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緋の扉  作者: 緋龍
彼女、あるいは彼等の何とか通常であろうとする日常
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41話

驚くほど中途半端なとことで終わってますが、わざとです……。

 誰もいない薄暗い廊下をライカは足音をほとんど立てずに進んでいく。廊下は鉱石を加工して造られており、絨毯が敷かれているわけでもない。足音を立てずに歩くというのは不可能なはずなのだが、なぜか彼女は自然にそれをやってのけていた。


 しばらく廊下を歩いて階段があるところで曲がった瞬間、今までなかった気配を突然間近で感じた。驚いたライカは咄嗟に隠してある暗器に手を伸ばして取りだしかける。


「っ!!!……ダレス様」


「!!!!ライカか」


 ライカが危うく暗殺しそうになった相手はなんとダレスだった。もっとも、驚いて武器に手を伸ばしたのは同じだったようで、彼の右手も剣の柄の上にあった。もしライカが反射的に殺そうとしていたとしても、おそらく防がれていただろう。


 二人とも気配を自然に消して歩いてしまうらしい。便利なのか迷惑なのか……微妙な能力だ。


「申し訳ございませんでした」


 ライカは一歩下がって頭を下げる。貴方を殺しそうになりました、とはさすがに言えなかった。


「いや、すまなかった」


 ダレスも気まずそうに謝る。剣に手をかけたことが後ろめたいらしい。


「ダレス様は隣の部屋におられたのでは?」


 騎士団長三人と部屋の前で別れてから、まだそんなに時間は経っていない。それに一応今日は隣の部屋で待機ということになっていたはずだ。


「ああ、これを取りにな」


 そう言って左手に持っていたものを掲げてみせた。それはパンなどの食べ物が入った籠だった。お昼にはまだ早いのだがどうやら小腹が空いたらしい。厨房へ行って用意してもらったようだ。


 それは別にかまわないのだが、部屋には彼らの世話をする侍女がいたはずで。


「侍女に頼まなかったのですか?」  

  

「彼女には世話は必要ないと言って下がってもらった。今頃試合でも観戦しているだろう」


 騎士団長に侍女は不要ということらしい。追い出したのはグレアスかヴォードか……おそらくダレスではないだろうとライカは思った。彼なら侍女を追い出すよりも自分が出て行くような気がしたのだ。


「左様でございましたか。では何かご不便を感じることがございましたら私にお申し付けくださいませ」


「…助かる」


 それでは失礼致します、とライカが一礼をして階段を下りようとすると、ダレスに呼び止められた。


「どこへ行く?」


 ダレスが他人の行動に興味をしめすとは思わなかったので、聞かれたライカは少し驚いた。


「私は氷菓を取りに厨房へ向かうところでございます。……ダレス様もお召し上がりになりますか?」


「いいのか?」


「はい。ではお部屋にお持ち致しますので、しばらくお待ちくださいませ」


「……いや、俺も行こう」


「え、いえ、ダレス様のお手を煩わせるようなことでは……」


 これまた思ってもみない発言にライカは戸惑いを隠せない。


「かまわない。これを置いてくるから少し待っていてくれ」


 そう言い残してダレスはライカの返事を待たずに部屋のある方へ歩いていった。


 (ダレス様があんなに喋る方だったとは知りませんでした)


 従者をしていたときも、「……ああ」や「……いや」など必要最低限の言葉が返ってくるだけというのがほとんどだったので、彼と会話らしい会話をしたのはこれが初めてかもしれない。


 実はダレスはかなり緊張してライカと言葉を交わしていたのだが、それを彼女が知ることはなかった。





 ダレスの言葉を無視して先に行くこともできないので、何故同行を申し出てきたのか?という疑問に答えを出そうと頑張っているとすぐに彼が戻ってきた。走ってはいないはずなのに驚くべき早さである。 

 

「すまない、待たせた」


「いえ……では参りましょう」


「ああ」


 本来ならライカはダレスの後ろに付き従うかたちで歩かねばならないのだが、歩調を合わせてくるので必然的に並ぶことになってしまう。けして不快ではないのだが、なんともいえない居心地の悪さのようなものをライカは感じていた。


 一階まで下りると厨房へと続く廊下を歩く。絶えず歓声が聞こえてくるので、試合が盛り上がっているのがわかる。


「ダレス様は今年の特別試合に出場されるのですか?」


「いや、今年はグレアスとヴォードだ」


 特別試合とは最終日に行われる騎士団長同士が戦う試合のことだ。三人のうちの二人が戦うことになっており、組み合わせは毎年違う。どのように決めているのかは公に知らされていないが、各団の副団長によるくじ引きというのがもっぱらの噂だ。


 試合といっても形式的なものなので勝敗がつくまでするわけではない。ある程度戦った後、王の合図で終了となる。なぜ勝敗がつくまでしないのかは言うまでもないだろう。そんなことをすれば闘技場が破壊されかねないからだ。


 狭い武台ぶたいの上で少し剣を交わらせるだけなのだが、それでも騎士団長の剣技が見られるまたとない機会だけあって、国民にはとても人気が高い。


「左様でございますか。ならば今年は一層盛り上がるのでございましょうね」


 ヴォードはいつも剣以外の得物で戦うのだ。一昨年出場したときは鉄鍋を振りまわしていた。


「そうだな。グレアスが嫌そうにしていた」


 まあ、鉄鍋を振りまわす相手と戦いたいとはあまり思わないだろう。


 などといった話をしているうちに、厨房の前に辿り着いた。


「すぐに用意してまいりますので、しばらくお待ちくださいませ」


「ああ、わかった」



 扉を開けて中へ入ると料理人の姿が見えなかったので、ライカは自分で用意することにする。


 棚から器を人数分取り出して台の上に置き、氷菓が保存されている金属製の箱を取ろうと振り返る瞬間、シュッという鋭い音とともに何かがライカめがけて飛んできた!


「――――っ!」


 反射的に身を捩って飛んできた何かをかわす。


 カシャァンンッッ!!


 その何かは置いていた器に当たり、硝子で出来ていた器が高い音をたてて割れた―――――


 

まあ何ていいますか、ヴォードさんはそういうノリの人なのです。

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