47話
二人は階段を最上階まで一気に駆け上がり、廊下を走って王族の部屋を目指す。
(今後マールに廊下を走るなと注意できないですね……)
廊下を走るなど侍女にあるまじき行為だが今はそんなことは言ってられない。
部屋の前に辿り着くと、扉の両脇にいた近衛兵がぎょっとした顔で二人を迎えた。
「ダレス団長殿! それに侍女の方! 今までどちらに!? 陛下もフェリシア様も大変心配しておられましたぞ!!」
「…………」
近衛兵の一人が問いかけてくるのを、ダレスが無言目線で黙らせる。けして睨んでいるわけではないのだが、近衛兵の顔色が少し悪くなってしまった。
「入るぞ」
「はい、ダレス様」
ライカが扉をそっと叩いて入室することを告げる。
「失礼致します」
扉を開けると、中にいた人間が一斉にライカたちの方を向く。
「ライカ!!」
フェリシアが走ってきて勢いよくライカに飛びついた。驚きながらもライカはしっかりと彼女を受け止める。
「今までどこに行ってたの!? 氷菓を取りに行ってからもう一刻以上経ってるのよ! すっごい心配したんだから!!」
「はい、姫様。ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」
「ほんとですよー!私厨房まで捜しに行ったんですよ! そしたら割れた器を片づけてる料理人しかいなくて、ライカ様のこと聞いても誰も見てないって言うし! もう生きた心地がしませんでしたよう!!」
マールはライカが戻ってきたことに安堵したせいか半泣き状態になっている。
フェリシアはライカから離れると彼女が傷を負っていることに気がついた。
「ライカ、貴方怪我してるじゃない! 早く手当てしないと! マール、薬と包帯を用意してちょうだい。新しい服もね」
「はいっ」
「お待ちください姫様。まずは陛下と姫様にご報告申し上げなければならないことがございます」
ライカの手当てをしようとするフェリシアを止める。フェリシアの気持ちは嬉しかったが、今は傷のことより事の次第をレヴァイアに報告するのが先だ。ライカは振り向いて後ろにいたダレスに視線を送る。ダレスは小さく頷くと、部屋の中央付近で様子を見ていたレヴァイアに向かって歩いていき、近づくと跪いて頭を垂れた。レヴァイアの後ろにはレジーナが控えている。
「陛下、急ぎご報告申し上げたき件がございます」
「申してみよ」
「はっ。ですがその前に人払いをお願いしてもよろしいでしょうか」
「ふむ、よほど重要なことのようだな。私はてっきり……いや、何でもない。よかろう、ジナとマールは下がれ」
「畏まりました」
「はい、陛下」
レジーナとマールが一礼をして部屋から退出していく。本来ならライカも下がらなけれはならないのだが、今回は当事者のため部屋に残る。部屋の中はレヴァイア、フェリシア、ダレス、ライカの4人になった。
「で、何があったの?」
フェリシアがレヴァイアの隣に移動しながら問いかけてくる。ライカはダレスの後ろに控えた。
「はい、実は……」
ライカとダレスは厨房での出来事から襲撃計画のことまでを全て説明した。もちろんセアルグのことも。
「そのようなことがあったとはな。無事で何よりだ。ライカよ、辛い選択であったな」
「いえ……私に迷いはございませんでした」
「闇」の中で支え合って生きてきたライカとセアルグ。一人は「闇」から抜け出せたが、一人は「闇」に囚われ続けた。一度違えた道は二度と交わることはなく、二人は相反する立場になってしまったが、ライカに後悔の念はなかった。
「そうか……。ならばもう何も言うまい。その男、手厚く葬ってやるがよい」
「はい、陛下」
ライカは深く頭を垂れた。
「そのセアルグって男が集めたこの国に不満がある人物ってどれくらいいるのかしら」
フェリシアが真剣な表情で問いかけてくる。
「今のところ不明でございます。ですが10年という年月を考えますと、それなりの人数になるのではないかと推測致します」
「そうよね……。どうしましょうお父様、剣武大会を中止しますか?」
「駄目だ。絶対に中止はしない。そんな事をすれば大勢の民が悲しむであろう!」
「一番悲しむのはお父様なのでは?」
ライカとダレスも全くの同意見だったが、もちろん顔には出さない。
「そ、そんなことはないぞ! 私は民の気持ちを考えてだな……」
「はいはい、わかりました。じゃあ剣武大会は中止せずに襲撃を阻止する方法を考えましょう」
『畏まりました』
ライカとダレスの声が重なる。誰もレヴァイアの言い分は聞いていないようだ。
「ダレス様、申し訳ないのですけどグレアス様とヴォード様を呼んできていただけますか」
「はっ、承知いたしました」
「姫様、それは私の役目でございます」
ダレスに使い走りをさせる訳にはいかないと、ライカが異議を申し立てる。
「駄目よ、貴方はその間に傷の手当てと着替えをしなくちゃならないんだから」
「ですが……」
「それに、もうダレス様行っちゃったわよ」
フェリシアの言葉で慌てて扉の方を見ると、ちょうどダレスが扉を閉めるところだった。
「さっ、早く手当てしましょ」
言いながらフェリシアがライカの腕を引っ張って隣の部屋へ向かおうとする。
「あの、姫様?手当ては自分で出来ますので姫様はこちらでお待ちください」
「いいから、いいから」
ライカの意見は聞き入れられない。どうやらフェリシアはライカと離れたくないようだ。
「……畏まりました」
諦めたライカはフェリシアのために隣の部屋へと続く扉を開け、自身もその後に続いた。そうして、広い広い部屋の中はレヴァイア一人となった。
「何故誰も私の話を聞いてくれないのだ……」




