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緋の扉  作者: 緋龍
彼女、あるいは彼等の極めて通常な日常
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1話 

大幅に変更したので、最初の面影はあまり残ってないですね・・・。

「姫様、本日は聖堂に行かねばなりませんので、一刻ほどお傍を離れさせていただきます」


「そうだったわね。気をつけていってらっしゃい、ライカ」



ヴァラファール大陸の中央に位置する国、ローディス。その王城にはさまざまな噂がある。

夜中に動く甲冑や、大昔に暗殺された王や王妃の亡霊。入れば二度と出て来られない地下室の扉などなど。その中に「緋の扉」というのがある。


 王城の片隅にひっそりとある聖堂。定期的な手入れをする以外ではめったに人が近寄ることがなく、聖堂としての役割は成されていないといえるだろう。なぜそうなったのかといえば、100年ほど前、王城の隣に大聖堂が建てられたためである。大聖堂が王都に移る前までは皆王城の聖堂で祈りをささげていた。


 噂によると、忘れられた聖堂には秘密の裏口があり、そこから中に入るとさらに扉があるそうだ。薄暗い場所で見るその扉は、まるで血が塗られているように赤黒く、誰もいないはずなのに呻き声のような音が聞こえてきて、扉の前に立ったものは恐怖で精神が病んでしまうという。

 次第に人々はその扉のことを血の扉と呼ぶようになった。だが、いつからかその名が緋に変わり血の扉と呼ばれなくなるのだが、その理由は誰も知らない・・・

 


「緋の扉ですか…」

 ライカは呟く。彼女がいる場所は人々が噂している緋の扉、その前だった。

彼女は何度もこの扉を開けて中に入っているが、精神を病んだことは一度もない。当然である。目の前にある扉は血に濡れてなどなく、鉄製のため部分的に錆ができて赤黒くなっているだけなのだ。


 噂は、真実を覆い隠してしまう、とライカは扉を前にして思った。



 彼女は「闇」の中で生きてきた。物心ついたときにはもうそこにいたので、「闇」での生活を疑問に思ったことはなかった。命令されれば何でもしたし、それを当然のことだと受け入れてきた。死にそうになったことも一度や二度ではなかったが、死に対して恐怖を感じたことは一度もなかった。


 そんなライカの生活は突然終わりを告げる。王が「闇」壊滅を騎士団に命じたのだ。騎士団は国の精鋭。いくら「闇」でも無事では済まなかった。


 出くわした騎士との戦闘には勝ったものの、ライカも重傷を負ってしまった。その後も何とか逃げていたのだが、血を多く失い過ぎてしまい、ついに道端に倒れてしまう。これが死ぬということなのかと、薄れゆく意識の中で思ったことをライカは覚えている。


 そこで死んでゆく運命にあったライカを助けたのが、倒れた彼女の傍を偶然通りかかった馬車に乗っていた人物、ローディス国第一王女フェリシア・ローディスだった。


 この日のフェリシアは、「戦の護」としてずっと生きなければならないことに反抗するために、城から逃亡している最中だった。


 ライカ14歳、フェリシア10歳の時のことである。





 瀕死の怪我より回復したライカは自分を助けたのが、王女だと知り彼女を責めた。なぜ「闇」を滅ぼしたのか、なぜ私達が殺されねばならなかったのか、と。


 フェリシアは、ライカが「闇」の人間だったことに驚いたが、けして彼女の言葉から逃げることはせず、彼女の目を見て理由を話した。「闇」のしてきたことで多くの人が傷つけられ死んだこと。「闇」が貴族を裏で操り、非道な行いをしていたこと。人身売買をして人を物のように扱っていたことなど。


 ライカが当たり前だと思っていたことはいけないことなのだと、彼女が理解するまでフェリシアは辛抱強く説明を繰り返した。


 初めは全く耳を貸そうともしなかったライカだったが、何回も何回もフェリシアの話を聞くうちに、自分は間違ったことをしていたのか、と思ったりするようになった。


 ライカが理解を示すようになると、フェリシアは自分の侍女にならないかと言ってきた。なぜそんなことを言うのかと聞くと、貴方は「闇」よりも「光」が似合うと思うから、という答えが返ってきた。


 そう言ったフェリシアはまさに光のような人間だった。誰からも好かれ、辛いことがあっても次の日には明るく笑っている。そんな彼女にライカは次第に惹かれていった・・・。

 



 そしてフェリシアに仕えて10年。



 「緋の扉」のことは、王と交わした契約のようなもの。ライカの素性を誰にも言わず「闇」は全滅したことにするかわりとして提示されたことだ。フェリシアは反対したが、ライカは受け入れた。今まで誰かを傷つけることしかしてこなかった彼女は、今度は誰かを助けてみたいと思ったのだ。





 扉をくぐるとそこには異様な光景が広がっている。異様というと少し語弊があるかもしれないが、この建物を聖堂だと思っている人間が見れば自分の目を疑うだろう。


 建物の中に入った人間がまず目にするのは、殺風景なところに円状に並べられた椅子と、円の中央に置かれた人一人が立てる大きさの台。とても人が祈りを捧げる場所とは思えないだろう。それもそのはず、この場所は公にできない立場の者――貴族など――を裁くための審問場だったのだから。


 そう、この建物は半分が聖堂で、もう半分が審問場だったのだ。このことは、聖堂が使用されていたときから、ごく一部の人間にしか知られていない。


 もちろん今は使われておらず、あちこちが風化しており厳粛な場であったであろう昔の面影はどこにもない。


 ライカが来てしばらくすると、審問場の隠し扉が開かれて一人の人物が姿を現した。

 

「もう来てたのか。待たせたな」


「いえ、私もついさきほど来たばかりでございます」


「そうか。相変わらず硬いな、お前は。まあよい…ライカ、頼みたいことがある」


「何なりと…陛下」


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