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11. 旅立ちの朱

 次の日、アカメとユエ、ケルトは中間層の商店街に来ていた。

 数日続いた雨が嘘のように晴れ渡った秋の空。

 ルーパスに宿での留守番を頼み、アカメたちは旅の道具の買い出しのため、ケルトに案内をしてもらうことになった。

 まだ頭の傷は完治しておらず、包帯を巻いたままのケルトをユエは気遣いながら手を繋いで歩く。

 道行く人が度々そんな二人に奇異の眼差しを向けていたが、ユエは気にしなかった。

 ケルトの案内で、アカメは旅に必要な物をあれこれ揃えて行った。ケルトの案内してくれた店は、どこも安くて質のいい物を売っている店で、アカメは有り難く思った。

 両手に買った物を入れた袋を持ったアカメは、買い忘れがなかったか頭の中で確認する。


「大体揃った?」

「あぁ、そうだな。助かるよ、ケルト」

「アカメ、それ私が持つよ」

「いや、これは重いから……じゃあ、代わりにこっち頼む」


 アカメは軽い方の荷物を渡すと、ユエは嬉しそうに受け取って両手で抱く。


「あ、ケルト。ちょっとここで待っててくれるか?」


 そう言うと、アカメはユエと一緒に小さな雑貨屋に入っていった。

 あんな小さな店で買うようなものがあるのだろうか、とケルトは思いながら二人を待っていると、店を出てきたユエの手に荷物が増えていた。

 ユエが駆け寄って来て、その手に持った物を差し出してきた。


「はい!」

「え?」


 ケルトは不思議そうに差し出された物を見つめる。


「ケルトが持ってたの、壊されちゃったから」


 ユエが持っていたのは、今し方雑貨屋で買って来たらしい傘だった。

 深紫色の大きな傘をケルトは困惑した様子で見つめ、ユエとアカメを交互に見た。


「なんで?」

「ユエが、ケルトに傘をあげたいって言ってたんだ。壊してしまったのは自分のせいだって言ってな」


 アカメが代わりに答えた。


「受け取ってくれないか?」

「でも……」


 渋るケルトの顔を、ユエは不安そうに覗き込んだ。


「この色、好きじゃなかった?」

「そ、そういうことじゃねぇけど……」


 慌てて言うと、ユエは微笑んでケルトの手に傘を持たせた。


「……あ、ありがとう」


 照れたようにそう呟いたケルトに、ユエは微笑んで空いた手を繋ぐ。


「じゃあ、買い物も済んだし、戻るか」

「うん! ケルト、帰ろう」


 ユエに引っ張られるようにして、ケルトはアカメの後を追う。

 帰ろうと言える場所があるなんて何年ぶりのことだろう、とケルトは遠い記憶の中で微笑む母親の面影を思い出していた。

 口数が少ないケルトを気にしつつ、アカメは宿に帰るとサマサに一声かけて部屋に戻った。部屋ではルーパスがベッドの上に伏せて目を閉じていたが、アカメたちが入ってくると顔を上げて尻尾を振った。


「早かったな、主」

「あぁ。ケルトの案内のおかげで思ってたよりずっと早く済んだ」

「ルーパス、ただいまー!」


 ユエが荷物を置いてベッドに乗ると、ルーパスの体に抱きついた。嫌な素振りもせずにされるがままのルーパスは、ふと隣のベッドに座ったケルトの手にある物を見る。


「傘とやらを買ってきたのか?」

「私が選んだの!」


 ユエが楽しそうに答える。


「前のは折られてしまったそうだからな。ないと不便なこともあるだろうし」


 アカメもそれに付け加える。


「それで、主、情報の方は集まったのか?」

「それがさっぱりだ。街で見かけたという話は聞いたんだが、彼女の行き先がわかるような情報はなかった」


 買ってきた荷物の整理をしながら、アカメは苦笑する。


「では、どうするのだ?」

「どうするかな……」


 荷物をバックパックにまとめたアカメはソファに腰を下ろす。

 落ち着きなく視線を彷徨わせるケルトを横目で一瞥し、ルーパスがアカメに問う。


「主、はっきりと言ったらどうだ?」

「ルーパス」


 諌めるようにアカメはルーパスの名を呼んだが、ルーパスは構わず続けた。


「小僧、魔女の行き先に心当たりがあるのだろう?」

「……!」


 ケルトは体を強張らせた。ユエが不思議そうにルーパスとアカメ、ケルトに視線を移す。


「ケルト、魔女さんがどこに行ったか知ってるの?」

「……俺は」

「主は気づいていてずっと言わなかったのだ。何か考えがあったのだろうが、このままでは我らの旅に支障をきたす」

「ルーパス、それくらいにしておけ」

「しかし、主」

「いいから」


 アカメはソファから立ち上がって、ケルトの隣に腰を下ろした。


「言いたくないことを、無理に聞き出そうとは思わない」

「……」

「もちろん、知っているなら話してほしいとは思っているが、何か理由があるんだろう? 事情も知らない俺が、何か言うなんてできないからな」

「……ごめんなさい」


 そう呟いたケルトの声は弱々しかった。


「……俺、ユエみたいに年の近い奴と話すこととかほとんどなくて……だから、俺、すごく楽しかった……別れたくないって、思っちゃって……あの人のこと教えたら、この街を出て行っちまうと思って」


 ケルトの肩が震え始めたのを見て、アカメはそっとケルトの肩を抱く。


「ごめんなさい……理由なんて、ない……俺がただのわがままで……ずっとこの街にいて欲しいとか、思ったから」

「どの道我らはこの街を出るのだ、情報があろうとなかろうとな」

「ルーパス」


 先程より少し強い調子でアカメが言うと、ルーパスは不満そうに押し黙った。


「ねぇ、ケルトも魔女さんに助けてもらったんだよね?」


 ルーパスの隣でユエが問うと、ケルトは涙を拭いながら頷く。


「じゃあ、一緒に行こうよ。私も、ケルトと一緒にいたい」

「え?」


 思ってもいなかった言葉にケルトは顔を上げた。

 即座に不機嫌そうなルーパスの声が割り込む。


「おい、娘。世話をするのは主だ。これ以上主に負担をかけるのか?」


 ユエはハッとして不安そうにアカメを見る。


「アカメ……駄目?」

「俺はいいけど」


 あっさり答えたアカメに、ユエの表情が晴れた。


「主――!」


 鋭い声で言いかけたルーパスの言葉は、ユエの手で押さえられたせいで飲み込むことになった。

 その様子を苦笑しながら見ていたアカメは、ケルトの顔を覗き込む。


「旅の中で不自由させるかもしれないが、ケルトがそれでも来たいと言うなら俺は反対しない」

「俺は……」

「一度街を離れたらいつ帰って来られるかもわからないし、帰って来られないかもしれない。危険なこともあるだろうし、辛いこともあるかもしれない。ケルト、しっかり自分で考えてみるんだ」

「……」

「今すぐ決める必要はないからな。明日、答えを聞かせてくれ」


 アカメはケルトの肩をポンと叩いて立ち上がった。


「明日には街を出ることにする。サマサさんにそう伝えて来るよ」


 そう言い残して部屋を出たアカメを追って、ルーパスも部屋を出た。


「主」


 廊下でアカメを呼び止めると、アカメは苦笑しながらその場にしゃがんでルーパスを撫でた。


「お前の言いたいこともわかってるよ」

「なら――」

「ケルトが一緒に行きたいと望むなら、俺は俺に出来ることをしてやるだけだ」


 ルーパスは尚も不満そうに唸る。


「我は狼だ」

「うん?」

「人間と違って、主の助けとなることを何一つできぬ」


 それを聞いてアカメは苦笑した。


「そんなことを言うな。お前に助けられることはたくさんあるんだ。これまでも、たくさん助けられた」

「しかし――」

「自分が役に立ってないなんて思うな。そんなことないんだから」


 ルーパスはじっとアカメの目を見つめる。


「今回のように、また疲労が祟って主が倒れるかもしれんぞ」

「もう迷惑はかけないさ、無理はしない。それじゃ駄目か?」

「……誓ってくれるか?」

「あぁ、約束する。無理はしない」


 その言葉で、ルーパスはやっと納得したようだった。


「いつも苦労かけてすまないな、ルーパス」

「主のためだ。苦労だなどと思ったことはない」


 ルーパスは誇らしげに答えて、アカメの力強い手の感触にそっと目を閉じた。




 アカメから明日発つことを聞くと、その日サマサは気合いを入れて豪勢な夕食を用意した。はしゃぐユエとは対照的に落ち込んでいる様子のケルトを気にしながら、アカメもルーパスもサマサの料理を有り難く頂いた。

 食後のデザートも済ませ、片付けようとしたサマサにユエも立ち上がる。


「お手伝いする!」

「明日発つんだろう? 早くお風呂に入って寝ておきな」

「でも……」

「いいから、ね?」


 サマサに諭されてユエは渋々頷く。


「ユエ、ルーパスと一緒に先に入っててくれ」

「うん。ルーパス、行こう」

「娘、そろそろ一人で入ってもいいのでは――」

「えー、ルーパス洗うの楽しいのにー」


 ルーパスは何か言いたげにユエを見上げていたが、諦めたようにため息をついてユエと階段をのぼっていった。


「アカメも、早く寝るんだよ」

「はい、ありがとうございます」


 アカメが立ち上がったのを見て、ケルトも立ち上がろうとした時、


「ケルト、ちょっとここで待っててくれるかい?」

「え?」

「片付けが終わったら、ちょっと話があるんだよ」


 そう言い残して、サマサは厨房に引っ込んでしまった。

 ケルトは戸惑った様子でアカメを見上げると、アカメは微笑んで頭にポンと手を置いて食堂を出て行ってしまった。

 わけがわからないケルトは大人しく座り直してサマサを待つ。

 しばらくして片付けを終えたサマサが戻って来て、ケルトの向かいに座った。


「……話って、何?」

「傷の調子はどうだい?」


 てっきり旅に出ることを聞かれるのかと思っていたケルトは、困惑しながらも答える。


「……もうかさぶたになってるし、風呂入る時ちょっと痛いだけ」

「そうかい」

「……あのさ」

「うん?」

「金のことなんだけど」


 数日宿の世話になった分と、傷の手当てや医者に診てもらった分の代金を払わなければ、とケルトはずっと考えていた。

 しかし、手持ちの金額ではどう考えても足りない。


「俺……今すぐは無理だけど街で働いてちゃんと――」

「あんたは、ユエと一緒にいたいんだろう?」


 サマサの言葉に、ケルトは顔を真っ赤にして黙り込んだ。

 その様子を見てサマサはニヤニヤしながら頬杖をつく。


「青いねぇ」

「う……うるさいな」

「アカメから話は聞いたよ」


 サマサは続ける。


「あんたが一緒に行きたいなら責任を持つってアカメは言ってたけど、あんたはどうしたいんだい?」

「……どこまで、聞いたんだよ?」

「どこまでって?」

「……旅の理由、とか」

「聞いたさ。それと、あんたがあの写真の人に助けてもらったって話もね」


 話したのか、とケルトは視線を落とした。


「アカメとユエも、同じようにディスカラになって、その女の人に助けてもらったんだってね。 あんたと、同じように」

「……」

「アカメは、理由を知るための旅だと言ってたけどあんたはどうなんだい?」

「……俺さ、サマサの宿の裏で、倒れてたじゃん?」


 急に昔のことを話し始めたケルトに、サマサは不思議に思いながらも先を促す。


「俺、病気になった時、これで死ねるんだってちょっと安心したんだ。でも、病気になった途端、雇い主に目を抉られそうになった。俺の赤い目が珍しくて俺を雇った人だったんだけどさ、すごく怖くて必死に逃げた。生きたいなんて思ってなかったのに、すごく怖くて……逃げてきてサマサのとこに着いたんだ」


 そう言ってケルトは自嘲気味に笑う。


「サマサに助けてもらった時、すごく嬉しかった。俺に笑いかけてくれる人なんか、死んだ母さんしかいなかった。雇い主も、俺の目しか見てなくて、俺のことなんかどうとも思ってなかったみたいだったから。でも、駄目だと思った。あれ以上優しくされたら、死にたくなくなると思ったんだ」


 サマサはじっとケルトを見つめて話を聞いていた。


「街をふらついてた時、あの人に会った。変な格好してたから、旅人なんだろうなって思った。その人、俺の体見てすぐに俺を連れて貧困層の空き家に入って、薬をくれたんだ」

「薬?」

「何の薬か教えてくれなかったけど、これで病気が治るからって。だから、俺、薬なんかいらない、死にたいって言ったんだけど、いいからって無理矢理飲まされて、しばらくしたら本当に病気は治ってた」


 ケルトは病気の痕が残る首を撫でた。


「その人、行きたいところがあるって言って、そこへ行くには街からどの方向に行ったらいいかとかいろいろ聞いて来て、教えたらいなくなったんだ。なんで助けたのか聞く暇もなかった」

「じゃあ、あんたはその人の行き先を知ってるんだね?」


 ケルトは頷いた。


「俺、最初は余計なことしやがってって思ってた。あのままだったら、死ねたのにって思った。なんで、助けたんだって」


 ケルトはまっすぐにサマサを見て、


「俺、理由を知りたい。恨み言を言うつもりないけど、でも俺、何か言わなきゃいけないって思ってた。何言ったらいいかなんてまだわかんないけど、ずっともやもやしてて」

「そうかい。気持ちが決まってるなら、何を悩む必要がある? アカメはいいと言っていたし」

「……俺がいなくなったら、この宿は、どうなるんだよ」


 俯いたケルトの言葉に、サマサは口を閉じた。


「俺が倒れてたの助けてくれた時、サマサ大変な時だったんだろ……全然客来なくて、生活できなかったって……だから、俺、ちゃんと食わせてもらった分は払おうと思って金を持ってきたけど、サマサは受け取ってくれなかったじゃん」


 ケルトの膝に、ぽたぽたと涙が落ち始めた。


「それで、病気が治ったら案内の仕事もらったんだ。旅人が金落としてくれたら、サマサが助かるって……飯、食わせてくれたお礼の代わりに、なるんじゃないかって」


 乱暴に袖で涙を拭ったケルトは、顔を上げた。


「俺、サマサにまだ全然、してもらった分の半分も返せてないんだ……なのに、それ放りだしてなんか……」

「馬鹿だねぇ、あんたは」


 サマサは微笑んで、ケルトの頭をそっと撫でた。


「あんたがこの街に来た旅人を私の宿に案内してたのは気づいてたよ」

「……っ!」

「あのね、ケルト。確かに、何かをするにはお金がいるのかもしれない。でもね、無償で与えられる物に金を払おうとするのは相手に失礼さ。どこの世界に、子どもに食べさせたご飯の代金を要求する母親がいるんだい?」

「……でも」

「子どもに心配されるほど、この宿は柔じゃないよ。だから、あんたが心配することじゃないんだ。したいと思うことをしたらいい」

「……」

「私はもう十分、恩返ししてもらったさ。次はアカメに恩返ししな」

「……うん」


 ケルトが頷いたのを見て、サマサは立ち上がる。


「あんたも部屋に戻りな。朝ご飯も気合い入れて作ってあげるからね」

「……サマサと一緒にいたら、駄目か?」


 サマサはケルトを見下ろして目を瞬くと、すぐに笑みを浮かべてケルトの顔を覗き込んだ。


「その年で、まだ一人じゃ寝られないのかい?」

「ち、違ぇよ、そういうんじゃ……」


 狼狽するケルトの頭に、サマサは笑って手を置いた。


「冗談だよ。おいで」


 からかわれて口を尖らせているケルトを促して、サマサは食堂を後にした。




 出発の日の朝、サマサに振舞われた朝食を堪能したアカメたちは、荷物をまとめて部屋を後にした。

 食堂に顔を出すと、サマサとケルトが一緒にいたのでアカメは声をかけた。


「おや、もう行くのかい?」

「はい。いろいろお世話になりました」

「いいってことさ」


 笑って言うサマサに、アカメは硬貨の入った袋を差し出す。


「お世話になった分です」


 サマサは袋の中身を確認すると、徐に袋に手を突っ込んで半分ほどの硬貨を取り出すと、残りが入っている袋をアカメに返した。呆気にとられるアカメに、サマサは笑って硬貨をポケットにしまう。


「これで十分だよ」


 アカメが何か言おうとすると、サマサはケルトの背中を押してアカメの前に押し出す。


「この子を、よろしくね」


 ケルトの答えは朝食の時に聞いていたので、アカメは頷いた。


「お預かりします」

「ユエ、この子と仲良くしてやっておくれよ」

「うん!」


 元気よく頷いて、ユエはケルトの両手を自身の両手で包みこんだ。


「ケルト、これからもよろしくね!」

「……お、おぅ」


 顔を赤くして目を逸らすケルト。


「ケルト、これ持ってお行き」


 サマサが飴色の布でできたバッグを差し出した。


「使えそうな物を入れておいたから。あと、これを着て行きな」


 そう言ってケルトの体に黒いニットのパーカーを着せた。少しサイズが大きいので、丈と袖が長い。


「でかくないか、これ?」

「男の子はすぐ身長伸びるんだから、それぐらいでいいんだよ」


 サマサは笑ってケルトの肩にバッグを袈裟に掛けてやった。バッグについたベルトで、傘を支える。


「うん、よし!」


 満足げに頷いたサマサは、ケルトの頭を撫でた。


「写真、撮りましょうか?」


 アカメがカメラを取り出して、サマサとケルトをフレームに入れる。

 シャッターを押して、二人が映った写真を二枚撮ると一枚ずつ渡した。

 笑顔のサマサに少し恥ずかしそうにしているケルトの姿は、まるで親子のように写っていた。


「ありがとね、大切にするよ」


 サマサは笑って写真を大事そうに抱くと、しゃがんでケルトと視線を合わせた。


「元気でやるんだよ」

「……うん」

「アカメに迷惑かけるんじゃないよ?」

「……わかってるよ」

「あと、あんたはお兄さんなんだから、ユエのことちゃんと守るんだよ」

「……うん」

「ルーパスとも仲良くね」

「わかってるって」


 不貞腐れたように言うケルトの赤銅色の髪をくしゃくしゃにして撫でると、サマサは手を離して立ち上がった。


「じゃあ、行くか。ケルト」


 アカメがケルトの肩を叩く。ケルトは頷いて、写真をバッグに入れるとサマサに背を向けた。


「サマサ、また来るね!」

「あぁ、いつでもおいで」


 サマサに頭を撫でられて、ユエは嬉しそうに笑うと、踵を返してアカメとケルトの後を追った。


「わんちゃんも、元気でね」


 宿を出て歩き出そうとしたルーパスに声をかけると、ルーパスはサマサに振り向いた。


「主人、一つ言っておきたい」

「なんだい?」

「我は、犬ではなく狼だ」


 サマサはキョトンとして、数秒の間の後に声を上げて笑った。

 しゃがんでルーパスの頭を勢い良く撫でる。


「すまなかったね、わんちゃんなんて呼んで」


「わかれば良いのだ」

「気をつけるんだよ、狼さん」


 笑顔で手を振るサマサに背を向けて、ルーパスはアカメたちの元へ駆けて行った。


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