14話
庭園に行くと、フェリシアはいつものように読書をしており、彼女の瞳に合わせた蒼色のドレスの裾が、風でひらひらと揺らめいていた。その足元でエルが寝そべっている。マールは用を言いつけられたのか、いないようだ。
ライカが近づいていくと、エルが身体を起こし彼女の方を見る。
「戻ッタカ」
よほど本に集中していたのだろう、その声にようやくフェリシアが本から顔を上げる。
「あら、お帰りなさい」
「ただいま戻りました。ですが、またすぐに戻らねばなりません」
何気なくフェリシアが読んでいた本を見ると、どうやら本ではなく何枚かの紙が纏められただけのものだった。珍しいものをお読みでいらっしゃると、少し興味が湧いたライカはそこに書かれていた見出しのような文字を見て、息を止めかけた。
「姫様。それは…」
「え?ああ、これ?マールに貸してもらったのよ。なかなか面白いわ」
フェリシアが持っていた紙の束の一番上には「騎士を慕う会定期会報」と書かれていた…。
(騎士を慕う会…まさかこんなところで目にするとは思いませんでした)
「趣味や休みの日のこととか結構具体的に書かれてあるのよ。一体どうやって調べてるのかしらね」
今回の特集は第二騎士団の騎士たちでね、とフェリシアはうきうきと話しだす。
「用ガアッタノデハナイノカ」
止めたのはエルだった。
「あら、ごめんなさい。それで、どうして戻ってきたの」
「はい、エルにお願いがございまして」
「何ダ」
「原初の森で騎士の訓練をしたいのです」
ライカは、エルにダレスと話し合ったことを話した。
「森ニ大勢ノ人間ガ入ルベキデハナイ」
「それはわかっています。ですが、今回は他に方法が思いつかなかったのです。森の一部分だけでかまいません。どうかお願いします」
エルに向かって深く頭を下げる。
「私からもお願いするわ。元はと言えばライカに無茶なお願いをしたお父様が悪いのよ。後でお父様に文句を言って、最高級の林檎を持ってこさせるから。なんとかならないかしら」
フェリシアが好物で釣ろうとする。
ぴく、とエルの尻尾が反応した。
「…我モ同行スルノデアレバ」
どうやら、誇り高き地の民は林檎に弱かったようだ。
「エル、ありがとうございます。姫様も口添えいただきありがとうございました」
「ライカの役に立ててよかったわ」
「一度ダケダカラナ」
「はい、承知してます。ですが、エルが一緒に来るとなると姫様の護衛はどう致しましょう。マールだけでは心許ないですし」
「別に私はかまわないわよ。城の中で襲われることなんてないでしょうし」
「いつも申し上げておりますが、駄目、でございます」
「じゃあどうするのよ。……そうだ、いいこと思いついたわ!私も一緒に行けばいいのよ。そうすれば何の問題もないじゃない」
フェリシアが、パンっと手を叩いて嬉しそうに発言した。
「姫様それは危険でございます」
「あなたやエル、ダレス団長までいて危険なんてありえないわよ。「戦の護」である私が騎士の訓練を視察するのはおかしいことじゃないし」
確かに、この一行に勝てるものはそういないだろう。
「しかし、陛下がお許しになるとは思えません」
「いいえ、絶対に許可を取ってみせるわ!」
一度言い出したらフェリシアが引くことは滅多にない。陛下を言いくるめて許可を勝ち取る主の姿が、ライカの頭の中に浮かんだ。
「我ハ知ラヌ」
面倒事に関わり合いたくないと言わんばかりに、エルは明後日の方向を見ている。
「畏まりました」
ただでさえ大変と思われる任務が、ますます大事になりそうだとライカは少し憂鬱になった。
かくして、ライカの予想通り陛下をやり込めたフェリシアは、森へ行く一行に加わることになるのだった。
フェリシア様は好奇心旺盛でアクティブな方なのです。




