彼は彼で、彼でないもの
「うふふっ・・・ふふ・・・。」
真っ暗な夜
星と付きが手を取り合って朝焼けまで踊る夜
奇妙な笑い声が大空へ木霊する
僅かな光で映し出される影は少年だった
真っ黒な今のような空に似通った髪
前髪は目を覆うほど長く目の色はわからない
闇にボンヤリと浮かぶ手の平が見えないほど袖の長いワイシャツ
血のように真紅の色をした大きなリボン
半ズボンに膝を覆うほど長い靴下
手には姿に似合わない大きな鋏を持っている
「ふふっ・・・・・、今日は何人目かなぁ・・・。」
クスクスクスクス、笑い声を上げる
べったりと血の付いた鋏をハンカチでひとふきする
口を歪めたままウサギを象ったバックをキュッと抱きしめる
「ねぇ、クロック。これからどうしようかぁ?」
『さぁ、詩詞の行きたいところへ。』
「クロックはすぐそう。」
詩詞は口元をむすっと結んで言う
『じゃぁ、家へ戻ってもう寝ろ。』
「どうして、まだ夜は長いよ。」
そういいながらも足を帰路へと向ける
「もう、眠くなっちゃった。」
ごしごしと目元をワイシャツの袖で擦り言う
もう月は天高く昇っている
「ふぁー。クロック、おはよぉ。」
そういった詩詞の前には青年が1人
「おはよう、じゃないだろう。」
「わかってるよぉ・・・でも僕からして見ればねぇ、朝なの。」
ポヤッと笑い詩詞は言う
そうしている詩詞の頭をひとなでして寝癖を直してやる
「ね、クロック。今度はいつまで人のままでいられるの?」
ピョコっと頭を揺らしクロックを見上げ問う
クロックは元は縫いぐるみだ
けれど一定期間のみ青年の姿をしていられる
詩詞は詩詞で年をとらない
自分が何者か、わかっていないのだ
「さぁ、1週間は持つんじゃないか?」
「むぅー、短い!」
頬っぺたをプクッと膨らませ言う
クロックは詩詞にとって絶対の人物だ
「仕方ないだろう?俺とて不本意だ。」
「うーうん。ごめん、僕わがまま言った。」
そういって俯いてからニコッと口元に笑みを浮かべる
「クロックは僕のお兄ちゃんなの。あ、でも家族で、友達で、えっと・・・。」
まだ何かあるようで首をかしげている
「あ、わかった。あとね、あとね。こいびとなのー。」
そう笑って、かつ無邪気に発された言葉に硬直する
「だってねぇ、ご本に書いてあったよぉ。」
ニコニコと続ける
「ギュってしたり、すきって言うのはね、恋人同士なんだって。」
何処でそんな如何わしい本を読んだのだろう
好きは好きでも好き違いだと思うのだが
「僕をすきって言ってくれるの、クロックだけだよ。」
だからね、と言葉を続ける
「僕もクロックが1番大好き。」
恥ずかしい言葉を笑って無邪気に言えるのは幼いからだろうか
そういえばいつだったか人を殺めながら言った事があった
・・・・・・僕は誰からも愛されないんだ、どうして何もしてないのに
そういって泣き崩れた事があった
理由はわからない
わかっているのは、恐ろしく無邪気で残酷それだけだ
快楽を得たように嬉しそうに人を殺めていく
そして急に大人びた態度を、性格が変わったように振舞うのだ
「僕を最後に壊してくれるのはクロックだけだよ。」
くすりと笑い詩詞が言う
今までと違う低い妖艶な声
やはり自分はさっきまでの子供らしい詩詞のほうが好きだ
「それはどうやってとっていいのかな?」
「好きにとっていいよ。」
そういわれ口元に口付ける
「・・・・・んぅ。クロック?」
キョトンとして詩詞が問う
さっきの詩詞は何処に消えたのだろうか?
「続きはしてあげないの?」
耳元でまたあの妖艶な声がする
「クロックぅ・・・続き、して?」
そういわれもう一度口付けた
くうくうと音を立てて詩詞は眠っている
あの妖艶な声はもう1人の詩詞の声だ
自分は詩詞のことをしらなすぎる
もう一年近くいっしょにいるが知ってる事は少ない
これから詩詞をどう扱えばいいのか考えながら自身も目を閉じた




