35話
ちょっと思いついたので、緋の扉の外伝という形でもう一つ小説を書き始めようと思います。マールとキールが主人公のなんちゃって探偵話です。かなり軽い話になる予定。近日中にアップしますので、よろしければお読みください。
「おはようございます、姫様」
「おはよう、ライカ。ついにこの日が来たわね」
今日は剣闘祭初日。フェリシアが闘技場で剣舞を披露する日だ。天気は快晴で、空を見上げれば抜けるような青空が広がっている。
フェリシアは自室で朝食を済ませると、剣舞の衣装に着替え髪と化粧を整える。髪には白色の布が編み込まれており、化粧は普段より濃い仕上がりだ。
「何だかここまで化粧すると別人みたいよね」
フェリシアが自分の顔を鏡で見て呟く。
「舞台用の化粧でございますので。お気に召さないかもしれませんが、ご辛抱下さいませ」
「わかってる。それでマールの方はどう?」
フェリシアと同じように着替えした後、化粧をしているはずのマールに問いかける。
「ちょ、ちょっと待って下さい……なかなか上手く出来なくて……」
マールは少し離れた場所でこちらに背を向けて化粧をしていた。ライカは出来栄えを見ようとフェリシアの傍からマールの正面に移動する。
「マール、何か問題で……も……!!!」
「ふえ~~ん、ライカ様~~……」
マールの顔を見たライカは思わず絶句してしまった。彼女の顔は化粧の仕方を完全に間違えたようで、美しいとはまるで反対の、見るも無惨なものへと変貌を遂げていた。
「ライカ?どうしたの? 身体が震えているわよ。寒いの?」
今の季節は夏で、朝とはいえ寒いわけがない。もちろん病気になったわけでもない。ライカは怒りで身体を震わせていたのだ。
「マール!! 顔を洗いなさい!今すぐです!!!」
「はっ、はいいいぃぃぃっっっ!!!! ごめんなさいいいぃぃ!!!」
「ちょ、ちょっとライカ、何をそんなに怒って……??!!!!!」
顔を洗うために椅子から立ち上って振り向いたマールを見て、フェリシアも一瞬言葉を失う。マールは水が置いてある隣の控室へと走っていった。
「い、今の……マールよ……ね? 一体どうしたらああなるのかしら?? …………うぷぷ……くふふふふふふふ……」
フェリシアはしばらくあっけにとられていたが、マールの顔を思い出したのか変な笑い声をあげ始めた。
「姫様、その笑い方はお止め下さいませ」
「ご、ごめんなさい。堪えようとしたのだけど、が、我慢できなくて。……ぷぷ……ぷぷぷ」
(確かにあの顔は衝撃的でした……一生忘れることはないでしょう)
あの顔を子供が見れば泣きだしてしまうかもしれない。それほどマールの顔はすごかった。
しばらくして、化粧を洗い落したマールが戻ってきた。
「も、申し訳ありませんでした……」
ライカに怒られたのがショックだったのだろう、今にも泣き出しそうだ。
「だ、大丈夫よ。誰にでも失敗は……ふふ……あるもの。気にしちゃだめよ……ぷふふ」
フェリシアが慰めの言葉を言っているのだが、笑いをこらえながらなので説得力が全然ない。
「ひ、姫様……やっぱり酷かったですよね、私の顔……」
はあっ、っと溜息とつくとマールはしょぼんと項垂れる。
「マール、落ち込んでる時間はありません。椅子に座ってください。私がしますので」
「え、でも……」
「早く座って下さい」
「は、はい!」
急かされてわたわたとマールが椅子に腰かけると、すぐに顔に化粧を施し始める。
「目を開けてはいけませんよ」
ライカは手際よくマール顔を彩り鮮やかに仕上げていく。
「はい、目を開けて鏡で確認してください」
ゆっくりと目を開けて鏡を覗き込むと、そこには先ほどとは全く別人の顔が映っていた。
「う、嘘みたい。これが私……」
「とっても綺麗よマール!」
「あ、ありがとうございます、ライカ様!!」
「誰でも最初は上手くできないものです。徐々に覚えていけば問題ありません」
「はいっ!頑張りますっ……!」
マールは今度は嬉しくて涙が出そうになる。
「泣いたらせっかくの化粧が台無しよ。がまんがまん」
「……はい、姫様」
「髪も整えますので、また動かないでくださいね」
「お願いします」
ライカがマールの髪を結い終わった、ちょうどその時部屋の扉が叩かれた。
マールには黒色の布が編み込まれており、全体的に大人っぽい仕上がりになっている。
「失礼致します。お時間になりましたので一階までお越しいただけますでしょうか。騎士様もお揃いになってございます」
扉の外から城仕えの侍女と思しき声が聞こえてくる。
「ありがとう。すぐに行くと伝えて頂戴」
「承知いたしました」
フェリシアが返事をすると侍女が部屋の前から去って行ったのが気配でわかった。
「では行くとしましょうか」
「はい、姫様」
「ううっ、緊張してきました~」
「そう? 私はマールのおかげで大丈夫だけど」
「それって、さっきの顔のことですよね。ひどいです、姫様!」
忘れたい過去ダントツ一位のことを言われ、マールがぷくうっと顔を膨らませる。
「ごめんごめん。でも緊張は解けたんじゃない?」
「え? ……そうですね、さっきより落ち着いたかも」
「でしょ。さあ、行くわよ!」
『はい!』
三人は扉を開けて騎士が待つ城の入口へと向かう。
年に一度の剣闘祭の幕が上がる―――――
マールの顔がどんな状態だったかは、皆様のご想像にお任せしますです。




