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緋の扉  作者: 緋龍
彼女、あるいは彼等のそれなりに通常ではない日常
26/61

23話

 次の日の朝、ライカは男性用の市民服を身に纏い髪を黒く染めてフェリシアの部屋にいた。


 「おはようございます、姫様。朝でございます」


 「う~~ん、もう朝なの?鐘が聞こえなかったわ」


 ベッドからくぐもった声が返ってくる。


 「朝二の鐘が鳴ってから一刻ほど経っております。そろそろお目覚めください」


 「そうなの?すっかり熟睡してたみたいだわ」


 言いながらフェリシアが起き上がってベッドから出てくる。普段はライカが来るとすぐ起きるのだが、昨日の遠出で疲れていたのだろう。まだ少しぼんやりとしているようだ。ふらふらと歩いてライカが用意した洗顔用の水が入った器の前に行き、顔を洗う。


 「どうぞ、姫様」


 差し出された布で顔を拭くとようやく目が覚めたらしい。すっきりとした表情になった。


 「ふぅ~、よく寝たわ。あら、今日はその服なのね」


 フェリシアがライカを見て気付く。


 「はい。本日は城下で訓練を行う予定でございます」


 「そうなの?じゃあ森には行かないのね」


 「はい…そういえばエルが見当たりませんが、庭園ですか?」


 「その通りよ。昨日森に入ってよっぽど楽しかったんでしょうね。城に帰ってきた後も、彼上機嫌だったわ。だから今日は庭園にいていいわよって言ってあげたの」


 「そうでございますか…エルは森に帰りたいのでしょうか」


 ライカは、昨日の彼の嬉しそうな様子を思い出す。


 「どうかしら。そうなら彼が言うでしょう。ここに留まっているのは彼の意志なのだから」


 「はい…」


 なおもライカが言葉を続けようとすると、フェリシアの寝室の扉がノックされ、元気な声とともに開かれた。


 「おはようございまーす!今日もいい天気ですよ~…って姫様まだお着替えになられてないんですか?珍しいですね」


 マールに言われて、ライカがはっとする。エルのことでつい手が止まってしまっていた。


 「姫様、申し訳ございません。すぐにお着替えをお持ちいたします。本日はどうされますか」


 「そうね、今日は何も予定がないからシンプルなのでいいわ。薄い水色のがいいかな」


 「畏まりました」


 すぐにライカは衣裳部屋に行き、言われたドレスを持って戻ってくる。それは、長袖の無地なもので、腰より下の部分は膨らみをもたせず、身体に沿うように作られていた。一見地味ともいえるドレスだが、フェリシアが着ると彼女自身の美しさがより際立つようになるドレスだった。


 「よくお似合いでございます」


 フェリシアの髪を整え終えるとライカが言った。腰まである髪のうち、左側の一部分だけを髪紐で留め、残りはそのままにしてある。髪を結い上げることが好きではないフェリシアは、普段はこの髪型でいることが多い。


 「ありがとう。さて朝食を食べましょう」


 「はい、準備はばっちりです!今日のスープは料理長自らが採ってきた茸が入ってるそうですよ」


 「それは楽しみね。じゃあいただきます」





 「ごちそうさま。茸のスープとても美味しかったわ」


 フェリシアが食事を終えると、素早くライカがお茶を差し出す。


 「ありがとう。もう出かけるの?」


 「はい。今日の訓練についてダレス様と話し合いをしなければなりませんので」


 「そう。…ねえ、ライカはダレス様のことどう思う?」


 突然の質問にライカは少しだけ首を傾げる。


 「なぜ急にその様な質問を?」


 「いいじゃない、ちょっと聞いてみただけよ。で、どうなの?」


 なぜフェリシアがそんなことを聞いてくるのかさっぱり分からないが、とりあえず質問に答える。


 「そうですね。言葉は少ないですが、騎士の方々のことをよく考えておられるのが分かります。団長に相応しい方とお見受け致しました」


 「そういうことを聞いてるのではないのだけど…聞き方がいけなかったのかしら」


 ライカの答えを聞いたフェリシアは、肩をがっくりと落とし、やはり無理ですお父様…などとぶつぶつ呟いている。


 「姫様…?」 


 「ううん、何でもないわ。気をつけて行ってらっしゃい」


 「??はい。では行ってまいります。マール、後はお願いします」


 「はい!ライカ様お気をつけて!!」


 フェリシアの様子を訝しげに思いながらも、時間が迫ってきているため部屋から退出することにする。



 

 ライカが出て行ったあと、フェリシアは一通の手紙をしたため、マールに届けてもらった。


 手紙には、


 『お父様、原初の森に行くのと引き換えに頼まれた件ですが、彼女に聞いてみたところ団長のお気持ちは全く届いてないようです。フェリシア』


 と書かれていた。 

陛下は他人の恋愛に首を突っ込むのが大好きなのです。

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