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蒼の記憶  作者: のどか
―参―
21/30

サボリ魔親子


「落ち着いたか?」

「は、い。申し訳、ありません」

「かまわねぇ。それよりちょっと付き合え」


 ぐいっと華乃の手を引っ張りあげて立たせると雅冬は返事を待たずにそのまま歩きだす。

 強引に手をひかれて華乃は目を丸くしながら足を進める。

 すれ違う女中や重臣たちが何事かと目を瞬くも珍しく楽しそうな雅冬の表情に誰も止めることはできず、コソコソと噂だけが広がって行く。


「殿、一体どちらへ?」


 困惑した華乃の声に雅冬は笑うだけで答えてくれない。

 後少しで城を出てしまうというところでふたりの前に柚稀が立ちはだかった。


「ちっ、もう嗅ぎ付けたのか」

「そういう殿はもう政務はお済みになったので?」

「……。後でする」

「……」

「ちゃんと今日中に終わらせるからそこをどけ」


 目の前で繰り広げられる会話と雅冬を通り越して自分へと注がれる柚稀の視線に頬を引き攣らせる。

 どうしたものかと困り果てていたところに天の助けとばかりに雪雅の声がした。


「雅冬。あまり柚稀を困らせたらダメだよ。

 華はこれから父上の相手をするから安心して政務をなさい」

「何ふざけたこといってやがるオッサン」

「父上に向かってなんて口のきき方っ!華、傷ついたおじさんを癒してっ!!」


 するりと雅冬の手から奪い取られた華乃はそのまま雪雅にぎゅうぎゅうと抱きしめられる。

 天の助けだと思った自分を殴り飛ばしたい衝動に駆られながら華乃は助けを求めるように雪雅の側に控えているはずの父の姿を探した。


「……大殿様、藍堂様は?」

「え?えへへ」


 可愛子ぶって笑って誤魔化す雪雅に華乃の目が鋭く光る。


「大殿様も殿もお仕事をなさりませ!」

「ちょ、か、じゃなくて華!?」

「俺はちゃんと仕事してる!ちょっとした息抜きだ!」


 目尻を釣り上げてサボリ癖を発動させている親子を叱る華乃に柚稀はキラキラとした目を向けた。


「華殿の言うとおりです!さぁ、政務に戻りましょう。

 雪雅様もすぐに父が追いつくので逃げられるなどと思われませぬよう」

「そうですぞ。世間話しかしなくても会談に参加していただきます!!」

「げ、もう追いついて来たのか」


 それぞれの従者がしっかり主の首根っこを引っ掴んだのを確認して華乃はペコリと頭を下げた。


「それでは私も仕事に戻らせていただきます」

「華!!」

「殿、励まれませ」

「……茶を、今度は冷めてねぇのを頼む」

「……はい」


 柚稀に引きずられていく姿を見送ってほっと息を吐く。


「華乃」

「私は、なにがしたいのでしょう」


 弱々しく零れ落ちた言葉に雪雅は黙って華乃の頭を撫でる。


「お前の望みはなんだ?華乃」

「……雅冬様のしあわせ。

 だけど、」

「泣きごとは聞かんぞ。

 お側で支えると決めたのはお前だ」


 厳しい黎季の言葉に華乃はぎゅっと唇を噛んだ。

 父の言うとおりだ。

 決めたのは、選んだのは自分。


「途中で投げ出すことは許さんぞ」


 ポンと肩を叩かれて俯いていた顔をあげた。


「はい。

 ありがとう。父上」


 迷いはある。間違っているかもしれないという不安の方が大きい。

 だけど、父の言うとおり途中で投げ出すのは性にあわない。


「黎季は厳しいな~。華乃、辛くなったらいつでもおいで。

 お前の居場所はここにもある」

「ありがとうございます。雪雅様。

 でも、まだ頑張れます。はじめたばかりですから」

「そうか。なら、気をつけなさい。雅冬はお前が紫月だという確信を欲しがっている」

「はい。気を付けます」


 雅冬が連れて行こうとしたのはきっとあの場所。

 紫月が雅冬に教えてその生を終えたあの丘。

 城の外に出て華乃を連れて行きたい場所なんてそこしか思いあたらない。

 そこに連れて行かれてしまうときっともう誤魔化せない。

 まだ、まだバレるわけにはいかない。

 雅冬が紫月に引きずられないという確信を得るまで、自分が紫月だったことを悟られる訳にはいかない。

 願うのはいつだって大切な主の幸せなのだから。



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