50話
昨日アップしましたおまけの話は「緋の扉 小話部屋」に移動しました。今後も本編と関係のない話はそちらにアップしますので、よろしくお願いします。
「ライカ様、見つけたっす!!」
剣闘祭3日目の夜、ライカが「妖精の住む宿」に行き何でも屋の受付に近づくと、キールが興奮した様子で走ってきた。依頼しに来た日とは違い、ライカはドレスの上からフード付きの外套を纏っている。それなりに怪しい人物に見えてしまうが、酔っ払いから声をかけられるよりはましだと思い、昨日からそうしていた。
キールに依頼した次の日の朝、予想していたとおりレヴァイアから「緋の扉」の先、審問場に呼び出された。依頼内容は、襲撃者の人数の把握およびその標的の割り出しだ。もちろん騎士たちも闘技場の警備を強化したり、城下で不審者がいないか見回りをしているが、あまり派手に動くと相手に警戒されてしまう。そこで、相手に警戒されずに動けるライカに頼みたいとのことだった。援護が必要ならダレスに言えとも言われた。
(どうしていつもダレス様なのでしょう?)
確かにライカのことを知っているのはダレスだけなのだが……何となく腑に落ちないライカなのだった。
「詳しい話を聞かせて下さい。ですがその前に部屋に行きましょう」
「はいっす!」
二人は二日前と同じ二階の部屋に移動する。中に入ると鍵をかけ、向かい合って座った。ライカは被っていたフードを取り、顔を露わにする。
「ではキール、報告を」
「はいっ!俺が集めた情報によりますと、どうやら襲撃者たちは城下南西の立入禁止区域を拠点にしていると思われるっす」
「立入禁止区域?」
「はいっす。この前火事があったじゃないっすか。幸い死者は出なかったっすけど、建物はかなりの数が燃えてしまったんすよねだから建て直すまでの間、国が立入禁止区域に指定したっす」
14、5日前に火事があったことをライカは思い出した。確か全壊、半壊あわせると被害は20棟ちかくに及んだはずだ。国が被害調査を行ってから建て直すことになっていたはずだが、剣闘祭直前の出来事だったため人手がまわらずに再建が遅れていると誰かが噂していた。
「そうでした。……しかしつい最近立入が禁止された区域の存在を、他国からきた人間が知っていたとは思えません。ということは、この王都にも仲間がいるということになります」
「俺も同意見っす。今日の昼間に禁止区域の近くまで行ってみたんすけど、通りには王国兵が立っていて中に人が入らないようにしていたっす。でも、住居の間に巡らせてある細い路地には兵士はいなくて、そこからなら入ることが出来たっす。ライカ様もご存知の通り、住居の間にある路地は複雑で、知らない者が入るとまず迷います。よその国から来て路地を迷わずに進めるということはこの王都の人間が教えたに違いないっす!」
キールの言うことはもっともだった。ちなみに王国兵とはその名の通り国に仕える兵士のことで、騎士と違い志願すれば大抵の人間がなれる。戦争になれば戦にも参加するが、基本的には町の治安維持を担っている。
「王都に仲間がいるというのは確実そうですね。しかし相手の人数などが不明だということに依然変わりはありません。危険かもしれませんが、禁止区域に行ってみましょう」
「え!今からっすか!?」
「ええ、そうです。本来ならばもっと時間をかけるべきなのですが、今回は時間がありませんので」
もう襲撃の日まで2日もない。一刻も早く情報が欲しかった。
「わ、わかりました!案内するっす」
「ありがとうございます。ですが、立入禁止区域の近くまでで結構です。中には私一人で入りますので」
「そんな、危険すぎるっすよ!俺も一緒に行くっす!!」
キールは、ばんっと椅子から立ち上りライカに詰め寄る。だがライカはキールの同行を許可しなかった。
「いいえ、貴方を危険な目に遭わせられません。それに貴方には頼みたいことが他にありますから」
俺だって多少は戦えるのに、キールは悔しそうに呟く。彼はライカの役に立ちたいのだ。だが、ライカの意見に逆らうことはできず、しぶしぶ承諾した。
「では行きましょう」
「はいっす」
二人は立入禁止区域に向かうため、部屋の外に出た。
「ライカ様、こっちっす」
キールが小声でライカを案内する。路地に入ってから何度も道を折れ曲がっていて、方向感覚に自信があるライカでも今自分がどの辺りにいるのかわからなくなりそうだった。まあ彼女の場合、いざとなれば住居の屋根に跳べば辺りを見渡すことができるので、迷うことはないのだが。
路地に入ってかなり経ったころ、キールが歩みを止めた。暗くてよくわからないがどうやら目的地に着いたようだ。
「着きました。ここを通れば立入禁止区域っす」
キールが指し示した場所は建物と建物の隙間で、かなり狭い。子供ならともかく、まず横向きにならないと通れなさそうだ。この場所を王国兵が知らないのもうなずける。よほどこの辺りに詳しくない限り見つけられないだろう。
「ありがとうございます。キールは宿に戻って下さい。そして、もし私が夜二の鐘がなってしばらくしても戻らなければ、この手紙を私が乗ってきた馬車の御者に渡して下さい」
ライカは懐から封蝋が施された一通の封筒を取り出し、キールに渡した。万一のことを考えて昨日用意したものだ。
「その手紙は私の身に何かあったことを知らせるものです。先ほど言いました時間には戻るつもりですが、もしものときはお願いします」
「ライカ様、やっぱり俺も一緒に行っちゃ駄目っすか?なんか嫌な予感がするんです……」
キールは手紙を受け取りながらも、再度ライカに同行を申し出た。敵の正体も人数もわからない場所にライカ一人で行かせることが不安でしかたないようだ。
「キール、私は貴方のことを信頼しています。だからそれを預けるのです。わかりますね?」
信頼していなければ大事な手紙を渡したりしない。キールになら任せられるとライカは信じているのだ。
「はい……」
信頼していると言われたキールはそれ以上言い返せなかった。
「では、行ってきます」
ライカはそう言うと狭い建物の間を通り、立入禁止区域へと入って行く。
「気をつけて下さいっす……」
キールはライカの姿が見えなくなってもしばらく動かなかったが、やがて気持ちを切り替えると来た道を戻って行った。




