3話
「ただいま戻りました、姫様」
ここは城の5階にあるフェリシアお気に入りの庭園だ。限られた人間しか入ることのできないこの庭園は静かで、読書好きな彼女は天気のいい日にはよくここで本を読んでいる。
「お帰りなさい、ライカ。今回は何をお願いされたの」
フェリシアは読んでいた本から顔を上げライカの方を見る。今日の彼女は真紅のドレスに身を包んでいた。黒糸で施された薔薇の刺繍が特徴だ。
「はい。例の噂について対処せよと申し付かりました」
「やっぱりね。最近城下はその噂でもちきりらしいもの。ねえマール?」
「はい、姫様!キールの情報ではかなり具体的に噂されているみたいですね」
マールと呼ばれた女の子が答える。彼女は5年前に城下で、双子の弟のキールと奴隷商人に連れて行かれそうになったところを、たまたま目撃したライカによって助けられた。両親を幼いときになくしており、犯罪まがいのことをして生活してきた彼女たちを、ライカは保護し、真っ当な生活ができるよう手助けしてあげた。
のだが、二人は恩返しがしたいとかなり強引にライカにせまり、困った彼女がフェリシアに相談したところ、あっさりと私の侍女になればいいと言ったために、ライカと共に働いている。
当たり前だがキールは侍女になることができないため、城下にある宿屋で何でも屋の仕事をしながら、過去に培った(犯罪まがいのあまり褒められたものではない)能力を駆使して、ライカのために城下の様々な情報を集めている。
ちなみに、二人で心に誓っていることが「ライカ様のためなら火の中水の中!たとえ死んでも守護霊となってついて行きます!」であるのをライカはまだ知らない……。
さらに余談だが、二人を連れ去ろうとした奴隷商人は組織全員が捕まり、死よりも恐ろしい罰が与えられたという。
「今回ハ我ノ出番ハナサソウダナ」
ふいにフェリシアの座っている椅子の後ろから、人間のものとは違う声がした。
「あら、もしかして起こしてしまったかしら、エル」
「イヤ、寝テハオラヌ。大地ト同調シテイタノダ」
そう言って姿を現したのは、一般的なものより一回り大きな姿をした深緑色の狼。もちろんただの狼ではない。彼は王都の南東にある、原初の森と呼ばれるところに住む地の民だ。彼らはみな知能が高く、人語を話すことができる。
普段は原初の森奥深く、人の入れぬ地に住んでおり、ほとんど伝説と化している一族なのだが、たまたま森の入口近くにいたところ運悪く人間に捕まり、王に献上された。いや、正確にはされかけた瞬間に檻から逃げ出し、走り回ったあげくたどりついたのがこの庭園だった。
初めはそこにいたライカたちを敵とみなしていたが、話すうちに敵ではないと判断し彼女たちにここまできた経緯を説明した。
ライカは彼に原初の森まで送ると言ったのだが、地の民のなかでも特に変わり者だった彼は人間の生活に興味が湧き、しばらくここにいると言ったために陛下に許可を取り、ここに住んでいる。
ちなみに、ここに彼を連れてきた馬鹿な貴族は王の怒りを買い、表舞台から消されたのであった。
「そうですね。今回は人間が相手なので、エルには姫様の護衛をお願いします」
「フム。承知シタ」
地の民は好戦的な種族ではないが、戦闘能力はとても高く、本気になれば騎士団長並かもしくはそれ以上なのではないかとライカは密かに思っている。
「今日の夜一の鐘が鳴った後城下に行きますので、マールは今からキールのところに行って、できるだけ情報を集めるよう伝えてきてください。特に騎士団のことを悪く言っている人物や普段は見かけない人物がいないかどうか。そのあたりを重点的にお願いします」
たった数刻で多くの情報を集めるのはそう簡単なことではないが、城下に詳しいキールならば可能だろう。
「はーい、ただちに行って参りまーす!」
そう言ってマールは飛ぶように去っていった。
もう少し落ち着いて行動してくれるといいのですが……ライカは彼女が躓いてこけていないか少し心配になった。
なかなか話が進まなくてすいません・・・。
夜一の鐘は午後8時くらいです。




