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雑草の歩く道 ①


私は春が好きだ。


草木の芽吹く春 。

だが、一番に動き出すのは雑草たちだ 。

植えられた 花よりも、一足先にぬくもりを感じて葉を広げ、 背伸びする。

踏まれても、また次の日には起き上がる 。

そして、知らぬ間に小さな花をつける。


そんな名もなき草たちが、私は好きだ。




******



=ひかげに咲く はこべ=




私には、幼い頃の記憶があまりない。どうやら 自分で蓋をして隠してしまったようだ。


一つだけ覚えている映像がある。


3、4歳の頃だろうーー

大きな玄関の上に飾られた、能面 。

部屋に入ると、ベッドに横たわる優しそうなおばあさん。

奥の部屋には、2人のお姉さん。

一人は怖い顔、 1人は笑顔 。


たったそれだけだ 。


後から知った 。

これは、母が私を連れてお給料を運ぶ場面だ。


おばあさんは本妻さん、お姉さんは腹違いの姉だ。



私は、私生児として生まれた。




幼い頃の私は、あまり泣かない 、手のかからない子だったそうだ。

父親の記憶は、小学校まで飛ぶ。


背が高く、仕立てのいい背広に アスコットタイ、いつもハットをかぶっていた。

おしゃれな紳士。


でも、顔にはシミが浮き、髪は薄くなっていた。


記憶の父は、おじいさんだ。


父であることは分かっていたが 、事情を把握したのは、中学に上がった頃だ。


それまでの私は、うちは何かおかしいのか?と思う程度で、時折家に来る父をパパと呼び、たまには一緒に釣りに行った。

ただ、どうしてこんな年寄りなの?と思っただけで、かなりぼんやりした子供だった。


3,4年生ぐらいの時、学校家庭調査の紙に、父の名を書いた。

翌日、母は学校に呼び出された。

そして帰ってきて、 烈火のごとく怒った。

でも私には分からない。苗字が違っても、父には変わりないのに。


それからは、このことには触れないようにした。

いつも、母の顔色を伺っていた。


母にとっての私は、ペットのようなものだった。

外では、さも大事そうに可愛がるが、家の中はいつも暗かった。

機嫌の悪い時は、体罰こそなかったが、当たり散らされた。


家族の団らんや、笑った記憶など全くない。



中学に上がる前、さすがにぼんやりしていた私にも、大人の会話から薄々事情が分かり出す。


父が、母や本妻さんと別れた。 3号さんのところで、余生を過ごすという。そんな修羅場に連れて行かれた。

正直 あまり覚えていない。

キーキー騒ぐイメージしかないのだが、そうか、そういうことかと、私はやっと理解した。


母は、ちゃんと認知してもろたで。と、誇らしげに私に言った。

が、もうぼんやりな子ではなくなっていた私は、今更何なの、関係ないやん、と思った。


そして私は、母の見栄を張る道具になっていった。




中学に上がると、私はソフトボール部に入った。

みんな真新しいグローブをつけている。私1人だけ、叔父の古いグローブだった。

手にはよくなじんで、使いやすかったけれど、恥ずかしかった。

3年間、そのグローブを、紐が切れても修理して使った。


勉強はよくできた。

母は、私をその頃まだ少なかった進学塾に入れた。

どこで聞いてきたのか、私が数学では女子のトップクラスだと言われ、鼻が高そうだった。

でも私は、 塾のためにクラブを早退するのが悲しかった。



母は、虫の居所が悪いと、勝手に怒り出す。

さすがに中学生になると、こっちも言い返す。

そして私は、その頃には、正論で論破する技を身につけていた。


謝れと言われても、絶対に謝らない 。

だって、小さい頃から、いつだって、母にごめんなさいって言っても、

「ごめんで済んだら警察いらん」と言われ続けていたから。


そして、どんどん母の怒りは飛び火し、わけがわからなくなっていく。


「そんなに言うなら 産まなきゃよかったのに」

と冷たく返す私。

そして母はさらに逆上する。

私はもうスルーする。


そんなことが何度もあり、私は母には話が通じないことを悟り、正面から相手しないようになっていった。


学校のことも、自分のことも、必要以外の会話をしなくなった。




高校は、市内でも一番の公立進学校だ。

やはり、母は鼻が高そうだったが、もうどうでも良かった。


家の中が暗い分、外では明るく振る舞った。

いつもヘラヘラふらふら。そんな私のキャラの土台は、多分この頃できたんだろう。

でもその裏で、別の私はずっと黙っていた。

隠れネクラは知られざる私の本質だ。



中学後半から背が伸びて、160cm を超え、まだ伸び続けていた。

母は小さい。

これは父の遺伝子だと確信した。多分 頭も父の遺伝子だ。


高校では、全く勉強する気になれなかった。

母は、公立大学進学を夢見ていたようだが、そんなもの無視だ。


他にやりたいことを見つけた。


陸上競技だ。


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