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緋の扉  作者: 緋龍
彼女、あるいは彼等のそれなりに通常ではない日常
20/61

18話

 名前を呼ばれた10人の騎士が、ダレスとフレイエの前に整列する。


 「では、訓練について説明します。あなた方には明日より原初の森で訓練を行ってもらいます」


 原初の森という言葉に、一瞬騎士たちがざわつく。


 「静かに!訓練の内容は明日、現地にて説明します。話は以上ですが何か質問はありますか」


 「はいっ!原初の森に入ってよいのですか?地の民を怒らせることになるのではないでしょうか」


 一人の騎士が勢いよく手を上げて発言する。


 「大丈夫です。フェリシア様のもとにおられる地の民の方が同行しますので」


 フレイエの言葉にまた騎士たちがざわつく。


 「地の民がこの城に住んでるのか!?」「俺見たことないぞ」「さすがフェリシア様!」


 「驚くのも無理はありません。このことは一部の人間しか知らないことですから。あなた達も軽々しく口にしないように」


 『はっ!』


 騎士たちが一斉に右手の拳を左の胸に当て敬礼をする。とても統率された動きだ。


 ダレスの後ろで騎士たちの様子をライカは感心しながら見ていた。


 「フェリシア様も来られる」


 フレイエに説明を任せて何も喋らなかったダレスが、まるで明日の天気について話すかのような口調で騎士たちに爆弾を投下した。


 『!!!!!』


 「本当ですか!?」


 「ああ」


 フレイエも驚いている。どうやら渡された用紙には書いてなかったらしい。騎士たちに至っては驚きすぎて声も出ないようだ。眼球がこぼれ落ちそうなほど目を見開いて、口をパクパクさせている。


 フェリシアが騎士たちの訓練を見に来るなど異例中の異例のことだ。騎士たちがフェリシアを見ることができるのは、戦争時以外は騎士に任命される時か、年に一度行われる剣闘祭しかない。偶然城内ですれ違おうものなら、しばらくの間その騎士は英雄扱いされるほどだ。そんな滅多に会う機会のないフェリシアに間近で会えるとなれば、騎士たちが驚くのも無理はない。


 (騎士の方々は表情が豊かです。ダレス様の表情が変わることはないのでしょうか)


 自分も基本的に無表情であるということに自覚はないようだ。


 「以上だ」


 ダレスは騎士たちが驚きすぎて固まっているにも関わらず、一言だけ言葉を発して鍛錬場から去って行こうとする。


 かろうじて敬礼はしたものの、騎士たちは心ここにあらずといった様子だ。


 「失礼します」


 そんな騎士たちに一礼して、ライカもダレスを追って鍛練場を後にする。


 騎士たちが正常に戻ったのは、二人がいなくなってから四半刻後のことだった。



 「お茶をお入れ致しましょうか」


 執務室に戻ったライカは、ダレスに尋ねる。


 「ああ。隣の部屋だ」


 「畏まりました。しばらくお待ちくださいませ」


 ライカは隣へ続く扉を開けて中に入る。その部屋はどうやら仮眠室のようだった。簡単な炊事ができる場所もある。ライカはお湯を沸かし、棚に入っているお茶の種類を確認する。


 (一種類しかありません。よほどこのお茶がお好きなのでしょうか)


 少し意外に思いながら、お茶の用意をして執務室に戻った。

 

 「お待たせ致しました」

 

 カップを静かにダレスの前に置く。ダレスはカップを手に取りお茶を飲む。


 「美味い」


 「恐れ入ります」


 しばらく、ダレスがお茶を飲む音だけが部屋の中に響いた。


 「悪かった」


 お茶を飲んでいたダレスが呟く。


 「何のことでございましょう」


 なぜ謝られたのかわからないライカは聞き返す。


 「先ほどの打ち合いのことだ。突然言い出して済まなかった」


 「ダレス様が謝られることはございません。私は従者なのですから」


 従者は主の命令に従うものです。ライカがそう言うとダレスは、そうかと言ってまた黙ってしまった。


 (ダレス様は不思議な方です)


 その後ライカは、ダレスと明日のことについて打ち合わせをし、フェリシアのもとへと戻っていった。 

 


 

 


 




フェリシアに会えるということはそれだけすごいことなんです。

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