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17. 旅を終えた緋色たち

 アカメたちの旅が終わって、一年が経とうとしていた。

 マツホとリズと別れてからヒューゲルの街に戻ったアカメたちは、サマサに旅の報告をした。その後、サマサの提案でしばらくヒューゲルの街に留まることになった。

 サマサの宿の手伝いや街での仕事をしながら、アカメたちは日々を暮らしている。ユエとケルトはサマサの宿の手伝いに勤しみ、アカメも宿の手伝いの他に、ルーパスと街の周辺の村へも出かけて仕事を請け負っている。

 アカメは当初、さすがにずっと世話になるわけにもいかない、と考えていたが、なんだかんだと時は過ぎていき、あっという間に一年が過ぎてしまっていた。


「このままこの街に住み続けることになりかねないな」

「それじゃだめなの?」


 街へ買い出しに出ていたアカメの言葉に、一緒に来ていたユエが首を傾げる。

 今日は気温が低く、風も強いせいか街に人の姿は疎らだった。風に押されて転びそうになるユエの手をしっかりと握り、アカメは首に巻いたマフラーを口元まで引き上げる。


「迷惑じゃないかと思ってな」

「サマサは大丈夫って言ってたよ」

「それはそうだろうけど」

「アカメは、この街嫌い?」

「いや、そんなことはないよ」


 不安そうに見上げて来るユエに笑って答える。

 街が嫌いということはない。しかし、旅の途中で会っただけの人にこれ以上甘えていいのかアカメにはわからなかった。

 かと言って、行く当てがあるわけではなかったのだが。


「ねぇねぇ、今日ねマツホお姉ちゃんからお手紙返って来たんだよ」


 あれ以来、マツホとユエが文通をしているとアカメは聞いていた。

 ヒューゲルの街に戻って来てから、文字の勉強を始めたアカメと一緒にユエも学んでいて、サマサに助けられながらも文通を続けているという。アカメよりもずっと覚えるのが早いので、負けていられないなと密かに考えているのだが、最近はケルトにも追い抜かれそうだった。


「そうか。元気そうだったか?」

「うん! また遊びに来てねって書いてたよ!」

「そうだな。今度は温かい時に行こうか」

「うん!」


 繋いだ手を振りながら歩くユエに微笑んで、アカメは空を見上げた。

 鉛色の空から、真っ白な雪が降りて来ている。ユエも同じように空を見上げて目を輝かせた。


「雪降って来たね!」

「そうだな」

「積もるかな?」

「どうかな、さすがにヴァルトの街みたいには積もらないと思うけど」

「そっかー、じゃあ遊べないね」

「ユエは本当に雪が好きだな」


 アカメが笑うとユエも笑った。


「アカメ」

「ん?」

「魔女さん、元気かなぁ?」


 ユエが空から降りて来る雪を見つめて呟いた。


 リズと別れて一年。

 あれから彼女がどうしているのかアカメに知る術はなく、彼女からの連絡らしいものは何もなかった。マツホの手紙にも、リズのことは書かれていないそうなので、おそらく立ち寄ってはいないのだろう。墓参りに行くと言っていたが、無事に済ませたのだろうか。


「きっと元気だよ」

「本当?」

「あぁ」

「どうしてわかるの?」

「……なんとなく、な」


 旅人から聞いた噂では、ディスカラに効く薬が流通し始め、助かる者も増えてきたという。

 それが本当かどうかはわからないが、彼女なのではないか、とアカメは希望にも似た考えを抱いていたのだ。


「いつか宿にも来てくれるさ」

「そうだといいなぁ」

「もし来てくれた時は、ユエの料理を食わせてやるといい」

「え、なんで? 料理ならサマサの方が上手だよ?」

「いや、ユエの作る料理だってうまいからな。きっと喜んでくれるぞ」


 すると、ユエは一瞬ポカンと呆けたようにアカメを見上げて、それから顔を赤くして俯くと、アカメに抱きついた。


「うわっと」


 突然抱きつかれ、危うくバランスを崩しそうになったのを慌てて踏みとどまる。


「どうした? 疲れたか?」


 ユエはアカメに抱きついたまま、ブンブンと首を横に振る。

 わけがわからないアカメは、どうするかしばし考え、徐にユエの体に手を回して抱き上げた。驚いたユエは、慌ててアカメの首に腕を回す。


「ユエは軽いな」


 笑うアカメに、ユエは口を尖らせる。


「私、もう大人だもん」

「俺にはまだまだ子どもに思えるよ」

「私もうすぐ十歳になるもん、大人なのっ」


 ムキになって言うユエに、アカメはそうかそうかと笑いながら歩き出した。

 ユエは尚も不満そうにアカメに体を預けていたが、すぐに目を閉じてアカメの肩に顔を埋めた。

 出会った頃から変わらないアカメの温もりが、ユエを安心させる。もう当たり前になってしまったこの温もりが、ずっとそばにあればいいとユエは思う。当たり前になってしまったからこそ、同時に失うのがなによりも怖かった。


「アカメ」

「なんだ?」

「ずっと、そばにいてくれる?」


 唐突な言葉にアカメは目を瞬いてユエを見たが、すぐに微笑んでユエの頭を撫でる。


「心配するな、いなくなったりしない」

「本当?」

「あぁ、約束する」


 アカメのその言葉に、ユエはアカメの肩から顔を上げて小指を立てた。


「約束ね」


 アカメは自分の小指を差し出して、指切りをした。


「嘘をついたらどうなるんだ?」

「んーと、一週間ご飯抜きね!」


 力強く宣言したユエに、アカメは笑う。


「それは辛いな」

「だから約束破っちゃだめなんだよ!」

「あぁ、わかってる」


 指を離すと、アカメは買いだし用のバックパックを担ぎ直し、


「さて、日が暮れないうちに戻るか」

「うん!」


 ユエは頷いて、アカメにしっかりと抱きつく。

 その温もりを感じながら幸せそうに微笑んだ。

 どうか、この幸せが続きますように。

 小さな少女は心の中でそう願いながら、温かな腕に抱かれてそっと目を閉じた。

以上で「緋色のキセキ」はおしまいになります。

ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


2012.1 執筆

2013-2014 加筆・修正

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