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緋の扉  作者: 緋龍
彼女、あるいは彼等の何とか通常であろうとする日常
37/61

33話

第一部と第二部の区切る個所が間違っていたことに気付き訂正しました。申し訳ございません。


グレアスさんのセリフにかなり悩みました・・・。

 前から歩いてきた男性はフェリシアたちに気がつくと、軽く驚いた表情になって近づいてくる。


 三人の前に来た男性はダレスと色違いの騎士服を身に纏っていた。濃い青色の騎士服は彼が第二騎士だということを、そして服の左の二の腕部分に描かれている「いくさもり」の紋章は彼が団長であることを示していた。つまり目の前の男性は第二騎士団団長リオン・グレアスだということだ。もっとも、騎士服など着ていなくともとても目立つので、彼だとすぐわかるのだが。


 「フェリシア様・・・!このような場所でお会いできるとは。偶然とはいえ光栄でございます」


 そう言って騎士の礼をとると、グレアスは軽く頭を下げた。すると彼の肩甲骨にまで達するほどの長い髪が、さらさらと顔の横にかかる。透き通った青色をした髪は艶めいていて、彼の中性的な顔立ちを一層際立たせていた。彼のことを端的に表現するならば、「とてつもない美形」以外にないだろう。


 「ご、ごきげんよう、グレアス様。私も会えて嬉しいですわ」


 緊張しながら、フェリシアが言葉を返す。絶世の美女と美男といえる二人が揃うと、かなりの迫力だ。


 「もったいないお言葉でございます。時にフェリシア様、なぜこのような場所へ?何か問題でもございましたでしょうか」


 「いえ、何も起きてはいません。どうしてそのようなことをお聞きに?」


 二人の会話をフェリシアの後ろで聞いていたライカが、この辺りは軍議で使われることがある部屋がいくつかあることを思い出す。先ほど咄嗟に入った部屋もそのうちの一つだ。


 姫様、と囁いて彼女にしか聞こえないよう小さな声で今思いだしたことを伝える。


 「ああ、なるほど。いえ、違います。軍議を開いていたわけではありません。この廊下は自室へ戻るために通ったにすぎません」


 「そうでございましたか。最近第三騎士の訓練にご同行なされたという話を伺っておりましたので、極秘裏な作戦でも進行されているのかと推察致しましたのですが、早計だったようですね」


 「戦の護」であるフェリシアは、騎士や兵を大きく動かす時に必要な軍議に出席せねばならず、また会議の決定権も持っていた。軍議には三人の騎士団長も出席するのが通常ではあるが、例外もないではない。  


 「私がここを通ったのは、その・・・個人的な用があったからですわ」


 フェリシアが言葉を濁しながら目線をライカが携えている練習用の剣に向ける。彼女の目線の先にあった剣を見て、グレアスは納得の表情になる。


 「そんな時期であるということを失念しておりました。剣闘祭で披露される剣舞の練習をなさっておられたのですね」


 「そうなのです。毎年この時期は憂鬱になってしましいます」


 あまり上手く舞えないので・・・フェリシアは消え去りそうな声で言葉をつけ足す。

 

 「そのようなことを仰らないでください。私はフェリシア様の剣舞が好きなのです」


 貴方様が舞う姿はとても美しい、そう続けるとグレアスは彼女の目を見て微笑んだ。その微笑みは、けして形式的なものではなく、男性に使うのはおかしいかもしれないが・・・艶やかだった。笑顔で人を凍りつかせると実しやかに噂されている「蒼氷の君」と同一人物とはとても思えない。


 「あ、ありがとうございます。グレアス様にそう言っていただけて光栄ですわ」


 顔を赤く染めながらフェリシアも微笑みかえす。


 「私の言葉で少しでもお心が晴れるのならば、いついかなる時でも馳せ参じるとお誓い申し上げます」


 そう言うとグレアスは、フェリシアの前に膝まづいた。突然のその芝居がかった仕草にフェリシアは笑いそうになる。


 「グレアス様、それはあまりに大仰だと思いますわ」


 「いいえ。嘘偽りのない本心でございます」


 「・・・わかりました。そのお心ありがたく頂戴します」


 フェリシアも同じように芝居じみた仕草で右手を彼の顔の高さに上げた。グレアスは恭しくその手を取り指先に唇を近づける。二人の姿は一枚の絵画を見ているようだった。


 「本当はもっとお話をしたいのですが、所用がございますので私は失礼させていただきます」


 さっと立ち上るとグレアスは一礼をして立ち去ろうとする。


 「ええ。・・・グレアス様」


 歩き出そうとした彼を、フェリシアが呼びとめる。


 「何でございましょう」


 「あの、よろしかったら今度お茶にお誘いしても?」


 忙しいから無理でしょうか、と続けようとするとグレアスが嬉しそうな顔をして言葉を返してきた。


 「私でよろしければ何時でもお供させていただきます。フェリシア様と同じ時間を過ごせること以上に大切なことなどございません」


 その考えは分からなくもなかったが、騎士団長としてはいかがなものかとライカは少し思うのだった。


 「ありがとう、楽しみにしていますわ。お引き止めして申し訳ございませんでした」


 「とんでもございません。では、失礼致します」


 去って行くグレアスは後姿も美しかった。





 「姫様よかったですねえ!!」


 「私、剣舞頑張るわ!ライカ、明日からもっと練習するわよ!」

 

 「はい、姫様。ですが、お体に障るような練習は致しかねます」


 「大丈夫。今なら私どんな試練でも乗り越えられる気がするわ!」


 握りこぶしを胸の前で作るフェリシアは、グレアスと会う前までの彼女とは別人のようだ。


 (嬉しいのですが、少し複雑な気分です・・・)


 フェリシアがやる気を出したことを、なぜか素直に喜べないライカなのだった。

 


   




 


女は度胸なのです!フェリシアさんはかなり勇気を振り絞ってグレアスさんをお茶に誘ったのでした。


膝まづいて指先に口づけというのは、単に作者が書きたかっただけです。

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