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緋の扉  作者: 緋龍
彼女、あるいは彼等の何とか通常であろうとする日常
57/61

53話

とりあえず血なまぐさい話はこれで終わります。

終わり方が若干中途半端ですが、他に区切れるところがなかったもので……。


 ―――――赤―――――あか―――――あか―――――


 ダレスが集会場の中に入って目にした光景は、そんな簡単な言葉であらわせるものではなかった。辺り一面に飛び散っている血、一目で生きてはいないとわかる死体の数々、血だまり、折れた剣、そして―――――


「ライカっ!」


 ダレスは中央に佇んで微動だにしないライカのもとに駆け寄る。だが、彼女は何の反応も示さなかった。彼の存在に気付いているはずなのに。


「おいっ、しっかりしろ!ライカ!」


 ダレスはライカの両肩を掴んで軽くゆさぶる。


「……ダレス、様?」


 ようやくライカが反応を返してきた。眼の中に光が戻ってくる。話し方もいつもの丁寧なものになっている。


「ああ。大丈夫か?どこか怪我をしているのか?」


 ダレスが心配するのも無理はない。ライカの全身は血にまみれていた。ドレスも元が何色だったのかわからないほど血色に染まっている。


「いいえ、どこも……これは、全て返り血です……」


「そうか……」


 ライカに怪我がないとわかってダレスはほっとした表情になる。血まみれの彼女を見て一瞬心臓が止まったかと思うほど驚き、そして最悪の結末が頭に浮かんだのだ。すなわち、彼女の死を……。


「ダレス様、どうしてここへ?」


 ライカが不思議そうに尋ねる。


「フェリシア様に呼び出された。お前に何かあったようだから助けに行ってほしいと」


 キールはライカに頼まれたことを忠実に実行していた。御者経由で手紙を受け取ったマールはすぐにフェリシアに報告したのだろう。そして事情を知っているダレスを呼んだ。


「そうですか……。では、この場所はキールからお聞きになられたのですか?」


「ああ。フェリシア様が「妖精の住む宿」にいるキールという男に聞けばわかるだろうと仰られたのだ」


 (姫様……)


 ライカはフェリシアに心配をかけてしまったことを心から申し訳なく思った。


「ライカ……これはお前がやったのか?」


 ダレスが辺りを見回しながら聞く。本当に一人でこの惨状を作り上げたのか、彼女が強いことはわかっているが俄かには信じられなかったのだ。


「はい……全て私が―――――」


 殺しました。そう続けようとした矢先、集会場の奥にある、いくつかの扉のうちの一つが勢いよく開け放たれ、一人の男が大声で叫びながら走り出てきた。


「死ねえええええっっ!化け物があああぁぁぁぁぁっっ!!!」


 この惨劇をどこかに隠れて見ていたのだろう。男は恐怖のあまり正気を失っているようだ。狂ったように剣を振りまわしながらライカに向かって来る。


「!!」


 ライカが素早く辺りを見渡し、落ちていた剣を拾おうとした瞬間、ダレスが彼女を庇うように前にでた。そしてすらりと大剣を抜くと、思い切り男を斬りつけた!


「ぐふぅっ!!」


 男は後ろに吹き飛び、地面に叩きつけられると、斬られた部分から大量の血を流して息絶えた。ダレスは一振りして刃についていた血を落とすと、剣を鞘にしまう。彼の漆黒の瞳には、明らかな怒りの感情が浮かんでいた。


「化け物……確かにその通りですね」


 ライカは自嘲気味に呟く。20人以上もの人間を傷一つ負わずに殺したのだ。なんの躊躇いもなしに。返り血を浴びながら、ただひたすら剣を振るい続ける自分の姿は、さぞや恐ろしいものであったであろう。 


「ライカ……」


「私は大勢の人間を殺めました……なのになんの感情も湧いてこないのです。後悔も、罪悪感も、謝罪の気持ちも。人を殺して何も思わないなんて……人間として間違っている……ダレス様もそう思われま―――――!!」


「ライカ!!」


 ダレスはライカを抱きしめると、彼女の名を叫んだ。


「ダ、ダレスさま!?」


 突然の彼の行動に、ライカは動揺する。離れようとするが、ダレスの力は強く、びくともしない。


「お前は人間だ……化け物などではない」


 ダレスはライカに言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡いだ。


「お前が理由もなくこんなことをすると、俺は思わない。何があったんだ?」


 ダレスが本気で言っているのを感じとったのか、ライカはぽつぽつと話しだした。


「……セアルグを哀れだとあの男は言ったのです。彼の成そうとしたことを馬鹿だと。確かに彼の考えは間違っています。……いえ、間違っていました。ですが、それは私のためであって、そのために彼は生涯をかけたのです!その気持ちを、想いを哀れと言われ……私は許すことができなかったのです……」


 こんな自分のことをずっと想っていてくれたセアルグ……。彼の想いを踏みにじるものは何者であろうと許さない。だが……


「その男のことを私は穢らわしいと吐き捨てました。ですが……一番穢れているのは私です」


 こんなにも私の手は血で穢れている。ライカは苦しげに呟いた。その声は震えていて、泣いているのかとダレスは思った。彼女が俯いているせいで、顔を見ることはできなかったが。


「……洗えばいい」


「え?」


 ぼそりと呟いたダレスの言葉にきょとんとして顔をダレスの方に向ける。


「手を洗えば汚れは落ちる」


「え、ええ」


 まだ彼の言っていることが理解できないライカは、戸惑いながら相づちをうつ。


「そうすれば穢れてなどいないだろう?」

  

 違うか?とダレスは少し首を傾げてライカに同意を求めてくる。


「…………ふふっ」


 ようやく彼の言わんとすることがわかったライカは、笑ってしまった。


「笑っているところを初めて見た」


 ダレスはなぜか少し顔を赤くしながら驚いている。


「も、申し訳ございません」


 ライカは慌てて謝罪した。


「いや、その……い、いいと……」


「??」


「な、なんでもない!」


 ダレスの顔は暗闇でもわかるほど赤くなっていた。


 


 


  






   

ダレスさあああああぁぁぁ(嬉泣

すいません、つい叫んでしまいました。

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