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緋の扉  作者: 緋龍
彼女、あるいは彼等の極めて通常な日常
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9話

  男を追うために裏道に入る。誰もいないことを確認して、屋根の上に跳ぼうとしたとき突然後ろから声をかけられた。


「おい、お前」

 

 振り返ると先ほど「一華」で見かけた男が立っていた。年齢は30代、体格がよく筋肉もそれなりについているようだ。顔が赤いので酔っているのだろう。


「何か用ですか」


 早く行かねば男を見失ってしまう。ライカは少し苛立ちながら答えた。 


「「一華」にいただろ。お前きれーな顔してるな。俺と一緒に飲もうぜ」


 ぐへへへへと下品な笑い声をあげながら、酔っ払いが近づいてくる。


「急いでいるのでお断りします」


「そう言うなって、可愛がってやるからよ」


 どうやらライカのことを女だと思っているようだ。そうでなければこの酔っ払いは男色家ということになってしまう。どちらにしてもお断りなので、ライカはもう一度否いなを告げる。これで相手が退かなければ実力行使にでるしかない。早く男を追わなければならないのだ。


「拒否しているのがわからないのですか」


「ああん? ごちゃごちゃうるせえ! こっちへ来いって言ってるんだよ!」


 しびれを切らした酔っ払いがライカの腕を掴もうと手を伸ばしてきた。ライカはそれをかわすとその手を掴んで捻りながら素早く酔っ払いの背後にまわり、隠し持っていた暗器を喉元に押し当てる。


「私は行かないと言っているんです。わかっていただけますね」


「ひ、ひぃっ」


 酔っ払いは一気に眼が覚めたようで、赤かった顔が真っ青に変色している。


「相手に断られたら素直に退くことをお勧めします」


 そう言って掴んでいた手を離すと、首筋に手刀をくらわせ酔っ払いを気絶させた。


「次からは相手を選んでください」


 動かなくなった酔っ払いを裏道の目立たないところに寝かせると、ライカは男を追うために屋根の上に跳んだ。


 (余計な時間をとられてしまいました。追いつけるといいのですが……)


 男が歩いていった方角に向かって屋根伝いに移動する。しばらくすると馬車に乗り込む男の姿が遠くに見えた。


 (どうやら見失わずにすんだようです)


 どうやら遠いところに住んでいるらしい。馬車を待たせているということは、それなりに金を持っている人物、もしかすると貴族かもしれない。


 おやおや、ライカの口から溜息のような声が小さく漏れ出た。


 馬車はゆっくりと動き出しやがて速度を上げて走っていく。どうやら貴族が住む区域に向かっているようだ。


 普通の人間が走って馬車を追い続けることは無理だが、ライカは問題なく屋根伝いに後を追って行く。民家がなくなって貴族の屋敷が建つ区域まで来ると、木立ちの陰などに身を潜ませながら馬車を追う。決して見つかることなく進んでいく姿は、闇と同化しているようだ。


 

 貴族の区域に入ってしばらく走っていた馬車は、厳かに立ち並ぶ屋敷の中の一つの前で止まった。


 屋敷の扉が開き執事と思しき人物が馬車の中にいた人物を出迎える素振りをみせた。やはり、男は貴族の一員らしい。馬車を降りると至極自然な態度で屋敷の中に入って行く。


 (ここは確か「要職に就きながら仕事ができない貴族共一覧(陛下作)」に名が記されていた子爵の屋敷です。ということは今のは子爵の息子でしょうか)


レヴァイアは国王になる前から「要職に就きながら仕事ができない貴族共一覧」なるものを作成し、何か証拠を掴むたびに要職から外しているのだった。

 彼曰くその一覧に載っている貴族は、仕事はできないくせにプライドだけは人一倍高く、目上の人間には媚びへつらい目下の人間には情け容赦ない、見た目は豪華で中身は空っぽなのだとか。

 

 かなりの貴族が職を追われたという中で、まだ要職についていられている子爵はよっぽど尻尾をつかませない狡猾な人物か、それとも陛下の思っているよりも仕事ができる人物なのか、どちらだろう、そう思ったライカだったが今は関係のないことだとすぐに頭の中を切り替えた。


 しばらく屋敷を観察していると大きな窓がある居間と思われる部屋に男と男とよく似た少女が入ってくるのが見えた。ライカは中の会話が聞こうと、そっと屋敷に近づく。


 どうやら二人はかなり大きな声で話してる様で、外にまで漏れ聞こえていた。周囲に警戒しながらライカは耳を澄ませる。


「全くお兄様は一体何を考えていらっしゃるの!? 騎士様方のありもしない噂を広めるだなんて!」

「お前なんで知ってるんだよ!」

「最近お兄様の様子がおかしいので執事を問いただしたのですわ」

「だってどう考えたっておかしいだろ! あの平民共が騎士になれて貴族の僕がなれないなんてさ。父上も僕と同じでおかしいって言ってたぞ」

「それはお兄様の実力が足りなかっただけでしょう。そんな理由で酒場にいらしていた騎士様に侍女を使って薬を盛らせたんですか。信じられませんわ」

「うるさいうるさい! あんな奴らより僕の方が騎士に相応しいに決まってる。なんでお前にはわからないんだ!?」

「わかりたくもありません。お兄様には失望しましたわ。このことは陛下にお伝え致しますので、覚悟されたほうがよろしいかと」

「はんっ、お前なんかが陛下に謁見できるはずないだろ! 騎士でもないのに!」

「例えお目通りが叶わなくても、書面でお渡しすることだってできますもの」

「そんなことをしてみろ。父上が黙っていないぞ!」

「かまいません。お父様にも目を覚まして頂きますわ!」

「この家が……」


 まだまだ兄弟の言い合いは続きそうだったが、これ以上聞く必要はないと判断したライカは来た時と同じようにそっと屋敷から離れた。


 (城に戻ってダレス様に報告すれば、あの女性が陛下に謁見を求める前に事態を収拾できそうです)


 ライカは「妖精の住む宿」に馬を取りに行ってから、速やかに城へと戻った。

 

 



 

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