令嬢の遺言状ー首を拾えば桔梗が咲くー 『手紙』
あるところにレオンという名の若き貴族がいた。彼には婚約者の令嬢、セリーヌがいたが、その令嬢はある罪に問われ、死刑が言い渡されていた。罪状は「殺人」。噂は街中を駆け巡り、ひとつは彼女が実の父を手にかけたというもの、別の噂は父からの虐待に耐えかねての反撃だったという。あるいは誰かを庇うために罪を被ったのではないかとも囁かれる。殺人など滅多に起きないこの街では、事件の話題が尽きることはなかった。
これから示すのは、そのセリーヌがレオンに宛てた手紙──最期のメッセージである。
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私の親愛なる婚約者様へ
楽しくお暮らしになっていることかと思いますね。私がいないのだから。
知っているとは思うのだけれど、私は明日死刑が執行されることになったわ。
儚い人生だったとは思うけれど、最期に貴方に手紙を送ろうと思うの。
ずっと前、忘れもしないあの日。婚約の申し込みは貴方からしてきたの。
冷たい態度で私は軽くあしらったというのにあなたは全然諦めもしないのよ。
とっても滑稽だったわ。本当にあの時の貴方は惨めで無様だったわ。
しつこく迫ってくるもんだから、つい呆れて受け入れてしまったのは私のミスね。
貴方は子犬のように喜んでいたのよ。本当にうざったかったわ。
忘れもしない。転んで泥だらけになったあなたの姿。本当に汚らしかったわ。
折角だから最期に貴方にメッセージを送るわ。
断頭台に私が立つ。今手紙を読んでいる貴方がこの意味をご存じで?
つまり、『私の首』が落ちて死ぬってわけ。さぞ嬉しいでしょうね。
大層いい御身分の貴方は遠くから私の死を見るのかしら。
今まで散々あなたに対して惨い仕打ちを繰り返したのだから、因果応報よね。
まぁ、貴方にはどうせすぐに別の婚約者ができるのでしょうね。
まさしくこの私のように貴方の財力目当てで飛びつく女が大勢現れるわよ。
出来損ないの貴方を好きになる人なんているわけじゃないの。
有り得ないことをすぐに考えるのはやっぱりあなたの悪い癖ね。
理解力。貴方に足りないものね。これからもずっと苦しみ無様に死んでほしいわ。
我慢強い貴方はこの遺言状を読んでも、何も感じないのでしょうね。
とんだ災難を背負わされたわね。本当に最悪の気分よ。
運が本当についていなかったわ。貴方と婚約なんてしなければよかったわ。
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遺言状の封には彼の婚約者であった令嬢の名前とメモが記され、彼女の好きな桔梗の花が一輪添えてあった。
「この花は竜胆で、貴方は桔梗。私を探さないでね。これは私のための桔梗。」
彼は零れそうになる涙をぐっと堪えながら、「裏切られた。」と強く哀しみ、手紙を丸め捨てた。 しかし、彼はまたその丸めた手紙を拾い、丁寧にしわを伸ばす。 ふと、手紙の下を見ると何か染みた跡があったのを彼は見つけた。 指で触れると、乾いた塩の粒が砕けた。インクではない。涙だ。
彼女は彼を本当に裏切ったのか。彼はメモをもう一度見返した。 「この花は竜胆で、貴方は桔梗。私を探さないでね。これは私のための桔梗。」 竜胆、桔梗。 彼はその時気づいてしまった。この手紙の真実に。そして彼女のメッセージに。 竜胆は嘘、桔梗は誠実。——手紙は彼女の誠実な嘘だと彼は気づいた。 しかし本当に正しいのか一瞬ためらったが、その解釈は彼の胸の奥で静かに確信へと変わった。
なぜならこの手紙の『首』には彼女の本当の思いが隠されているからだ。 つまり、手紙はブラフ。彼女が伝えたいことはメモにあると彼は考えた。 彼はもう一度メモの内容を見直した。
「これは私のための桔梗。」
―ー違う。これは彼ーー貴族のための竜胆。 つまり彼のために嘘をついたということになる。
一体なぜ。なんのために。 彼はすぐさま支度し、外に出る。 彼は探すべきは彼女の首などではなく、彼女と彼の首だということに気が付いた。
彼が走った道に風が通り、桔梗が揺れる。 記憶が、あの日の庭の午後を連れ戻す。
「私は桔梗の花が好きですわ。竜胆とよく見間違えますわね。いつか桔梗を見つけてくださいね。」
彼――レオンは真実を求めるために、桔梗の影が伸びた方角へ、迷いなく全速力で駆け出した。
筆者あとがき
このお話を書き始めた理由は「首」ってたくさん読み方があったんだ。と知ったからです。
凄くくだらないようですが、いろんな漢字にはいろんな読み方があるのだと改めて学びました。
次回もしっかり頑張っていきますので、感想 評価 レビュー歓迎してお待ちしております。




