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外れスキルなどない! オタク教師は熱弁する

掲載日:2025/12/08

 

 ついさっきまでは普通の教室だった。

 やる気のない生徒を前に私は教卓で出席を取っていた。

 新作のゲームを思考から追いやり、お仕事モードをオンにしようとしていたのだ。


 突然めまいに襲われる。立っていられない。

 直下型地震だ。


「みんな机の下に」


 叫んだ時には教卓が消えた。

 机もイスもなくなって生徒たちが床に座りこんでいる。眠っていた生徒なんて転がっているし。


 そして私たちがいる場所も教室ではなくなっていた。



 球形の部屋。ドーム状の天井には空が描かれている。

 床には装飾的な模様がいくつも描かれており、その中の1つにみんな収まっていた。

 

 まるで魔法陣。どこなんだこの不思議空間は。



「皆様は今召喚されました」


 不安にザワザワする中、やたらと露出度の高い美女が自信満々でこちらに語りかけてくる。


「わたくしはこの世界を統べる女神。皆様にはこれからこの世界の悪の権化、魔王を討伐してもらいます」



 あー、これあれじゃん。クラスごと召喚の。ラノベで良く読む。



「異世界転生ってやつ?」


 バカ男子が騒いでいる。

 転生だと地震でみんな死んでいるから、転移がいいんですけど。



「魔王を討伐してくだされば、もちろん皆様は元の世界に戻れますわ」


 転移だった。ほっとする。


 そこからは特にオリジナリティもなく自称女神の説明が続く。

 ここにいる全員にはそれぞれスキルが与えられたらしい。

 みんなの手の甲に文様がが光っていた。


(あるある)


「みなさんにはスキルを授けました。ステータスオープンと唱えて下さい」


 試しに唱えたら本当に出た。

 ディスプレイも何もない場所に文字が浮かび上がる不思議。



 女神は一人ずつスキルを確認している。


 サッカー部のエース君はSランクの勇者らしい。

 成績がクラストップの女子はSランクの賢者。


(分かりやすいなー)


 自分のステータスも確認してみる。スキルは洗脳・能弁・育成‥ 教師ってそうだよねー


 ジョブは‥ 『導く者 ランク C』


 Cランクにちょっとイラっとした。



「何か分からないことはあるかしら?」


「はーい、女神様に攻撃したらどうなるんですか」


 おちゃらけ男子たちがこれまたあるある質問。


「わたくしは至高の存在なのであなたたち風情には傷1つつけられませんわ」


「だったらあんたが魔王を倒せよ」


「残念ながら神であるわたくしには魔王城の結界に入れませんの」


 これもよくある流れだよな。

 ネット小説とかアニメとかのご都合主義設定。


「ところで女神さまって何の女神ですか? 知恵とか戦いっすか?」


「この世界を統べる最高神です」


「魔王が手に負えないんじゃ世界を統べるとは言わないのでは」


 うん、高校生って口が減らないよね。私も時々切れそうになるもん。



「屁理屈こねる子は深淵に落ちてもらいましょう」


 ゆったりと邪悪にほほ笑む存在に、生徒たちは沈黙した。



「よろしい。しかしこの中でも一番使えない外れスキルの持ち主は1人で深淵に落ちてもらいます」


 女の指は一人の生徒を指していた。


「あなたはいりません」



 彼は、不登校ぎみの暁君。

 今日は定期テストがあるから頑張って登校したと言うのに不憫な。


「なんでオレだけ」


 泣きそうな顔の彼は女の力か何かで体を浮かされ、中央の魔法陣に。



「待ってください」


 私は大声を上げた。

 もしここが異世界でも私には生徒を守る責任がある。



「この子を助けたいなら、あなたも一緒に行って構わなくてよ。他に助けたい方は何名でも深淵に送って差し上げるわ」


 よし、何人でも行けるんだな。

 私は生徒たちに向かってスキル洗脳を発動させた。


「みんな、あの魔法陣にのりなさい」


 耐性がある数人を除き、ほとんどが従った。

 私ものる。


「は、その子1人を助けるため、その他大勢を犠牲にするとは。何て愚かな。導く者として失格ですよ」


 自称女神は醜く笑った。

 本当に分かっていない奴。

 私がどれだけ異世界小説・マンガ・アニメを漁ってきたと思う?



「犠牲? このパターンでは外れスキルが一番の当たりだ! みんな一緒に行こうぜ、このルートが正解だぁ!」


 私の言葉に残った数人もこちらに向かう。

 続けて私は自称女神に向かい合った。


「このままどこにでも送れよ。序盤だけハードモードで後はヌルゲーにしてやるから」


 女は「ちっ」と舌打ちして手をかざす。


 魔法陣が光った。





 地下深くの迷宮は強敵のオンパレードだった。

 いくら力を合わせても勝てない相手はいくらでもいた。


 しかしその時は彼に頼めばよい。


「暁君、お願い」


 暁少年はうなずいて唱える。


「スキル発動、引きこもり!」


 現れる扉、逃げこむ戦闘メンバー。



 暁君のスキル名は『引きこもり』

 発動させて現れた扉の中は、絶対的な安全圏だった。



 もちろん初めはショボかったよ。

 出せるのは彼の自室の扉で、入れるのは彼だけだったし。

 倒せるのはそこら辺の虫くらいで経験値も1とかだったし。


 だけどスキルレベルが上がると入れる人数が増え、部屋数も増える。

 初日でトイレが登場した時はみんなで歓声を上げたね。


 数日は高ランクの勇者や賢者ポジの子に頑張らせちゃったし、眠っている間に敵に見つかったらどうしようって緊張しまくったけど。



 そう、大変だったのは最初の数日。今彼は自宅の扉が出せるし収容人数も増えた。

 全員入るとぎゅうぎゅうだけど、インフラ完備でシェルターとしては最適。



 そしてその家が暁君の居場所を作る。クラスメイトと言う集団の中に。

 今では少数だが親しい友人もできた。


 良かった。誰も死なずに済んだことはもちろんだけど、彼が「オレを見放したクラスの奴を見返してやる」って思想に染まらなくて。



 世の中の人間は他人に対して無関心だ。

 それを見捨てられたように感じたことは私にもある。


 だけどけしてバカにしているわけでも笑い者にしているわけでもないのだ。

(マウント取ることに必死な一部の人間を除く)


 みんな仲良くが無理なことは百も承知だけど、他者に対して不要な敵意を持って欲しくなかったのだ。



 欲張ると、みんながそれぞれに活躍できるのが最高。




「ほらほら、たまには外に出てレベル上げて来なさい」


 私は生徒全員に発破をかける。

 強キャラ以外のクラスの子たちも少しずつレベルを上げだした。

 ある程度の安全が保障されれば戦闘に加わるのも気安くなるしね。


 低レベルの子は虫つぶしで経験値をためさせた。

 治癒魔法や状態変化が使える子は、敵を倒さなくても技を有効に使用すればレベルが上がった。



 そしてレベルが上がれば新しいスキルを獲得できることが発見される。


 スキル『読書』だった子が『図書館』を使えるようになり、大人数の収容が簡単になった。

 スキル『大食い』だった子に『ファミレス』が発現した時はみんな狂喜乱舞したよ。



 私の洗脳スキルも上達して、今では「止まれ!」と命令するだけでモンスターの動きがストップする。

 その後はみんなでフルボッコ。


 ちょっとだけ罪悪感はあるけどね。



 まあ迷宮から脱出する前にヌルゲー化してしまった。




 深淵に広がる迷宮を探索し出口を発見したのは半年後。

 ぶっちゃけ敵との戦闘より迷宮探索の方が大変だったかも。


 おかげでみんな超レベルアップ。

 脱出後は近くの町で素材を売って家を買った。拠点って大事だからね。



「はい、注目!」


 能弁スキルのおかげでみんなに話を聞かせられるのは助かっている。


「今まではハードモードだったので一緒に行動していましたが、もうみなさんはちょっとやそっとじゃ死にません。なのでここからは自由行動です」


 ずっと同じメンバーと顔をつき合わせていたらギスギスする。

 ここは仲良しメンバーで少人数行動を許そう。


「計画を立てて行動し、この世界を知りましょう。もし帰る方法が分かったら私に知らせること」


 グループのメンバーを把握して計画を聞き送り出す。

 所持金は1人銀貨5枚ずつ持たせた。


 ちなみにドロップ品を売った金は私が一括管理だから。高校生に大金持たせるなんて怖くてできないわ。


 何組かを交代で町に出し、体験を発表させる。

 騙された話とかぼったくられた話とかスリにあった話とか。


 少しずつこの世界への耐性をつけさせながら遠出も許可した。渡す資金も増やす。

 連絡は『インターネット』のスキルを発動させた子がみんなのスマホをつないでくれたから、それで。

 充電設備スキルがあればいつでも連絡可能だし。





 そして歳月はめぐる。


 生徒たちはひたすら新天地を求めて冒険する者、王国からのクエストをこなし名声を得る者、拠点の町に居続ける者、とそれぞれの道を選んだ。



 暁君は1人で旅立った。

 送り出すのはちょっと不安だったけれど、彼はいい顔をしていた。彼自身の生き方を認めるべきだろう。




(ところで、まだだれも魔王を倒していないんだよね)


 自称女神によれば魔王を倒せばゲートがつながるようだったが‥

 ハッキリ言って私はあの自称女神を「神」とは認めていない。


 神とは信仰に支えられている存在。

 つまり信じていない神は神ではないのじゃ。



 そして今の私にとって帰ることは優先事項から外れている。


 だって生徒は無事に育ったし、生活の心配はないし。


 だらだら日々を過ごす私が今一番望むのは、



(もっと、他の世界に行きたい!)



 私だって拠点を離れて数日くらいの冒険には出かけたけどさ。

 転移魔法を覚えた生徒に色々連れて行ってもらったけどさ。


 その、実は‥ ゲーム仕様の異世界って、私の好みの一部でしかないのよね。




 ライオンが救世主だったり果てしなかったりする世界も大好き。

 転移作品だけじゃなくファンタジー全般が。

 世界一有名な魔法使いが出てくる作品や影と戦う作品とかにも行ってみたい~


 子供の頃の私は本を開けば、あっという間に異世界に飛びこんでいた。

 この世界にさっさと順応したのはあの時に児童文学がくれた経験のおかげだ。



 悶々としていたら、私の手の甲が光った。

 新しいスキルが発現している。


「ステータスオープン」



 特に期待していなかったが、私が獲得したスキルは


「異世界ゲート」だった!



 どうしよう。

 先生の私が拠点放棄しちゃダメかな?



 頭を振る。とりあえず説明を読もう。



『異世界ゲート マジックポイントを全消費することにより異世界への扉が開かれます』

『スキルレベル1 現実帰還』 


 

 神や魔王に関わらなくても、元の世界に帰れるらしい。

 そして私はステータス画面の注意書きに目を奪われた。



『注 このスキルは現実に戻っても消えません』



 よっし、みんなを集めてまとめて返そう。

 そしてその後、自分だけ楽しもうっと!

 


 お家に帰るまでが異世界冒険です!

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