45話
ライカは真っ直ぐセアルグに向かって駆けだした。飛んでくる指弾を全てギリギリのところでかわす
。顔や腕に裂傷がはしったがライカは全く気にしなかった。頭の中にあるのはただ一つのことだけ。
お互いにあと少しの距離まで近づいたとき、セアルグがライカの真正面に指弾を放ってきた。避けなければ確実に致命傷になるはずのそれをライカは避けなかった。手にしていた暗器を放ち、向かって来た指弾を相殺するとそのままセアルグの胸に飛び込んだ―――――!!
ぽたっ……ぽたっ……
抱き合うようなかたちになった二人の間から紅いしずくがこぼれる。
「セー……レ」
ずるずるとセアルグがライカに寄りかかるように倒れる。セアルグの胸には小さな剣のようなものが突き刺さっていた。ライカは彼を抱きとめるとそっと地面に横たえた。ダレスが近づいてくるのが気配でわかる。
「ふっ……武器はいつも複数持っておけ……俺の教えたこと……だったな」
そう、ライカは持っていた暗器を放った後、セアルグの胸に飛び込む寸前に服の中に隠していた違う暗器を取り出していたのだ。
「何故、私を殺さなかったのですか」
セアルグなら可能だったはず。ライカは自分も殺される覚悟で懐に飛び込んだのに、彼はそれをしなかった。
「お前を……捜すのを諦めたとき……俺は…死のうと思った………でも死ねなか…った」
セアルグはライカの問いに答えない。苦しそうに、ただ自分の思いを吐き出していく。
「心の……どっかでは……生きているんじゃないかと……思って……ごふっごふっ………だから……国に復讐するためだと……自分に……言い聞かせて……今まで生きて……きた…」
それは命の灯火が消える前の最後の告白だった。ライカもダレスも黙って彼の言葉に耳をかたむける。
「城下で……お前を見たとき……俺の願いは叶っ……た……だが…城に仕えていると知って……俺は……俺はお前を……憎んだ……ずっと心の支えだったお前を……だから…これでいいんだ……」
そこまで言うとセアルグは一度目を閉じた。彼に残された時間はもう、ほとんどない。
「俺は……お前を……憎みたく……ない…ずっと……だったんだ……セーレ……会えてよか……った……しあ……わせ……に………な…………」
セアルグは目を開けてライカの顔に手を伸ばしたが、その手は彼女に届く前に地面に落ちた。
「兄さん……」
動かなくなったセアルグに囁くように紡いだ言葉は、彼に届くことなく風の中に消えていった。
「私も姫様に救っていただかなければ、セアルグと同じようになっていたのでしょうか……」
セアルグの傍に跪いたまま動かなかったライカが、ぽつりと呟いた。
あの時フェリシアと出会わなければ、国を恨み、騎士を恨み、復讐を心に誓っていたのだろうか。それともあのまま死んでいたのだろうか。……ライカにはわからなかった。
「さあな。だが、お前は今フェリシア様の傍にいる。それでいいのではないか」
ライカのすぐ後ろで動かない彼女をずっと見守っていたダレスが答える。
「そう、ですね。私にも心の支えになってくれる方がいる。今の私にはそれがとても大事なことだと理解できます。セアルグにも私以外のそういう存在がいれば、こんな結末にはならなかったのでしょう」
私のことなど早く忘れてくれればよかったのに。ライカはそう思いながら、死んだと思いこみセアルグを捜そうともしなかった自分を責めた。
「ライカ……」
再び黙ってしまったライカを慰めようとダレスが両腕を彼女に伸ばす。しかしダレスが触れようとした瞬間、ライカはすくっと立ち上りダレスの方を向いた。
「!!」
ダレスは驚きのあまり両腕が中途半端な位置のまま固まった。
「ダレス様、お時間を取らせてしまい申し訳ございませんでした。……ダレスさま?」
ライカが固まっているダレスを見て怪訝そうにする。
「い、いや何でもない。それより傷は大丈夫か」
宙に浮いていた腕を慌てておろすと、何事もなかったかのように話を逸らした。だがダレスの言うとおり、ライカの顔や腕の傷からは血がにじんでいて痛そうだ。
「はい、かすり傷でございます。ですが……」
ライカの表情が暗くなる。
「どうした?」
「姫様にいらぬ心配をおかけすることになってしまったと思いまして」
「ああ……そうだな。しかしありのままを話すしかあるまい。それに……」
今度はダレスが言い淀んだ。
「それに?」
「い、いや早く帰るぞ。闘技場を出てからかなり時間が経っている」
「??はい、そうでございますね」
それに自分も心配したと、本当は伝えたかったのだが、それを言うには彼の勇気が足りなかった。
ダレスさんを応援してくださっている方(そんなお優しい方がいらっしゃるのかわかりませんが)申し訳ございません。
なにかご意見がございましたら遠慮なくお申し出くださいませ。お待ちしております。




