13話
おそらくダレスの考えと、ライカの考えは違うと思われるが、そのことにお互いが気づく機会はまだなかった。
「言い忘れておりましたが、私のことはライルとお呼び下さい」
そういえば、この姿のときの呼び名を伝えていなかったとライカは気がついた。
「ああ」
「服装はどう致しましょう。ご要望はございますか」
「いや…そのままでいい」
「畏まりました」
ダレスはちらりとライカに視線を向けてから答えた。
「では、偵察の訓練についてですが、原初の森で行うというのはいかがでしょう」
思わぬ提案にいつもは無表情の団長の顔が微かに驚きの表情に変わる。
「だがあそこは」
原初の森には多くの動物が暮らしており、その頂点に立つのがエルたち地の民だ。生活を脅かすものに対しては彼らが容赦のない攻撃をしかけてくる。浅はかな考えを持って森の中に入ったものの多くが帰らぬ人となった、人間が簡単に足を踏み入れるべきではない場所なのだ。
そんな人間にとって危険極まりない森で訓練をするというのは、いくらなんでも無謀といえた。
まあ、エルを捕獲し、持ち帰った馬鹿貴族という例外もなくはないが。
「承知しております。ですが、7日でその適正を見極めそれを伸ばすというのはかなり難しいかと。なれば多少の無茶は致し方ないと思います」
「地の民は?」
「ダレス様や他の団長様はご存知だと思いますが、エルがおります。彼に事情を説明すれば、おそらく協力が得られるでしょう。もちろん、動物を殺めたり彼らの生活を脅かしたり、森を荒らさないという前提でございますが」
エルの存在は公にされていないが、フェリシアに近しい人たちには周知されている。
確かに、森の中で気配を殺し動物に見つからずにいるというのは、偵察の訓練に相応しいと思えた。
「得られると」
そして地の民から不可侵の森に入る了承を取り付けるのは、かなり難しいことに思えた。
「おそらくは。騎士ならば大丈夫でございましょう。細心の注意でもって、挑んでもらわねばなりませんが」
「訓練でも命を懸けるのは当然だ」
部下の訓練に厳しいと噂されるダレスに、相応しい発言だった。
「では一度失礼させていただいてよろしいでしょうか。エルに事情を説明しに行きたく思います」
「頼む」
一礼をして部屋を辞そうとしたライカだったが、ふと止まって振り返る。
「あの…ダレス様」
珍しくライカが言葉を詰まらせる。
「何だ」
「その、私は陛下の隠し子ということになっているとか…」
ぴたっ。その言葉に机の上にある書類に手を伸ばそうとしていたダレスの動きが止まる。どうやら彼の時が止まったようだ。
「陛下からお聞きではなかったのですか」
………こくり。どうにか彼の頭が縦に動く。
まさか知らされていなかったとは。ライカの顔に驚きの表情が浮んで消える。
「申し訳ございません。今の話はお忘れくださいませ。どうやら陛下のご冗談のようでございますので」
「そう、か」
「では、失礼いたします」
そう言ってライカは、今度は振り返ることなくダレスの執務室を後にした。
(全く陛下は何をお考えでいらっしゃるのか)
要らぬ発言をしてしまったと憤りながら、ライカは足早にフェリシアやエルがいるであろう庭園へと向かうのだった。
レヴァイアが二人の会話を想像して、忍び笑いをしていたことは誰にも知れることはなかった…。
陛下はそういう方なのです(笑)




