のことを考えていなかった自分に呆れながらガシガシと乱暴に髪を拭いていく。


……取り敢えずあの子が風呂から出たら、家の電話番号でも聞こう。


タオルを首にかけると当摩は玄関に向かい、郵便受けに入れておいたショルダーバッグを取り出す


そして部屋に戻ろうとした回れ右をした時だった。


静かな部屋にインターフォンが響いた。


少し驚きながら当摩は振り返り、そのドアの向こうにいるであろう人物が誰なのか可能性を巡らせる。


最悪のパターンでいけば先程のエージェント達であろう。

仮にマンションに向かう姿を見られていたりしたら尚更だ。


次に宅急便。

だとしたら何ら問題はないが、仮にエージェントが変装していたらそれもまずい。


思考を巡らせている間にももう一度インターフォンが鳴り、ドアが軽くノックされる。


「………………」


当摩はショルダーバッグを置くとなるべく物音を立てないようにドアに近付き、覗き穴を見る。


確かにドアの前に人は立っているが、どうやら当摩が予想した最悪の事態にはならなさそうだ。


安堵の息を吐く一方で眉を寄せるその顔は露骨に迷惑そうな表情である。


当摩はチェーンをかけたまま、ゆっくりとドアを開けた。


そこには猫耳のついたフードを被った赤いパーカーを着た男がいた。

当摩より歳を食っているその男はピンクと紫の縞模様のマフラーを巻き、フードから見える黒髪の左側にはピンクのメッシュを入れているという奇抜な格好をしていた。


だが、それをすんなりと着こなし年相応の風格を漂わせる男は金色にも見える猫目をスッと細め口をニンマリとさせる。


右手に木製のしゃもじ、左手に茶碗を持った手を掲げ、


「突撃!隣の晩御h」


最後まで言わせまいと当摩はドアを閉めようとするが、その直前に隙間に足を挟まれた。


舌打ちをしながら当摩は更に男の足を強く挟む。


「痛い痛い痛い!」


男はドアの隙間にしゃもじを持った手を入れ開けようとする。


「そんな今の世代に分からないようなネタを持ってこないで下さい」


「お前のエージェントも十二分に怪しいと思うよ!?」


「グ○れば分かります」


そう言いながら当摩はドアノブを離す。


今までの力が一気に男の方にかかり、だがしゃもじと茶碗は離すことなく後ろに転がった。


「っていうか何で龍二さんがエージェントのこと知ってるんですか?」


チェーンを外し、ドアから少し身を乗り出しながら当摩はその奇抜な男……羽山はやま 龍二りゅうじを見る。


彼も執行連で働くアリス・チームの一員であり、彼が着こなしている赤い猫耳パーカーは魔道具の一つ『チェシャ猫』である。


身体能力を飛躍的に上げるらしいが、当摩が実際にその能力を目にした事はない。


「偶々見てたんだよ……」


痛たた、と言いながら龍二は立ち上がる。

そして盛大に腹を鳴らしながら当摩ににじり寄る。


「頼むよ……俺の財布は完全に冬模様で空前の灯火なんだ……食わせてくれたらエージェントについて少し話してやる」


いい歳をして一体貴方は何をしているんですか、と当摩はため息をつく。

そして自分の冷蔵庫の中身は空だといいかけて口を閉じる。


今風呂に入ってる少女は果たして夕食は食べたのだろうか。

まだだとしても、何かしら食わせた方がいいかもしれない。


「……龍二さんの冷蔵庫にはある程度の食物はありますか?」


当摩が問えば、龍二の足が止まる。


「そりゃ一応……」


「それを持ってきてくれれば今からサービスで作りましょう」


「よっしゃあ!」


その言葉を聞いた途端、龍二の顔が輝きその場で小躍りをし始める。


「いやー神様仏様当摩様だ──」


「小躍りする暇があったらさっさと食物を取ってきて下さい。給料日前の財布の如く軽やかな足で」


「鬼だ!!」


ショックを受けたようで龍二は当摩を凝視するが、早くしないと飯作りませんよと言えば彼は走って自分の部屋に向かっていった。


大人気ない大人をどうにかし、当摩はドアを閉めるとキッチンに向かう。


冷凍していた米があるので、それを解凍して直に龍二が持ってくるであろう食物を使ってリゾットでも作ってやろうと考えていた時だ。


カチャリと脱衣所のドアが遠慮気味に開き、あの少女が顔を覗かせた。


当摩が貸した灰色のパーカーを着ているが、勿論サイズが合わず袖の部分がかなり余っている。


普通ならそれだけでもかなりの萌え要素だが当摩は全く動じず、少女の赤い目を見返す。


「あ、えっと……あの……」


目が合うと少女は顔を赤くし口ごもってしまい、わたわたとしている。


当摩は冷凍した米を取り出し、まな板の傍に置くと少女に近付く。


「……名前、言ってなかったな」


突拍子のない当摩の言葉に少女はきょとんとした顔をする。


「俺は当摩。鳴瀬 当摩」


しゃがんで少女との目線を合わせながら当摩が名乗る。


「……トーマ……?」


「そう」


いきなり名前で呼ばれるとは思わず少し狼狽えた当摩だが、ゆっくりと頷き少女が名乗るのを待つ。


少女は深呼吸を何回か繰り返すと、少しおどおどしながらも、


「わ……私は、一条いちじょう 詩月しづき……です」


とはっきり名乗った。


その様子にほっと息を吐くと当摩は詩月の髪をタオルで優しく拭いていく。


乱暴にしてしまうと直ぐに壊れてしまうのではないかと思わせる雰囲気を今の詩月は持っていた。


「……で、何か俺に用でもあったか?」


当摩が問いかければ詩月は少し口ごもったが、やがて少し恥ずかしそうに目を伏せながら言ってきた。


「えっと……パンツって、どうすれば……」


その言葉に詩月の髪を拭く手が止まる。


勿論、当摩は上に着る用にパーカーは用意していた。

しかし、流石の彼も下着──しかも女の子用のものは当たり前だが持っていない。


つまり、今の詩月は下を履いていない訳で。


────盲点だった。


詰んだその状況の中で、龍二が食物を持ってきたのであろう。


静寂の中に、インターフォンの音が響いた。

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