51話
下品な発言がありますので、ご注意ください。
立入禁止区域に入ったライカはフードを深くかぶり直し、慎重に辺りの様子をうかがう。月明かりでぼんやりと焼失した建物の残骸が浮かび上がる。いくつかの建物は倒壊せずに形を留めているようだ。
(この建物のどれかに襲撃者が……)
ライカはゆっくりと奥へと進んでいく。火事の前は設置されていたであろう街灯も燃えてしまったようで、禁止区域の中はかなり暗い。月の光だけが頼りだった。
黒く焼け焦げた建物を横目に、人の気配がないか捜し続ける。と、先にある建物で人影のようなものが一瞬動いたのが見えた。ライカは気配を殺して素早く近づく。
目標の建物に近づいてみてわかったのだが、どうやら住居ではなく集会場のような場所だ。丈夫に造られていたのか、煤けてはいたがほぼ完全な状態を保っていた。一階建てだが広さもそれなりにあるようで、人が集まるにはうってつけの場所だと思える。
(20人、いえそれ以上でしょうか、かなりの人数がいるようです)
ライカは気配を探るが、おおよその人数しかわからなかった。そこでなんとか中の様子を知ろうと集会場の入口に近づいた瞬間―――――!!
がんっ!
「ぐっ……」
ライカは後ろから突然現れた人物によって頭を殴られ、どさりと地面に倒れた。その拍子にフードが外れライカの顔が露わになる。
(気配はなかったのに……迂闊でした……)
「女ぁ!?しかもとびきりの美人じゃねえか。これはただ殺すのは惜しいってもんだよなぁ」
ライカは薄れゆく意識の中で、下卑た男の笑い声を聞いた……。
「う……」
ぴくりと体が動いてライカが目を覚ました。
(頭が割れるように痛いです。……それより何故私は生きているのでしょう)
ライカはぼんやりと意識を取り戻すと、状況を把握するために辺りを見渡した。暗くてよくわからないが、どうやらどこかの倉庫に寝かされているようだ。気を失う前に偵察した集会場かもしれないとライカは考えた。手は後ろで縛られていたが、足は自由だった。ライカが女性なのでそこまでする必要はないと思ったのだろう。
(今わかるのはこれくらいですね……しばらく様子を見てから対応を考えましょう)
逃げるのはいつでも出来る。捕まるのは想定外だったが、襲撃者たちのことを調べるには都合がいいとライカは判断した。そして靴の踵から暗器を取り出し袖の中に隠すと、暗闇の中誰かが来るのを待った。
「そろそろ、目え覚ましたか?」
ライカが意識を取り戻してからそう時間が経たないうちに、ばたんと乱暴に扉が開けられ、見知らぬ男が三人姿を現した。どの男もかなり鍛えているようで、逞しい筋肉をしている。それに三人とも腰に剣を帯びていた。ライカが観察していると、一人の男が近づいてきて彼女の前に屈みこんだ。男たちは今まで飲んでいたのだろう、目の前の男から強い酒の匂いがした。
「よお、べっぴんさん、お目覚めかい?」
(この声は、気を失う前に聞いた声によく似ています)
後ろから不意を突かれたので顔を見ることはできなかったが、聞いた声は確かに男だった。おそらく自分を襲ったのはこの男だろうと、ライカは思った。
「こ、ここは、どこ……です?貴方、たちは何者で、すか?」
ライカは怖々と男に質問した。もちろん演技だ。まともな返事が返ってくるとはあまり思っていなかったが、普通の女性なら聞くだろうと思ったのだ。
「ここはお前が覗こうとしていた建物ん中だ。そして俺たちは……救世主とその一行ってとこだな」
「お前が救世主って柄かよ!?」
「そうだぜ、せいぜい悪の親玉ってとこだろうが!」
「ふん、言ってみただけだろう」
ぎゃっはっはっはっはっはっと三人が下品な笑い声をあげる。思った通りまともに答える気はなさそうだ。
「こ、こんな場所で一体何をしてるのですか?」
目の前の男から少しでも離れようと後ろに後ずさりしながらライカは質問を続ける。こうして怯えたふりをして、相手に自分たちが圧倒的に優位なのだと思わせておけば、相手は油断してあっけないほどあっさりと情報を漏らす。話しても後で殺せば問題ないと思うのだろう。ライカはそんな人間を「闇」にいたころ大勢相手にしてきた。
「お前こそ何してたんだ?ここは立入禁止区域だぜえ?」
「わ、たしは道に迷って……」
「はん!嘘をつくならもっとましなことを言うんだな。王国兵が道を塞いでるのにここに来れるわけないだろ」
入口近くに立っている男が言い返してくる。ライカも同意見だった。
(確かにその通りなのですが……他に思いつかなかったのです)
心の中で言い訳をしたライカだった。
「まあ、いいじゃねえか、細けえことはよ。いいぜ、特別に教えてやるよ。俺達はな、国王を殺す計画を実行するために集まってるのさ!」
(!!)
「おい!言っちまっていいのかよ」
「こいつが誰かにばらしたらどうするんだ!?」
男の言葉に立っている二人が動揺する。それを見てライカは今の発言が真実だと確信した。
「誰にばらせるっていうんだ。こいつは死ぬ運命なんだぜ?まあ、その前に楽しませてもらうがな」
そう言うと男はまた下品な笑い声を上げた。どうやらすぐに殺さなかったのはそういう目的があったかららしい。
(低俗な人間だとは思っていましたが……救いようがないですね)
普通の女性なら絶望するところだが、ライカは呆れていた。セアルグはどうしてこんな人間を仲間にしたのか……ライカには理解できなかった。
「ど、どうして王様を殺すなんてこと……」
彼らはどんな理由があってセアルグと行動を共にしたのか知りたかった。
だから、聞いてみた。




