39話
ようやく剣武大会が始まりました。次からは熱き男たちの戦い!・・・になるんでしょうか・・・?
双子探偵は数日お休みします。
ごおおおぉぉぉぉぉんん……ごおおおぉぉぉぉぉんん……ごおおおぉぉぉぉぉんん……
闘技場に低い鐘の音が響く。刻を告げる鐘の高く澄んだ音とは違い、この鐘は闘技場にいる人々の身体の奥深くにまで響き振動させる、そんな音をしていた。剣武大会の始まりを告げる鐘だ。
「フェリシア様、お心の準備はよろしゅうございましょうか」
グレアスが少し緊張を含んだ声で聞いてくる。騎士団長たちがこの場所にいるのはただ護衛だから、というだけではなく、この後彼女たちと一緒に会場に出る役目があるからだ。
「ええ、問題ないですわ」
そう応えてう~んと背伸びをするフェリシアからは全く緊張が感じられない。
「ひ、姫様……わ、私緊張で心臓が止まりそうです……」
マールは顔面蒼白で今にも倒れそうだ。
「マール、笛を吹くことだけに集中するのです。そうすれば観客のことは気にならなくなります」
「う……ひゃ、ひゃい!」
「大丈夫よ、マール。私もいるんだから。じゃあ行くわね」
「姫様、深呼吸をお忘れにならないで下さいませ」
ライカはフェリシアに剣を渡しながら助言をする。剣はもちろん今まで練習で使っていたものではなく、本物の儀式用の剣だ。
「ありがとう、ライカ。大丈夫、完璧に舞ってみせるわ!」
剣を受け取ってにっこり笑うと、闘技場の会場へと続く扉の前に立った。闘技場の警備兵が恭しく扉を開ける。すると開ける前から聞こえていた観客の声が一段と大きく聞こえてきた。
最初に騎士団長3人が扉の外へと歩みを進める。フェリシアは歓声に臆することなく凛とした態度で彼らの後ろを歩く。マールも深呼吸をすると顔を上げて後に続いた。
『フェリシア様~~~~!!』
『きゃああ~~~!!フェリシア様~~~~~!!!』
『「戦の護」さまあぁぁぁ~~!!』
『うおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!』
フェリシアたちが会場に姿を現すと、人々の興奮は最高潮に達した。声を張り上げてフェリシアの名を叫んでいる。
しかしフェリシアが武台と呼ばれる石で出来た正方形の台の上に上るとだんだんと声が小さくなっていく。剣武大会ではこの武台上で出場者が対戦するのだ。武台は会場に3つ設置されており、フェリシアは真ん中の武台の上にいる。
マールは武台のすぐ横に置かれた椅子にそっと腰かけ、横笛を取りだす。騎士団長たちは武台を囲うようにして一辺に一人ずつ決められた位置に立ちフェリシアの方に体を向ける。
観客はまだ少しざわついていたが、フェリシアが剣を構えると水を打ったように静まりかえった。
フェリシアがマールに目で合図を送る。それを受け取ったマールは横笛に口をあてがうと大きく息を吸い込み、息を吐き出すとともに音を奏で始める。
音はそんなに大きくないはずなのだが、不思議とその澄んだ音色は闘技場にいる人々すべてにはっきりと響き渡った。
フェリシアが音に合わせて舞い始める。練習が始まった当初とは違い一つ一つの動きが大きく、自信に溢れていた。動きにくい衣装をものともせず、軽やかに剣を振り、舞い続ける。
観客は呼吸するのも忘れて彼女の舞に魅入った。
最後に剣を高く放り投げ跪いて掲げた両手に無事剣がおさまり、マールの演奏が終わっても、しばらくの間誰もが息を止め身動き一つ取れずにいた。
それほど素晴らしい舞だったのだ。感動したという言葉が陳腐に思えるほど、観客たちは心の底から今見た光景に衝撃を受けていた。
フェリシアが立ち上り優雅に礼をすると皆がようやく我に返り、剣舞が始まる前よりもさらに大きな声で歓声を上げる。
うおおおおおぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉっっっっっっ!!!!!
その声は大地を揺るがすほどの大きなうねりとなって闘技場のみならず王都にまで響き渡り、フェリシアが武台を下りて会場を去った後もしばらく収まることはなかった。
「ただいまライカ。どうだった?」
出て行った時と同じ場所へと二人が戻ってくる。扉を開けている警備兵も興奮しすぎてか顔を真っ赤にしていた。
「お帰りなさいませ、姫様。素晴らしい舞でございました。マールもよく頑張りましたね」
「あ、ありがとうございます~!」
戻ってきたフェリシアからライカが剣を受け取る。フェリシアもマールも表情は満足そうだ。
ごおおおぉぉぉぉぉんん……ごおおおぉぉぉぉぉんん……ごおおおぉぉぉぉぉんん……
二度目の鐘が鳴る。これは王が開幕を宣言する合図だ。
ほどなくして、先ほどまでフェリシアたちがいた部屋のバルコニーに、レヴァイアが姿を見せたのだろう。収まりかけた観客の声が、再び大きくなる。
「皆悔いの残らぬよう、己の実力を出し切り全力で戦うがよい!これより剣武大会を開催する!!」
レヴァイアのよく通る声が扉の向こうから聞こえてくる。開催宣言と同時に観客の何度目になるか分からない大きな歓声と拍手が沸き起こった。
「始まったわね。ここにいても邪魔になるし、部屋に戻りましょう」
「はい、姫様。お召し物を変えられますか?」
「そうね、部屋で着替えるわ」
「畏まりました」
「私も侍女の服に戻ります~~」
ライカたちは再び騎士団長を護衛にして部屋へと戻って行った。
団長さんたちのカゲが薄い!!一緒にいるんですけどね……。一度にいっぱいの人間を登場させるのは難しいっす。




