19話
騎士たちのテンションがちょっとおかしいですが気にしないでください(汗)
よく晴れた次の日の朝、12人の騎士と一人の従者は王都を出てすぐ、街道から少し離れたところにある一本の木のそばにいた。そばには同じ数の馬が付き従っている。
ダレスとライカはいつもどおりの無表情だが、騎士たちは違うようだ。皆一様に目の下に隈ができて、やつれた顔になっている。緊張しすぎて眠れなかったらしい。
「も、もうすぐフェリシア様を乗せた馬車が来ます。原初の森に着くまでしっかりと護衛してください」
森には一緒に行かないフレイエまでもが、なぜか緊張している。
しばらくすると、二頭立て馬車が王都から出てくるのが見えた。こちらに近づいてくるので、あの馬車にフェリシアが乗っているのは間違いないようだ。
騎士たちの緊張が最高潮に達したころ、馬車は彼らの前で静かに止まった。公務ではないため「護」の紋章は印されていなかったが、気品のある美しい馬車だった。全員が拳を胸に当て敬礼する。もちろんライカもだ。
馬車の窓が半分ほど開かれ、フェリシアが顔を見せる。向かいの席にマールが座っているのが見えた。おそらく彼女たちの足元にエルがいるのだろう。
「騎士の皆様、おはようございます。今日はよろしくお願いしますわ」
フェリシアが丁寧な口調で話す。砕けた話し方をするのはライカたちに対してだけだ。
『は、はぁっ!!!!!』
騎士たちは自分の拳で自分の胸を押しつぶしそうなくらい敬礼に力を込めている。
「そんなに緊張なさらないでくださいませ」
そう言ってフェリシアがふわりと微笑むと、彼らの顔は赤一色になった。
そんな騎士たちをよそに、フェリシアはダレスに視線を向けて一つ頷くと、最後にライカをちらりと見てから窓を閉めた。
(姫様とても楽しそうです)
姫様が楽しそうで私も嬉しいです。とライカは心の中で呟く。たとえそれが、陛下を半分脅して勝ち取ったものだとしても。
馬車がゆっくりと動き出すと、ダレスがさっと右手を横に振った。それを見た騎士たちは一斉に馬にまたがり、馬車の周囲に展開する。
「あとを頼む」
「はい、お任せください。お気をつけて」
フレイエにそう言うと、ダレスはさっと馬に飛び乗って馬車の前に駆けて行った。ライカもフレイエに一礼するとダレスの横に馬を走らせた。
原初の森は、王都から南東に進んだ先にある。馬を走らせれば半刻ほどで着く距離にあるが、今回はフェリシアが同行していたので、途中にあった小川のそばで休憩を取り、一刻半ほどかかって森にたどり着いた。
道中何事もなく無事に森まで来れたので、騎士たちはほっとしながら馬をおりてフェリシアが馬車から出てくるのを待つ。騎士たちの顔色はだいぶ良くなったようだ。途中休憩した小川で顔を洗ったせいかもしれない。
馬車の扉が開かれて、まず姿を現したのはエルだった。狭い馬車の中が嫌だったのだろう。降りるとすぐ体を思い切り伸ばして、その後ぶるぶると振るわせていた。
騎士たちは先ほどの休憩の時に得るの姿を見ているので、もう平気なようだ。最初彼を見たときは、噛み付かれたらどうしようと、少し怯えていたように見えた。もっともそれは、エルが悪ふざけで口を大きく開け、鋭く尖った牙を騎士たちに見せたせいなのかもしれないが。
続いて扉の前に立っていたダレスが差し出した手を取り、フェリシアが降りてきた。彼女は胸元の開いていない蝶の模様があしらわれた薄花色のドレスに、同じ石で作られた緑玉石の首飾りと耳飾りをつけていた。金色に輝く髪も綺麗に結い上げられている。
「皆様、護衛ありがとうございました」
そう言ってフェリシアが騎士たちに目線をむけて微笑むと、また彼らの顔は真っ赤に染まっていった。
最後にマールが降りてきて、フェリシアがくつろぐための場所の準備を始める。重そうな敷物を小脇に抱え、両手にも荷物を持っている。それだけの荷物を持っても顔色一つ変えず、それどころか笑顔でテキパキと準備を進めていく彼女の姿を、騎士たちはとても好ましく見ていた。
「ソロソロ準備ハ良イカ」
聞いたことのない声が聞こえてきて、騎士たちがキョロキョロとあたりを見回し、エルが話したということに気づくと驚いた表情をする。知識として地の民が人の言葉を話せるというのは広く知られているが、実際に聞くのは皆初めてのようだ。地の民に会うこと自体が稀なので当然のことだろう。
そういえば休憩の時には話していませんでしたね、とライカは思い出す。
「これより騎士に説明するので、今しばらくお待ち願いたい」
「ウム」
エルはどうやら早く森に入りたいようだ。ここに着いてからずっと尻尾がパタパタと揺れている。
「ライル」
「はい」
ダレスの後ろに控えていたライカは一歩前に出る。
「では訓練について説明させていただきます」
団長とライカを一緒の馬に乗せるべきかちょっと迷いました。




