8話
「妖精の住む宿」からしばらく歩いたところ、大通り沿いに酒場「一華」はある。
近づくと中の喧騒が漏れ聞こえてくる。今日も変わらず繁盛しているようだ。
さて、どうしましょう。通りを挟んだ向かい側からライカは入口を眺め、思案する。
そしてしばらくすると真っ直ぐ酒場に向かって歩きだした。正面から行くしかないと判断したのだ。
「いらっしゃい!何にする? 今日のオススメは鶏肉の香草焼きだよ!」
中に入ると外とは比べ物にならないほど騒がしかった。お客はぱっと見ただけでも50人以上はいるだろう。皆顔を赤らめて大声で語り合っている。
素早く辺りを見渡し男を捜すライカに店員から声がかかった。
「いえ、食事は結構です。葡萄酒を下さい」
店内に視線を巡らしたまま答える。
「オッケー! じゃあ空いてる席に座ってね。持って行くから」
そう言って店員は他の客からも注文を聞きながら離れていった。
ずっと立っているわけにもいかないので、ライカは比較的店内がよく見渡せる位置にある隅の席に座った。そして注意深く辺りを見ながら、客の会話に耳を傾けた。
「なあ、騎士様が男をボコボコにしたり、少女に手を出したとかってあの噂、ホントだと思うか」
「さあなあ。でも騎士様がそんなことするとは思えないけどな」
「でも目撃したやつがいるって聞いたぜ?」
「それほんとかよ。誰が見たんだ?」
「そこまでは知らん。でも本当だったら怖いよな」
「騎士様ってめちゃくちゃ強いんだろ。襲われてるのを目撃しても助けに入れねーよ」
「無理無理。返り討ちにされるな、確実に」
「お前の女房って騎士を慕う会に入ってるって?」
「ああ、なんかすげーいっぱい会員がいるみたいでよ。しょっちゅう会合開いたりしてて、会報とかもあるんだぜ。実際に会えるわけでもないのに、なんだってあんなに熱くなれるのかねえ」
「じゃあさ、最近の例の噂のことも何か知ってるのか」
「いや、その話については何も情報がねえんだと。だが、慕う会の連中は誰もその噂を信じちゃいねえみたいだぜ。俺がちらっと話を聞いただけでも、騎士様がそんなことするわけないでしょ! ってえれえ勢いで怒られたからよ」
「ま、そりゃそうだろうな。ところでこないだうちの子供がよ……」
店員が持ってきた葡萄酒を飲むふりをしながら周りの会話を聞いていたが、大半の人間が噂を半信半疑に受け止めていると感じた。
(それほど噂は信じられていないようですね。それにしても、騎士を慕う会というのは何なのでしょうか……)
首をかしげて考えていると、男にしては高めだがどこか威圧感のある声が耳に入ってきた。
「その噂はほんとだよ。だって僕見たもの」
ライカは声の主を見極めるべく、視線を声のしたほうに向けた。
(あの男性のようです)
見つけた相手は、目立たないようにしてはいるが、よく見ると上質な生地で作られた平民服を身にまとっている20歳くらいに見える金色の髪に緑色の眼をした男だった。
(これが10人中7人が男前と答える顔なのですか。私にはよくわかりません)
顔の美醜に全く無頓着なライカなのであった。
男は先程まで噂について言い合ってた集団に近づくと、深刻そうな表情をして話しだした。
「第三騎士団の奴が若い女性を路地裏に無理矢理引っ張って行ったんだ。その後しばらくしたらその女性が路地裏から泣きながら走って出てきたんだよ。あれは絶対に騎士の奴が女性に乱暴したって僕は思ったね」
「ほんとかよ! じゃあ、城に行ってその事を訴えたのか?」
「ああ、行ったよ。でも揉み消されたんじゃないかな。だって国の護りの要である騎士がそんなことをしてたなんて認めるわけにはいかないでしょ」
「何だそれ。ヒデー話だな!どうにもなんねーのかよ」
「まあ、難しいかな。でも、城下の人間が皆で糾弾すればもしかするかもね」
「なるほどな!じゃあよ……」
話を聞いていた男たちがどうすれば騎士に罪を認めさせることができるかを話はじめる。
(ああやって噂を広めていたわけですね。……それにしてもあの男どこかで見たような気がするのですが)
しばらくすると、自分に注目がなくなったと感じたのか、男はそっと席から離れて出口に向く。
ライカも葡萄酒の代金を机の上に置いてから、男の後を追うために店の外へ出た。
仕事中なのでお酒は飲むフリですが、ライカはかなり強いです。
たまにフェリシアに付き合わされて飲んでます。




