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緋の扉  作者: 緋龍
彼女、あるいは彼等の何とか通常であろうとする日常
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34話

 それからのフェリシアは真剣に剣舞の練習に取り組んだ。最初の3日間もけして不真面目というわけではなかったのだが、グレアスに会ってからの彼女は心の底から上手くなりたいと思って毎日剣を握っていた。


 「恋の力ってやっぱり凄いですね!」


 フェリシアの一心不乱に剣舞を舞う姿を見ながらマールが言っていたことをライカは思いだす。知識として恋愛というものを知ってはいたが、それだけだ。人を愛したことがないライカには、今のフェリシアの気持ちを理解することができなかった。


 (恋・・・とはそれほど人を変えてしまうのでしょうか。私にはわかりません)


 ライカは、グレアスに会って幸せそうにしているフェリシアを見て、嬉しく思うのと同時に、ほんの少し寂しいと感じた。なぜ自分がそんな感情を抱いているのか、いくら考えてもわからなかったが。





 ライカが自分の感情に疑問を抱いている間も日々は過ぎていき、いよいよ剣闘祭まであと5日を残すばかりだ。


 フェリシアの剣舞も上達し、最後の部分を除いてほぼ完璧に舞えるようになっていた。剣を投げて受け止める練習はいつもの庭園でしていたが、成功する確率は五分といったところだった。


 マールの横笛に合わせて舞うことも今では自然にできる。最初のころは音に身体がついていけず、苦労していたが。


 そのマールは、剣闘祭でも自分が吹くのだとライカに知らされて、驚きの声を城中に響き渡らせていた。彼女は自分が吹くのは練習の間だけで、当日は城付きの楽師が演奏するのだとばかり思っていたからだ。ちなみに去年までは、剣舞の講師お抱えの楽師が演奏していた。


 数万人の観衆の前で、しかも一人で演奏するという大役を言い渡されたマールは、力の限り拒否したが、当然受け入れられるはずもなく、泣く泣く承諾したのだった。


 それからのマールは、夜遅くまで練習しているらしく目の下に隈ができはじめた。日に日に酷くなっていったので、ライカが夜練習することを禁じたが。そんな猛特訓の成果が実り、マールは一流の楽師に勝るとも劣らない音色を奏でられるようにまでなった。


 

 今日は剣闘祭で着る衣装の最終確認の日のため、午前中は練習がなかった。自室でのんびりとくつろいでいたフェリシアは、城仕えの侍女が衣装屋の到着を知らせに来たので、応対室へ移動することにする。


 フェリシアの私室の一階下にある応対室へ三人が入ると、衣装屋の店主である年配の女性と針子が二人大きな荷物を携えて彼女たちの到着を待っていた。


 「お待ちしておりました、フェリシア様」


 店主がそう言って深く頭を下げる。針子の二人も店主と同じように礼をした。


 「ごきげんよう。どうかしら衣装の方は。問題なくて?」


 フェリシアがドレスを作るときは、いつもこの店主に頼むので気さくに話しかける。


 「はい、早速お着替えをお願い致しますわ。マールさんもお願いしますね」


 「は、はい!」


 剣闘祭で演奏するとき侍女の姿のままというわけにもいかないので、マールの衣装も用意してもらっていた。針子の手を借りてマールが着替え始める。ライカはフェリシアの着替えを手伝う。


 フェリシアの衣装は練習のときに着ていたのと同じで、ゆったりとした白色のドレス。袖と裾の部分が金糸で縁どられている。腰には長い金色の布が巻かれ、一旦後ろで結んだ後残りの部分を両腕に掛けていた。


 マールも似たような衣裳だったが、色は黒色で袖と裾には銀糸が使われていた。腰には何も巻いていない。


 「いかがでございましょう、フェリシア様」


 「そうね、いい出来だわ。ライカはどう思う?」


 フェリシアが、くるっと一周回って見せる。動きに合わせてふわりと広がる裾が、とても美しかった。


 「とてもお似合いでございます。マールもよく似合っています」


 「ありがとう。ほんと、マールもよく似合ってるわ」


 「ありがとうございます~!!こんな綺麗なドレスが着れて幸せです~!」


 着慣れないドレスをあちこち触っていたマールは、フェリシアとライカにそう言われて嬉しそうにする。  


 「店主、いつも素敵なドレスをありがとう」


 「もったいないお言葉でございます」


 「またドレスを作るときはお願いね」


 「いつでもお申し付け下さいませ。では私どもはこれで失礼させていただきます」


 「ええ、ご苦労さま」


 衣装屋の三人が一礼をして、ライカが開けた扉を通って帰っていった。


 

 「これで衣装も揃ったし、後は剣舞を完璧にするだけね」


 「私も横笛頑張ります!」


 早速練習だ、と二人は部屋を出ようとする。


 「お待ちくださいませ」


 やる気満々の二人をライカが冷静に呼びとめる。


 「どうしたの、早く練習室に行くわよ」


 「そうですよ。早く行きましょう!」


 なぜ止めるのか分からないフェリシアとマールは、早く行こうとライカを急かす。そんな彼女たちにライカは一言こう言った。


 「衣装を着たままでございます」


 『あ』

 

 自分の恰好をすっかり忘れていた二人なのだった。 

熱中するのはいいけれどもほどほどにしようね、ということです。

特に書いていませんが、剣舞の内容や衣装は、基本的に当日まで秘密なので関係者以外は知らないのです。

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