54話
今回は少し短くてすいません。次の話で終わる予定です。この話長かった……。
明日は小話部屋の方にまた短編をアップします。作者と誰かさんの妄想が爆発しております。小話部屋から妄想部屋にタイトルを変更した方がいいのかもしれません……。
からあぁぁぁぁん……からあぁぁぁぁん……からあぁぁぁぁん……
「これは夜三の鐘……随分時間が経ってしまいました。早く姫様のもとへ戻らなければ」
ダレスの腕の中でぼんやりとしていたライカが、鐘の音で我に返る。とりあえずダレスから離れようと体に力を入れると、彼はすんなりと腕を解いた。
「ダレス様、申し訳ございません。服に血が……」
ライカに言われてダレスが自分の騎士服に目を向ける。黒い服なので目立ってはいないが、確かに血が付着しているのがわかる。抱きしめたときにライカの服からうつったのだろう。
「問題ない。城に戻るぞ」
「は、はい」
ダレスは出口に向かって歩き出す。ライカも後に続こうと足を踏み出すと、突然ダレスが足を止め、ライカの方を振り向く。そして上着を脱ぐとふわりとライカの肩にかけた。上着の下には黒い袖のないシャツを着ており、彼の鍛えられた腕の筋肉が露わになる。
「無いよりはましだろう」
それだけ言うと再び出口に向かって歩き出した。ライカは最初、何故彼が上着をかけてくれたのかわからなかったが、自分の恰好を見るとすぐに理解した。
(確かにひどい恰好です……)
いくら真夜中とはいえ、万一誰かに見られないとも限らない。自分を気遣ってくれたのだと理解したライカは、彼の服に袖を通すと小走りで後を追った。上着はかなり大きく、そして暖かかった。
「ありがとうございます」
「いや……」
立入禁止区域を並んで歩く二人の姿を、月が静かに照らしだしていた。
「ライカさまああああ!!」
「キール、静かにしてください。真夜中ですよ」
ダレスが馬を「妖精の住む宿」に預けて徒歩で禁止区域に来ていたため、二人は城に戻る前に宿に寄ることにした。宿に着き馬小屋に行くとそこには、柵に持たれてうとうとしているキールの姿があった。ライカのことが心配でずっと外で待っていたのだろう。そっと名を呼んで起こすと、彼は二、三度瞬きをした後、ライカの顔を見ると泣きながら叫び声を上げた。
「うっうっうっ、お、俺ほんとに心配だったんすから!やっぱり俺も、一緒に行けば、よかったって、ずっとそればかり考えてて……ぐずっ。その団長さんが来た後も、俺も行こうって、思ったけど……ライカ様が待ってろって言った、から……」
キールは顔を涙と多少の鼻水で濡らしながら、切々と訴える。
「心配をかけて本当にすみませんでした。それと約束どおり手紙を届けてくれてありがとうございます」
「ひっくっ、ひっく……ライカ様に言われたことは、っく、死んでも守る、っす」
少し離れたところで黙って会話を聞いていたダレスの眉がぴくりと動く。
「キール……ありがとうございます。改めて来ますから、今日は帰ってゆっくり休んでください」
そう言うとライカはダレスの方に顔を向けて一つ頷く。それを見たダレスは馬を馬小屋から出し、さっと騎乗した。そうしてライカに手を差し出したので、彼女は一瞬躊躇してからその手を取る。ダレスは彼女を引き上げると自分の前に横向きに座らせた。
「わ、わかりました、っす。……ライカ様、それ血ですよね?怪我、してるっすか?」
キールはようやくライカがどんな格好をしているかに気づいた。今まではライカが無事だったということで頭がいっぱいだったが、よく見るとドレスの裾などに少なくない量の血が付いているのがわかる。
「いいえ、違います。これは私の血ではありません。頭を殴られはしましたが、それだけですので」
何の問題もありません。とライカは続けたのだが、その言葉は誰の耳にも届かなかった。ダレスとキールの態度が急変したのだ。
「殴られただと!すぐに戻って治療する」
「え、いえ、ですから」
「大変じゃないっすか!!早く城に戻って下さい!!」
「あの、問題ないと言っているので……」
「飛ばすからしっかり掴まっていろ!」
ダレスが手綱を操り馬に合図を出すと、馬は勢いよく走りだす。
「お気をつけてーー!」
走り去って行く二人の後ろでキールが手を振って叫んでいた。




