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緋の扉  作者: 緋龍
彼女、あるいは彼等の何とか通常であろうとする日常
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番外話 彼等の特殊な趣向を凝らした一日

本編にちらっと出てきた騎士団長同士の試合の話です。

「会場の皆様! 大変お待たせいたしました!! これより騎士団長による特別試合を開始いたします!!!」


 うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!


 剣武大会の司会者が声を張り上げて、そう宣言した瞬間、場内は異常ともいえる熱気に包まれた。


「皆様、ご静粛に! ご静粛に願います!!」


 司会者の声は歓声にかき消されてしまい、誰の耳にも届いていない。だが、これは毎年のことなので、特に気にすることなく司会者は、鐘を鳴らす係に手で合図を出した。


 ごおおぉぉぉぉん……


 鐘の音を聞いてようやく観衆が静まる。


「では騎士団長の方々に登場していただきましょう!! まずは、第二騎士団長リオン・グレアス様!!」


「きゃああああぁぁぁ、グレアス様ああぁぁぁぁ!!」

「素敵いいぃぃぃ!! 蒼氷そうひょうの君いぃぃぃ!!」

「きゃああぁぁぁぁっっっ!!!」


 グレアスが武台ぶたいにあがると、女性の黄色い悲鳴のような歓声が沸き起こる。グレアスは彼女たちに手を振ったりすることもなく、試合を見ているレヴァイアに一礼をすると、中央に直立した。彼の表情はといえば、至って穏やか……ではなく青筋が浮き上がっている。その原因はもちろん……


「そして、第一騎士団長クレイ・ヴォード様!!」


「きゃあああぁぁぁぁ、紅炎こうえんの君いぃぃぃっっ!!」

「待ってました、ヴォード様っ!!」

「ヴォード様あぁぁぁ、こっち向いてくださあぁぁい!!」


 そう、グレアスの青筋の原因は彼だ。ヴォードは武台にあがってくると観衆に手を振りながら武台を一周し、レヴァイアに向かって大げさな身振りで礼をした後、グレアスと向き合う位置で止まった。


「ヴォード……今年も剣は使わないつもりですか」


 グレアスがこめかみをぴくぴくさせながら問いかける。彼の言うとおりヴォードは腰に剣を帯びていなかった。


「もっちろん。今年も剣以外の武器で戦うぜ。あ、何かは始まってからのお楽しみな」


 ヴォードはいたずらっ子のような笑みを浮かべている。


「陛下の御前だというのに貴方は毎回毎回! ……いいでしょう、貴方がその何かを取り出す前に叩き斬って差し上げます!」


「はっ、やれるもんならやってみな!」


 二人は試合が始まる前から火花を散らせている。


「あの……すいません団長様方。初めてもよろしいでしょうか……」


 司会者がおそるおそると言った感じで、二人の会話に割って入る。


「ええ、いつでもどうぞ」


「同じく、いつでも」


 睨み合ったまま二人は答える。


「わ、わかりました! では……始め!!!」


 司会者の合図とともに、グレアスは剣を抜きヴォードに斬りかかった。常人には確実に避けられない速さの一撃だったが、ヴォードはしっかりと彼の動きを読んでいた。さっと上に高く跳ぶと一回転をしてグレアスの後ろに着地する。


「あっぶねえなあ。今の結構本気だったろ」


 言葉とは裏腹にヴォードの表情は余裕そのものだ。


「当たり前です。さっき叩き斬ると言ったでしょう」


「そうだったな。じゃあ今度は俺の番だ!」


 ヴォードはグレアスに向かって走り出すと、背中に手を回して何かを取り出した。そして勢いよくその何かで攻撃を仕掛ける!ヴォードは突然伸びてきた黒い蛇のようなものを咄嗟に右に避けてかわした。


 ひゅっ、びしいぃぃっ!


「ヴォード……本気ですか」


「どうよこれ、格好いいだろう!」


 グレアスの声が呆れ気味になっているが、無理もない。ヴォードが手にしているのは鞭だった。彼が手首をしならせると、それに合わせて鞭も動き、ぱんっと音がする。


「そんなものを一体どこで……」


「武器庫の奥に眠ってたのを見つけたんだよ。昔の騎士は鞭を得物にしてたんだぜ、きっと」


「そんな話聞いたことがありません。何かの拍子に紛れたに決まってます。第一、鞭で戦うなど現実的ではありませんよ」


「へっ、夢がないねえ。じゃあ俺がこれでもちゃんと戦えるってことを証明してやるぜ!」

 

 言うが早いかヴォードはグレアスの足めがけて鞭をふるった。グレアスはそれを跳んでかわすと上段から斬りかかる。ヴォードは前方に転がって避けると、体勢を整えながら攻撃をしかける。  


「ヴォード様頑張ってええぇぇ!!」

「きゃああぁぁぁ、グレアス様あぁぁぁ!!」

「鞭をふるうお姿も素敵いぃぃぃっ!!」

「グレアス様のお顔を傷つけないでええぇぇっっ!!」


 どれくらいの攻防が続いただろう。二人はお互いの攻撃を全てかわしながら、相手に攻撃を繰り出している。尋常でない速さで動きまわっているのに息切れもしていない。全くの互角でいつまで経っても勝負がつきそうに見えない。観衆がそう思ったその時、今まで斬る動作しかしなかったグレアスが、突然剣を前に突き出した! 片膝をついていたヴォードは一瞬反応が遅れてしまい―――――


「きゃあああっ、ヴォード様ああっっ!」


 歓声が悲鳴に変わる。



「……ふう、今のは危なかったぜ」


 グレアスの剣はヴォードの顔の横すれすれにあった。彼は咄嗟に鞭を剣の柄に巻きつけ、その流れを変えたのだ。


「そこまで!!」


 レヴァイアの試合終了を告げる声が会場に響いた。


「あ~あ、今年こそお前に勝てると思ったんだがな」


「その言葉、そのままお返しします」


 二人はそんな事を言い合いながら武台の中央に並んで立つと、レヴァイアに向かって一礼する。試合中の緊迫した雰囲気は、もうどこにもなかった。


 うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!


 観衆の大歓声が沸き起こる。その声を受けながら二人は、武台をおりて控えの部屋へと戻った。





「……なかなかの試合だった」


 控えの部屋にはダレスがいて戻った二人にそう声をかけた。


「そうか? もうちょっと練習しとけばよかったぜ。そうすればグレアスの綺麗な顔に傷をつけられたのによ」


「……何なら今ここで試してみますか? 不可能だと思いますけど」


「いいぜえ、やってやろうじゃねえか」


「……いい加減にしろ」


「…………」

「…………」


 今にも試合を再開しそうだった二人は、ダレスの一声でぴたりと動きを止めた。


「俺は場内を見回ってくる」


 そう言ってダレスは部屋を出ていった。残った二人はというと、


「なあ、ダレスの奴、最近様子が変じゃね?何かあったのかな?」


「同感です。ですが、ただ聞いても答えてくれるとは思いませんね」


「それもそうだな……尾行してみるってのはどうよ?」


「きっとすぐ撒かれると思いますよ。それに、私たちにそんな暇があるとでも?」


「確かに、俺たち一応騎士団長だからなあ」


「一応の中に私を含めないで下さい。さあ、私たちも見回りに行きますよ」


「へ~~い」


 などという会話をしていたのだった。


特にオチがなくてすみません……。まだ番外編は続きます。

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