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16. 純白の想い

「すみませんでした!」


 玄関先でマツホに頭を下げられて、アカメはマツホの肩に手を置いた。


「そんなに謝らないでくれ。ユエは無事だったんだから」

「でも、あの子を撃ったのは私ですから。本当にすみません」


 マツホは再び頭を下げた。

 アカメは弱って頭を掻きながら、話題を変えようと口を開く。


「それで、ユエは?」

「はい。容体も悪くなったりしてません。リズさんがずっと一緒にいてくれたので、安心してたみたいで夜もぐっすり寝ていました」


 それを聞いてアカメは安堵のため息をついた。


「あ、荷物はこっちの部屋に置いて下さい。両親が使っていた部屋ですが、掃除はしていますので」


 そう言うマツホに部屋の奥へと案内される。マツホの言う通り、きちんと掃除が行き届いた綺麗な部屋だった。


「どうも。なんだか、悪いな」

「いえ、せめて私にできることはさせてください」


 あの事件の後、ユエをマツホの家に預けて、アカメたちは一旦宿に戻って一泊した。

 マツホの家を後にする時、ユエがアカメたちと離れるのは不安だろうと、マツホは宿を出て家に泊まるよう提案していた。

 最初はアカメも断ったのだが、ユエのこともあり、結局押し切られる形で宿に戻った際に宿の人と話をつけられてしまったのだった。

 ベッドが二つ並んでいる部屋にバックパックとケルトのバッグを一緒に置いた。


「怪我が良くなるまで、ゆっくりしていってください」

「何か手伝えることがあれば言ってくれ」

「その時は、お願いします」


 マツホはそう答えて部屋を出て行った。

 アカメも部屋を出て、隣のユエがいる部屋に入ると、ケルトとルーパスがベッドの傍らに座って何か話していた。部屋の奥の椅子にリズが座ってその様子を見つめている。


「ユエの具合は?」

「そんなに深くなかったのは幸いよ。早く処置できたから、輸血がいるほど血も出なかったし。縫合してあるから、七日くらいで様子見て抜糸する感じね。それまでは大人しく寝ててもらわないといけないけど」


 さらっと答えてリズは部屋を出て行った。


「アカメー」


 ユエに呼ばれてアカメはベッドに歩み寄る。


「どうした?」

「手、貸して」


 ユエが手を伸ばしてきたので、アカメは不思議に思いながらもその手を握る。

 すると、弱い力だったが、ユエはアカメの手を引き寄せた。その手を自分の頬に寄せて、微笑んだ。


「アカメの手あったかーい」


 嬉しそうにそう言われ、アカメも微笑んでもう一方の手でユエの頭を撫でた。


「アカメ」

「ん?」

「アカメからもらったお洋服、だめにしちゃってごめんね」


撃たれたことで、ユエのワンピースは血塗れで穴も開いてしまっていた。今はマツホの服を借りている。

悲しげにアカメを見上げるユエに、アカメはそんなことか、と苦笑する。


「ユエが無事だったならいいよ。服は、また買えばいいんだからな」

「……うん」


 そんなやりとりを背中に、リズはコートを羽織って外へ出た。雪がちらつく中、家の横にある墓へ向かう。墓の周りには、まだ赤いまだら模様が残っていた。夜の間に降ったのか、薄らと雪を被っている。


「死に損ねちゃったなぁ」


 そう呟いて、墓の前にしゃがみ込む。


「リズさん」


 声に振り返れば、マツホが歩み寄ってくる姿が目に入った。


「何してるんですか?」

「……なんとなく」


 そっぽを向いてそう答えたリズの隣に、マツホがしゃがむ。


「寒くないですか?」

「平気よ。あんたは?」

「私は、慣れてますので」


 笑顔でそう言うマツホの顔をじっと見つめて、リズは墓に視線を戻した。


「あんたの両親に、どんだけ詰られるか覚悟して来たつもりだったのに」


 ポツリと漏らしたリズを、マツホは何も言わずに見つめた。


「もういないなんて、聞いてないわよ」


 リズは墓の前に置かれた造花にそっと触れた。


「あんたに殺してもらえるかと思ったのに、まさかあたしが助けた子に邪魔されるなんてね」


 誰にともなく、リズは言葉を吐き続ける。


「追いかけてくるなんて、思わないわよ普通」


 首から下げた緋色の石のペンダントを握りしめた。


「悪かったわね、人殺しさせようとして」

「……いえ、私の方こそ、ごめんなさい。ちゃんと話も聞かずに、動転して取り返しのつかないことをしてしまうところでした」

「あたしが煽ったんだから、あんたは悪くないわよ」


 あんたもお人好しね、とリズはため息をついた。


「……ちょっと、聞いてくれる?」

「え?」

「ムロのこと、っていうか……あたしたちのこと」


 マツホは僅かに目を見開いて、無言のまま頷いた。

 リズはその気配を感じ取ると、ぼんやりと墓を見つめながら口を開いた。



 ムロとの出会いは唐突な物で、道を歩いていたら突然声を掛けられたことがきっかけだった。

 医者をしているが人手が足りないから働いてくれないか、というものだった。見ず知らずの人間を助手として雇うなんて、と初めは思ったが、大したことはできないがそれでもいいならと了承した。

 今にして思えば、それは口実だったのだろうとリズは思う。

 そこはムロがやっていた個人医院で、ほとんど患者も来ず、助手を雇う必要もないようなところだった。ムロにそう言ってみると、こう見えていろいろ仕事があるから助かる、とヘラヘラ笑いながら言っていた。

 リズは薬の知識があったので、薬の処方はほとんどリズが行った。ムロは時々来る患者の診察をしながら、リズと他愛ない会話をして日々を過ごし、リズもその生活に慣れていった。ムロはリズの過去を詮索しなかったし、リズも話そうとはしなかった。

 そうやって過ごして一年が過ぎた頃に、リズはムロにプロポーズされた。

 付き合っている認識すらなかったリズには、まさに天変地異が起こったかのような衝撃だった。半ば強引なアプローチに、リズもうっかり頷いてしまったが、特に今までの生活が変わることなく、日々が過ぎていった。

 それでも、リズは幸せを感じていた。

 身寄りを亡くして修道院に預けられ、修道院が焼かれてモアと逃げのび、森を彷徨っていたあの頃には想像もつかなかった毎日だった。

 そんなある日、謎の病気にかかった患者が診察にやってきた。体の色が変色してきて感覚がなくなっていくようだ、と訴える患者に、ムロもリズも首を捻るばかりだった。次第に同じ病気で医院にやって来る患者が増え、死人も出て来るようになった頃、ムロの体にも同じような症状が見られ始めた。

 リズは薬の調合を急いだ。

 医院にやってくる患者に試作の薬を処方してはいたが、どの薬も効かず、リズは寝食を忘れて薬の調合に没頭した。

 自らの体にも病気を宿し、自身を実験体にしながら、やがて薬の効果でリズの体の病気は癒えていた。やっと薬ができた、とリズは急いでムロが寝ている寝室へ駆けこんだ。ムロは全身を病に蝕まれていたが、なんとかまだ生きていた。リズはムロに薬ができたから飲むように言うが、ムロはいつものようにへらへらと笑って飲もうとはしなかった。ムロはもう自分は助からないから、と諦めたように言うだけだった。

 ムロの緋色の目には、もう生気が感じられなかった。

 生きることを諦めている、とリズも察したが、尚も引き下がると、


「もう、このまま死なせてくれ」


 とムロは呟いた。

 リズはそれを聞いてもう何も言えなくなってしまい、薬を飲ませるのを諦めた。

 それから数日後に、ムロは息を引き取った。

 最期に会話をした時、故郷の家族へ宛てた手紙を届けて欲しいと頼まれた。街の名前と地図も一緒に置かれ、そしてこれまでにムロが稼いだお金の全てがまとめて置かれていた。

 この街からは遠いから旅の資金にしてくれ、とムロは笑いながら言っていた。



「あたしさ、ムロのことが好きだったのか、よくわかんないのよね」


 自分は彼を愛していただろうか、とリズは時々思う。


「あいつのこと好きだったなら、何が何でも助けたはずなのに、その言葉だけであたしも諦めちゃったのよ」


 リズは、未だ彼に薬を飲ませなかったことを後悔し続けていた。

 同時に、とても悲しかった。

 なぜ、一緒に生きようと思ってくれなかったのか。

 怒りよりも先に、それだけが悲しかった。


「兄は、バカです」


 耳に入った言葉にリズは驚いてマツホを見つめた。


「あの手紙を読んだら、兄がどれだけリズさんのことを大切に思っていたかわかります。そのリズさんを一人残して、勝手に諦めて、死んじゃうなんて……」

「……バカね。普通、ムロを見殺しにしたあたしに恨み言の一つでも言うものでしょ」

「そんなこと、言いませんよ」


 静かだが力のある言葉だった。


「手紙に書いてありました。リズさんに困ったことがあれば、助けてあげてほしいって。自分はもう何もできないからって」

「あいつがそんなこと書いてたの?」

「両親が死んだことを知らなかったみたいですから、両親にそう宛てていました」

「……そう」


 目を伏せたリズは、風に揺れる造花を見つめる。


「……わかってるのよ。あの状態で薬が効いて、助かったとして、後遺症がない保障はなかった。ムロ言ってたの、あたしに迷惑かけて生きるより、死んで自由にしてあげたいって」

「でも、リズさんの気持ちは違いますよね?」

「……そうね。たとえ体が動かせなくなったとしても、あたしはムロと一緒にいたかった。あいつが死んで、お葬式して、お墓に埋葬して……あいつがいない日々がこんなに寂しいなんて、初めて知ったわ」

「……じゃあ、リズさんは兄のことをちゃんと愛していたんだと思います」


 思わぬ言葉にリズは目を瞬いてマツホを凝視した。


「愛してもいない人がいなくなって、そんな風に思うはずがないです」

「……そうかしら?」

「そうです」


 意気込んで断言するマツホに、リズは思わず笑みを漏らす。


「悪いわね。気を遣わせて」

「そんなこと――」

「ありがとう。ちょっと、楽になったかも」


 リズはそう言って立ち上がり、コートについた雪を払った。踵を返して家へ歩き出したリズを見て、マツホも立ち上がる。


「お礼を言うのは、こっちの方です」

「え?」


 足を止めて振り返ったリズに、マツホは笑顔を向けた。


「兄のこと、愛してくれてありがとうございました」





 マツホの家に世話になって10日が経っていた。

 ユエの傷は順調に回復し、抜糸も問題なく済んだ。まだ痛みは残っていて激しい動きは制限されているものの、起き上がれるくらいには回復していた。


「あんたたち、これからどうするの?」


 リビングで唐突にリズが尋ねてきたので、アカメは首を傾げる。


「あんたたちの旅は、あたしに理由を聞くことだったわけでしょ? あたしがこんなこと聞くのもアレだけど、あんたたちはこれからどうするつもりなのよ?」


 アカメはテーブルに頬杖をついた。

 今、家主のマツホは街に出かけていて家の中にはリズと二人だけだ。ユエたちは外で雪遊びに興じている。

 ユエに激しい動きはさせないよう、ルーパスとケルトにしっかり言い含めておいたので、雪を触っている程度だとは思うが、それでも久しぶりに外に出られるのが嬉しかったのか、朝のユエは上機嫌だった。

 赤々と燃える暖炉を見つめながら、何と答えたらいいか考えていると、リズの冷たい視線が突き刺さった。


「何も考えてなかった、とか言わないでしょうね?」


 アカメは言葉に詰まってしまった。リズの言う通りだったからだ。

 それを察したのか、リズは呆れたようにため息をついた。


「呆れたわ」

「旅に出た時は、あんたに会うことしか考えてなかったからな」

「今まではそれでよかったんでしょうけど、これからのことを考えないと。ただでさえ、子どもを連れてる身なんだから」


 リズの言う通りだったので、アカメは押し黙る。

 これから先のことを考えなくてはいけない。もう、目標に向かってひたすら旅をする必要もなくなったのだ。


「ここにいつまでもお世話になるわけにもいかないんだから。あたしだって、もう少ししたらここを出るつもりだし」

「あんたはどこへ行くんだ?」

「さぁ。決めてないわ」


 アカメは目を瞬く。


「じゃあ、俺のこと言えないじゃないか」

「あたしは元々放浪してたんだもの。元の生活に戻るだけって考えれば簡単よ。問題はあんたたち。あんた一人と狼ぐらいならいいでしょうけど、あの子たちを連れているようじゃ、そう簡単なことじゃないわよ」

「……わかってる」


 その時、ドアが開いてマツホが帰ってきた。


「おかえり」

「おかえり、早かったわね」


 それぞれ声をかけると、マツホの表情が硬いのに気づいて、リズは怪訝そうな顔をした。


「何かあった?」

「あの……」


 マツホが目を泳がせる。


「領主様のところに捕まってた、魔女さんが……今朝、南の街に送られたって」

「……!」


 リズの顔色が変わった。アカメも思わず腰を上げる。


「本当か!?」

「街の人がそう話してました。馬車で連れて行かれるのも見たって」

「……そう」


 リズはそれだけ言うと、手を額に当ててため息をついた。


「教えてくれてありがとう」

「……いいんですか?」

「何が?」

「……お友達じゃ、ないんですか?」


 マツホの言葉に、リズは目を伏せて、


「そうね。昔からの仲よ。でも、あたしがどうにかできることじゃないし、あれはモアが望んだことよ。仕方がないわ」

「そんな……」

「怪我とか病気だったら治してあげられる。でも、宗教とか政治とか、あたしにはそれに影響できるだけの力なんてないのよ」


 リズはそれ以上何も言わなかった。マツホもアカメも、何も言えずに黙るしかなかった。

 その沈黙を破ったのはリズだった。


「ところで、あの子の傷の経過もよさそうだから、あたしはそろそろここを出ようと思ってるの」


 マツホが目を見開いた。


「えっ。そんな……ここにいてくれても」

「あたしはあんたの家族でも何でもない、ただの他人よ? いつまでも邪魔はできないわ」


 リズは笑いながらそう言って、


「これ、ムロの置き土産。旅の資金にしてくれって言われてたんだけど、ここまでの額は必要なかったから、妹のあんたに引き渡すわ」


 硬貨が入った袋をテーブルの上に置く。


「お世話になった分と、謝罪の気持ちと思って、受け取ってちょうだい」

「そんな……お金なんて」

「ムロが残してくれたものと言えるのはこれぐらいなの。受け取って」


 有無を言わせぬ調子で言って、リズはこれ以上話すことはないと言わんばかりに腕を組んで目を閉じた。戸惑った様子のマツホに苦笑して、アカメはリズに問う。


「あんたは、いつごろここを出るつもりなんだ?」

「あんたたちが出る時に一緒に出るわ。あたしのせいでここまで来させたようなものだし、見送るぐらいのことはするわよ」

「そうか……」

「決めたら教えてちょうだい」


 アカメは考える。

 自分たちがこれからどうするか。

 アカメには帰る故郷もないし、それはルーパスもユエも同じだ。

 ケルトはサマサがいるものの、彼らは家族ではない。

 話し合う必要があるな、とアカメは外から聞こえてくるユエたちの声を聞きながら、小さくため息をついた。





「ただいまー!」


 雪遊びを終えて帰ってきたユエが弾んだ声と一緒に家の中に入ってきた。それに続いてケルトとルーパスも入ってくる。


「おかえりなさい。寒かったでしょ、暖炉の前おいで」


 マツホはユエたちを暖炉の前に座らせ、温かいお茶が入ったカップを渡した。


「ルーパスさんは、熱いお茶は苦手ですか?」

「苦手というわけではないが、結構だ。気持ちだけ頂こう」

「はい」


 マツホは微笑んでその場を離れた。

 雪遊びをしたユエの手はすっかり霜焼けで真っ赤になっていて、ルーパスの真っ白な毛は濡れて萎んだようになっていた。


「ルーパスぺったんこー」


 ユエは笑いながらルーパスの濡れた毛を撫でる。されるがままになっていたルーパスは、ユエの脇腹に視線を移す。


「娘、傷は痛まないか?」

「平気だよーちょっと痛いだけだもん」

「えっ、それ大丈夫なのかよ!?」


 ケルトがギョッとして慌てたようにユエの肩に手を置く。

 そんなケルトを余所に、当の本人はのんびりとした調子で、


「大丈夫だよーちゃんと気にしながら遊んでたもん」

「それならいいのだがな」


 ユエはマツホに出してもらったお茶を飲むと、カップを置いて暖炉の火に手を翳した。


「あったかいねー」

「ユエ、また霜焼けになるまで遊んだのか?」


 アカメがそう言ってユエの背後に立つと、ユエは頭をもたげて背後のアカメを見上げた。


「アカメも座る? あったかいよー」

「そうだな。ついでに、少し話があるんだけどいいか? みんなに関係することだ」


 そう言ってアカメは腰を下ろした。


「これからのことについてなんだけどな」

「これからのこと?」


 ユエが首を傾げる。


「俺たちの旅の目的は、リズに会うことだったわけだ。でも、その目的ももう達成された。言ってしまえば、旅を続ける必要がなくなったんだ。いつまでもここにお世話になるわけにもいかないから、どうするのかを決めなきゃならない」


 ユエとルーパス、ケルトがそれぞれ困惑した様子で顔を見合わせた。


「俺が育った街は、お世辞にもいい所とは言えない。それに、帰る家があるわけでもない。ルーパスもそれは同じだと思うし、ユエもそうだ。ケルトだって、あの街に親がいるわけじゃないだろ?」

「……うん」

「ねぇ、サマサのところに戻るのはだめなの?」


 ユエが問う。


「魔女さんに会えたよって、サマサに教えに行こうよ」

「まぁ、それも考えたが、結局それが済んだらまたどうするんだって話になるしな」


 アカメは腕を組んでそう言うと、ケルトが身を乗り出した。


「じゃあ、とりあえずヒューゲルに戻るのか?」

「それもよかろう。主、一度ヒューゲルに戻り、そこからまた行き先を決めたらいい。大きな街だ、何かきっかけが見つかるやもしれんぞ」


 ルーパスの言葉にアカメはそうだな、と頷いた。


「行き当たりばったりで不安かもしれないが、とりあえずサマサさんのところに報告に戻るか」

「うん! ケルト、よかったね」

「あ、あぁ」


 嬉しそうなユエに、ケルトも照れたように笑って頷く。


「話はまとまった?」


 テーブルで頬杖をついているリズが尋ねると、アカメは振り返って頷く。


「とりあえず今の目標が決まったよ」

「そう」


 それを聞いて、リズは満足そうに微笑んだ。





 数日後、アカメたちは出発の準備を終えて荷物を持ち、マツホに別れを言った。


「元気でね。傷のこと、本当にごめんなさい」

「大丈夫だよ! もう治っちゃったもん。お姉ちゃんも元気でね!」


 ユエの頭を撫でて、マツホはアカメを見た。


「いろいろ、お世話になりました」

「いや、世話になったのはむしろ俺たちの方で――」

「いえ。本当に、ありがとうございました」


 マツホは困惑するアカメに頭を下げ、リズを見る。


「よかったら、また来て下さい」

「言ったでしょ、あたしとあんたは他人よ」

「いえ、家族ですよ」

「……ムロはもういないのよ?」

「それでも、兄が選んだ人ですから」


 リズはため息をつくと、いつかね、と答えて、マツホは頷く。手を振るマツホに手を振り返して、アカメたちは森を後にした。馬車が停まる場所まで歩く道すがら、アカメはリズに尋ねる。


「あんたは、これからどうするんだ?」

「さぁ、どうしようかしら。師匠とムロのお墓参りにでも行こうかしらね。報告も兼ねて」

「そうか」

「ねぇ、魔女さん! また会える?」


 ユエが魔女のコートを引いて見上げて来る。


「さぁ、わからないわ」

「あのねあのね、ヒューゲルの街にサマサがやってる宿があるの。ヒューゲルの街に来たら、そこの宿に来てね」

「その時にあんたたちがいるかわからないじゃない」

「それでもいいの!」

「……おかしな子ね」


 リズは苦笑してため息をついた。やがて馬車が停まっているところまで来ると、リズは足を止めた。


「じゃあ、ここでお別れね。元気でやんなさい」

「あぁ、あんたも」

「魔女さん元気でね!」


 笑顔で手を振るアカメたちに手を振り返し、アカメたちが馬車に乗って集発したのを見送って、リズは踵を返した。


「……モア」


 誰にともなく呟くと、南の街へと向かって一人歩を進め始めた。


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