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蒼の記憶  作者: のどか
―弐―
13/30

執着の片鱗

 先程までの取り乱しようが嘘のように安心した顔で隣の部屋に下がった華乃に黎季と雪雅はものすごくやる気になった。

 母と兄がいなくなってから何でもひとりでしようとしていた華乃に頼られたのだ。

張り切らない訳がない。

 雪雅はおもむろに咳払いをして不自然なほどにキリッとした顔を作った。

 その表情をみた黎季も表情を引き締めて廊下で必死に雅冬をひきとめている息子に声をかけた。


「柚稀、雅冬様をお通ししなさい」

「と言うことですので、どうぞ」

「失礼いたし……」

「雅冬…?」

「この匂い……、父上、お聞きしたいことがあります」


 雅冬の言葉と表情にふたりの顔が引き攣るのはいたしかたないことだろう。

 目線を泳がせまくる雪雅と黎季にはもう可愛い娘に頼られた!という喜びも自分がなんとかしてやらないと!という使命感もない。

 あるのは次に雅冬の口から零れる言葉への恐怖だけだ。

 それでも雪雅は引きつった顔で精一杯答えた。


「っな、何かな??雅冬」

「紫月のことで私にまだ何かおかくしになっていることがお有りなのでは?」


 やっぱりぃいい!!

 匂いだけで華乃の存在に勘付くなんて我が息子ながら恐ろしい。

 人の良い笑みを浮かべているはずなのに、笑っているのは口元だけで目は全く笑っていない。

 笑っていないだけならまだいいが完全に目が据わっている。

 何故かさっさと吐けやコラ。という幻聴まで聞こえる。


「ある訳ないじゃないか。ねぇ黎季?」


 殿ォオオオ!!何故私に振られるのですか!?

 私がそういうの苦手だって知ってんだろっ!?

 雅冬様が華乃のことに関して異様に勘がいいこと知ってるだろぉオオ!?


「えぇ、勿論です。なぁ、柚稀」


 なんとかするっつって姉上にカッコつけといてそれですか?

 あーあ、コレ帰ったら絶対姉上にキレられるな。

 ……隣の部屋から怒気が伝わってくる気がしてならない。


「……私が知っている訳ないでしょう。父上や雪雅様がご存じないのに」

「それで何を御存じなのか」

「雅冬様。

 雪雅様と父上が何故兄上について何か知っているとお思いになるのですか?」

「親父が胡散臭い笑み浮かべて藍堂あいどうのおっさんに話を振る時は都合の悪ぃ時だ」

「お二方ともまだ兄を亡くした傷が癒えておられぬのでしょう。

 兄は雪雅様にも大層可愛がって頂いていたようですし」

「あぁ、知ってるぜ。毎月3日は絶対親父が離さなかったからな」

「ま、雅冬??」


 く、口調が素に戻ってるよ??

 父上に対する尊敬が無くなってるよ??


「まぁ、紫月が女だって知って理解はしたが……なァ親父。

 さっさと吐いちまった方が楽で良いと思うぜ??」

「あ、あはは、お父さん何も知らないョ」


 理解はしたって、納得はしてないってことじゃないよね?俺の思い過ごしだよね?

 というか黎季ぃ、何目ぇ逸らしてんだコラ。

 俺が息子にられても良いのかぁ!?


「ほぉ~。藍堂のおっさんもグルか」

「私は何も存じ上げませぬ」


 馬鹿殿テメェ、人を巻き込むんじゃねぇよ!!

 華乃ちゃーん。父上悪くないから、悪いのは全部この馬鹿殿だから!!


らちが明きませんね。本当にお二人とも御存じないのでは??」

「今日はやけに二人を庇うなぁ?柚稀」

「殿が老体を甚振いたぶっておいでだからです。

 こんなのでも一応私の父ですから」

「この俺にンな戯言ざれごとが通用するとでも??」

「戯言も何も、事実でしょうに。

 大の大人、しかも敬愛する父にあんなキモチワル……ゴッホン、助けを求められて放っておけるほど私は冷たくありませんよ」

「よくもまぁ抜けぬけと……。

 だが、これでお前もグルだってことがハッキリしたな」

「……」

「さぁ、知ってること全部吐いてもらおうか?」


 ゴクリと三人が三人とも覚悟を決めて唾を飲み込んだ瞬間、天の助けとばかりに障子の向こうから声がかかった。


「ご歓談中失礼いたします」

「っ!?」

東條とうじょう様、藍堂様、主がお暇させていただくと」

「お、おぉ!!そうか、では見送りをせねばな!?」

「そうですね!!さぁさ、参りましょう。殿」

「待て!!アンタ名は?」

「……華と申します」

「華、か。

 ……俺の惚れた女と良く似てる」

「……そう、ですか。

 では私はこれで失礼いたします」


 惚れた女って誰のことデスカ!?

 脳内で大絶叫しながらなんとか笑みと言えるものを浮かべた華乃はそそくさと退散することにした。



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