12話
フェリシアに依頼された内容について話した後、ライカは城の2階にある騎士団長の執務室に向かった。すでに男性の服に着替えて髪も黒く染めている。今回は団長の従者という役であるため、こないだのような平民服ではなく、黒を基調としたシンプルだが上質な生地の衣服を身に纏っており、腰には薄紫色の布帯を巻いている。
(それにしても今回の依頼は乗り気がしません)
ライカは執務室に続く長い廊下を歩きながら、この依頼がどうにかして断れなかったか考えてみる。もちろん陛下の言葉は絶対なので無理なのだが。
性別を偽って国の精鋭集団に潜入する。それだけならまだしも国王の隠し子というのは一体何の冗談なのか。どんな目で見られるかわかったものではない。これからのことを考えると、ライカは頭痛がしてきた。
いくら着きたくないと思っても歩いていればいつかは目的地にたどり着くもので。ライカはダレスの執務室で歩みを止めた。
(やるやらには完璧にこなさなければなりません。気持ちを切り替えましょう)
ライカは深呼吸すると、第三騎士団団長執務室と書かれた黒い扉をそっと叩いた。
「入れ」
すぐに中から声がする。
「失礼いたします」
ライカは扉を開け中に入った。中はダレスの私室とは違い、かなり豪華な造りになっていたが、装飾品といえるものは一つも置いていなかった。正面奥に執務机とその脇に机がもう一つ、手前に応接用の長椅子があるだけだ。おそらく部屋の主の意向なのだろう。
その部屋の主は、相変わらずの無表情で執務椅子に座っていた。
「ここへ」
(前回は非常識な時間でしたので、お怒りになられていたのだと思っていたのですが、どうやら違ったようです。これがダレス様の話し方なのでしょう)
ダレスは部屋と同じで、必要最低限の言葉しか発しないようだ。
言われたとおりライカはダレスに近づく。間近で見た彼は当たり前だが騎士服を着ていた。そういえば、この間は私服だったと今更ながらライカは気がついた。
第三騎士団は肩や袖、裾などに銀糸で細かな刺繍が施された黒色の服が制服である。そしてダレスの着ている騎士服の左腕の部分には、団長の証である「戦の護」の紋章が描かれていた。
「戦の護」の紋章は盾の中に蝶が止まった長剣が描かれており、騎士団はこの紋章を掲げて戦いに赴く。国の紋章は盾の中に翼竜と長剣なので、騎士団が国ではなく「護」に忠誠を誓う存在だということがよくわかる。
黒の騎士服は黒髪の彼にとてもよく合っていた。
「先日は大変失礼を致しました。子爵の息女についても取り計らっていただいたようで、感謝申し上げます」
ライカは、私室、それも真夜中に突然訪ねた非礼を詫びた。
「問題ない」
それだけ言うとダレスは、机の上に置かれていた用紙を取りライカに渡した。
「候補を上げた」
受け取ったライカが、用紙に視線を落とす。そこには10人ほどの名前が記されていた。
「拝見致しました。陛下はお教え下さらなかったのですが、期限はいつまででございましょうか」
「7日後だ」
7日で適性を見極めるのは、かなり難しいと思えた。が、やるしかない。
「方法はいかが致しましょう」
「任せる」
「……………」
勝手のわからない騎士団で、重要な人選方法を任せると言われさすがにライカも返答に窮した。
その空気を感じ取ったのか、さすがに無責任すぎると思ったのかダレスが言葉を紡いだ。
「騎士の訓練に偵察を追加。訓練内容を決めてくれ」
なるほど、それならなんとか適性を見極められる。
(それでも7日は短いですが)
「畏まりました。それで、私はダレス様の従者という役目を仰せつかっておりますが、どのような事をすればよろしいでしょう。何なりとお申し付け下さいませ」
従者というからには、人選以外の仕事もあるだろう。そう思ってダレスに問うたのだが・・・。
「傍に」
返ってきた言葉は一言だけだった。
(傍にいて事務や雑用をしろと言うことなのでしょうか。確かに従者らしい仕事です)
「仰せのままに」
そう言って頭を下げるライカを、ダレスはじっと見つめていた。




