49話
双子探偵もアップしましたのでよろしければお読みください。
夜一の鐘が鳴るのを聞きながら、ライカは城下にある「妖精の住む宿」へ馬車で向かっていた。
今日は任務ではないし、特に変装する理由もないため男装はしていない。庶民が好んでよく着る、動きやすさを重視した裾が足首までしかないドレスを着ていた。あまり目立たない濃い緑色一色の簡素なドレスなのだが、ライカの美貌までは隠しきれておらず、マールに言われて顔の半分を前髪で覆うようにしていた。同じくマールの進言で、セアルグにつけられた顔の傷も化粧で目立たなくしてある。
あの後、近衛兵に呼ばれて王族の部屋に戻るとすでに騎士団長の姿はなく、フェリシアとレヴァイアは剣武大会の観戦に戻っていた。そして今日の試合が全て終了すると、やや警戒を強めながら城へ戻って来た。フェリシアとライカは、すぐにフェリシアの私室でマールとエルに状況を説明した。ただ、ライカが「闇」にいたということについては話さなかった。二人(一人と一匹)にはセアルグに偶然狙われたと伝え、それ以上の説明は避けた。彼らことは信用しているが、何となく言いだせなかったのだ。フェリシアもそれについては何も言わなかった。
おそらく明日にレヴァイアから呼び出しがあるであろうと予測したライカは先にやれることはやっておこうと行動を開始した。キールに情報収集の依頼をするのだ。本当はもっと早くしたかったのだが、闘技場で捜すのは効率が悪すぎたので仕方ない。
「到着致しました」
御者に言われてはっとする。馬車の中で色々考えているうちにいつの間にか目的地に着いていたらしい。ライカは馬車を降りると御者にしばらく待ってるように伝え、「妖精の住む宿」の中へ入った。
中に入ってすぐにある食堂はかなり賑わっており、ほぼ満席だった。剣闘祭を見物に他の国から来たのだろう。あまり見かけない衣装を着ている者も少なからずいる。皆大声で話しあっていてかなり騒々しい。ライカは少し顔をしかめながら奥にある何でも屋の受付に歩を進めた。
「キール」
もしかしたら不在かもと思っていたが、幸いにしてキールは受付にいた。呼びかけると嬉しそうにライカに近寄ってきた。彼は大きめの白いシャツに黒いズボン、茶色の長靴という格好だった。
「ライカ様!いらっしゃいっす!」
「キール、居てくれて助かりました。急ぎ仕事の依頼をしたいのですが問題ありませんか」
「もちろんっす!問題なんてあるわけないっす!何でも言ってくださいっす!!」
キールはやる気満々で答えてくる。ライカは一瞬、彼の後ろにぱたぱたと揺れる尻尾が見えた気がした。
「あ、ありがとうございます。依頼内容を話したいのですがここは少し騒がしいので場所を変えてもよいですか?」
「じゃあ部屋の鍵をもらって来るので待ってて下さいっす」
キールは宿の受付にいる女将の元へ走っていった。何でも屋に依頼しにくる客のために、キールは宿の一部屋を常に借りていた。人に知られたくないことを頼みに来る客も多いからだ。
「お待たせしたっす。部屋に行くっす」
「ええ」
二人は二階の一番隅にある部屋まで移動した。キールが鍵を開けて扉を開く。
「どうぞっす」
ライカは中に入るとキールに鍵を閉めるよう頼んだ。そして部屋にある椅子に座るよう促す。キールが座るとライカも机を挟んだ向かいの椅子に腰をおろした。
「では依頼内容を話します。いつものことですが他言無用に願いますよ」
そう前置きしてからライカは今日あった出来事を掻い摘んでキールに話した。ただやはり「闇」のことには触れなかった。
「……ということで、キールには城下に不審な人物がいないか調べてほしいのです。もちろん騎士の方々も動くでしょうが、彼等は目立ちますので…」
「確かに。騎士たちが城下を大人数でうろつけば襲撃者たちに警戒されてしまう可能性は大っすね」
こちらが捜しているのが向こうに知れたら、襲撃計画を変更してくるかもしれない。標的も人数も不明な今の段階でそれは何としても避けたかった。
「ええ、そうなのです。だから貴方に敵の居場所を突き止めてほしいのです。おそらく宿か無人の家ではないかと思うのですが」
「わかったっす。とりあえず見かけない奴らが溜まってる場所がないか調べてみるっす」
「お願いします。明日の同じ時刻にまた来ますので」
そう言うとライカは部屋の鍵を開けて外に出た。一階におりて外へ続く扉に向かう。食堂の横を通り過ぎるときに何人かの酔っ払いの客から声をかけられたが、全て無視した。
外に出ると待たせておいた馬車に乗り込み城へ戻る。馬車の窓から空を見上げると、少しだけ欠けた月が静かに地上を照らしていた。
夜一の鐘は午後8時くらいです。




