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緋の扉  作者: 緋龍
彼女、あるいは彼等の何とか通常であろうとする日常
44/61

40話

今第一部を修正中です。今のところそんなに変わってませんが、後半部分にそれなりに加筆するつもりです。作業が終わりましたらまた報告します。

 フェリシアたち6人は最上階の王族の部屋の前に戻ってきた。


「フェリシア様、先ほどの剣舞、素晴らしいものでございました。私は今も心が打ち震えております」


 グレアスが珍しく顔を上気させている。


「グレアスの言うとおりです。フェリシア様の舞は毎年美しいですけど、今年は美しいなんてものじゃなかったです。本当に女神が舞っているのかと思いましたよ!」


「見事でございました」


 ヴォードもダレスも、口々にフェリシアを褒め称える。言葉の数は大分違ったが。


「皆様ありがとうございます。今まで剣舞は得意ではなかったのですが、今年は自信を持って舞うことができました」


 フェリシアが一瞬ちらりと斜め横にいたライカに視線を向ける。ヴォードとグレアスは気付かなかったが、ダレスだけは気付いてすぐに意味を理解した。


「音楽も素晴らしかったです。いつもの賑やかな音楽も悪くはないんですけど、俺は今回の方が好きですね。奏者の腕が良かったからかもしれないけど」


 ヴォードは最後の言葉を言うときにマールを見ながらにっこり笑った。


「あ、ありがとうございます。きょ、恐悦至極にございます」


 マールは顔を真っ赤にして小さな声で答える。


「ん、んんっ、騎士団長の皆様お疲れ様でした。私は失礼させていただきますわ」


 フェリシアがわざとらしい咳払いをする。どうもヴォードを警戒しているようだ。


『はっ!』


 三人が揃って敬礼をする。性格は全く違う三人だが、フェリシアに対する絶対の忠誠心は同じだ。誰にどんな感情を抱いてたとしてもフェリシアの言葉を最優先とする……それが騎士なのだ。


 ライカに只ならぬ感情を寄せているダレスでさえもそれは変わらないだろう。……おそらく……多分……。





「やっぱり私の言った通りだったでしょう」


 騎士と別れて部屋に入ったフェリシアは、開口一番マールに向かって自慢げに言う。


 部屋の中にレヴァイアとレジーナの姿はなかった。バルコニーで試合を観戦しているのだろう。


「いえ……でも……ヴォード様が私なんか相手にするわけありませんよー。第一あの方って婚約者がいらっしゃいませんでした?」


「いるわよ。貴族の令嬢が」


 ヴォードは地方貴族の次男だ。もっとも騎士になったときに家の名は捨てたらしいが。


「だったら、やっぱり姫様の気のせいですよ。もし仮に一万歩くらい譲ってそうだったとしても、お断りしますから」


「あら、どうして?ヴォード団長は婚約者がいることを除けばかなりいいと思うけど」

 

 今度はヴォードを推すような発言をする。どうやら婚約者がいるということが彼を警戒する原因らしい。自分の大切な侍女が二股をかけられるなど許せない!ということだ。


「今恋愛する気はありません。だって姫様の侍女をしてるのが一番幸せですから!」


 でも人の恋愛話は大好きですけどね!とマールは続けた。彼女曰く、騎士を慕う会の会報を欠かさず読んでいるのは意中の騎士がいるからではなく、ただの趣味ということなのだそうだ。


「マール!」


「わっ、ひ、姫様!!」


 フェリシアは感激した様子でマールをぎゅっと抱きしめた。そして彼女を離すと、「嬉しいのだけれど、でも二人とももう少し恋愛に前向きになってほしいわ……特にライカは……はぁ」などと二人には聞こえない声でぶつぶつ呟いた。


「姫様、そろそろドレスにお着替えになられたほうがよろしいかと」


 二人の話を黙って聞いていたライカがフェリシアに進言する。恋愛に疎い彼女は二人の会話をただ聞くだけだった。


「そうね、着替えましょうか」


「では隣の部屋へ参りましょう」


 三人は先ほどレヴァイアがレジーナに連れて行かれた部屋へ移動して、着替えをすませた。





「やっぱりこの格好が一番落ち着きます!」


 マールは侍女の制服に着替えてほっとしたようだ。


「私は全然落ち着かないわ」


 フェリシアはマールと違って不満そうだ。彼女は全体に宝石がちりばめられた、豪華としか言いようがない式典用のドレスを着て、髪も複雑に結い上げられていた。化粧もやり直されており、対になった首飾りと耳飾りもつけている。


「式典用のドレスが重たく感じるわ。それに暑いし。先ほどまで着てたのが軽すぎたのね……」


 見栄え重視の式典用のドレスが重くて暑いのは仕方のないことだろう。生地を何枚も重ねているし宝石だって大粒のものがいくつも使われている。


「今日と最終日だけでございますのでどうかご辛抱くださいませ」


 初日と最終日は必ず観戦するようにしていた。ちなみにレヴァイアは毎年公務そっちのけで全日観戦している。


「まあ、毎年のことだから仕方ないわね。お父様のところへ行くわ」


 着替えていた部屋から元いた部屋に戻り、バルコニーに向かう。


 そこには楽しそうに試合を眺めているレヴァイアと、それを少し呆れた様子で見守るレジーナの姿があった。


「お父様、ただいま戻りましたわ」


 声をかけながら隣にあるフェリシア専用の椅子に座る。


「おお、フェリシア! 素晴らしかったぞ!! やはり私の目は間違いなかったな」


 レヴァイアがライカのことを言っているのだと、すぐに三人はわかった。


「ありがとうございます、無事に終わってほっとしてますわ」     


「お疲れ様でございました、フェリシア様。私も感動いたしました」


 いつの間に用意したのか、レジーナがフェリシアの横にある小さな机の上に果物水が入ったグラスをそっと置く。レヴァイアの横にある机の上にも同じものが置かれていた。どうやら琥珀色の液体は禁止されたらしい。


「ありがとう、レジーナ。……冷たくて美味しいわ」


 フェリシアはさっそくグラスを手にとり果物水を飲む。


「姫様、氷菓をお持ち致しましょうか?」


 バルコニーは太陽が当たらないようになっているが、それでもかなり暑い。


「そうね、お願いできるかしら」


「ライカよ、私の分も頼むぞ。この服は暑くてかなわん」


「承知致しました、陛下、姫様。ではしばらくお待ちくださいませ」


「ライカ様、氷菓なら私が持ってきますけど?」


 一礼して踵をかえしたライカをマールが呼び止める。


「いえ、私が行きますのでマールは姫様のことをお願いします」


 氷菓が置いてある闘技場の厨房はここからそれなりに遠い。緊張しすぎて疲れたであろうマール部屋に残すのライカなりの気遣いだ。


 ライカはもう一度礼をすると、部屋を出て厨房へと向かった。


 この後ライカの身に危険が迫ることを、誰も知る由はなかった……

次から話が急展開していきます。やっとライカさんが活躍できそうです。

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