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第8話:意外な一面

「ヒューゴ様! 女性の部屋に入るときはノックしてくださいよ!」


 いきなりモニカがヒューゴを叱りつけたので、アイリスはびくっとした。

 だが、ヒューゴは怒るどころか申し訳なさそうに頭をかいた。


「そいつは俺の……こ、婚約者だぞ。構わないだろ」


 奴隷と言いそうになったらしいヒューゴが、つっかえながら言う。


「そんなの関係ありませんよ! ヒューゴ様はそこらのならず者とは違うでしょう? 爵位を与えられた騎士様なんですよ!」

「お、おう……」


 モニカの剣幕に押されたようにヒューゴがうなずく。


「レディに対し紳士的に振る舞ってくださいよ! 私たちの領主様なんですから!」


 侍女であるにもかかわらず、モニカはまるでヒューゴの姉のように率直な言葉を投げかける。

 アイリスはおろおろと見守った。


「……わかった」

「え?」


 ヒューゴが大人しく首肯(しゅこう)したので、アイリスはぽかんと口を開けた。

 モニカがじろっとヒューゴを見やる。


「で、何の用です?」

「……部屋を気に入ったか聞きたくて」

「あはは! それだけですか!」


 モニカが大きく口を開けて豪快に笑った。


「アイリス様、いかがですか? ヒューゴ様は婚約者が来るからと、大急ぎで家具を揃えてこーんな立派な部屋を作ったんですよ」

「そ、そうなのね」


 まさかヒューゴ自身が指揮を執って部屋をあつらえてくれたとは思いもしなかった。


「さ、これから部屋着に着替えていただきますから、ヒューゴ様は出ていってくださいな」

「あ、ああ」


「お着替えが済みましたら食堂にご案内しますから。もうすぐ夕食ですよね?」

「ああ。先に行っている」


 ヒューゴがあっさりと部屋を出て行くのを、アイリスは信じられない思いで見送った。

 自分に対する態度から、きっと使用人に対しても厳しく接するのだと思っていた。


 アイリスは思わずモニカに問いかけた。


「あ、あのヒューゴは……いつもあんな感じなの?」

「あんな感じとは?」

「なんというか……気さくで素直で……」

「ええ、そうですよ」


 モニカが当たり前のようにうなずく。


「新しい領主様が来るというので、戦々恐々としていたんですけどね。前任者が領民を家畜のように扱う奴だったんで」


 モニカがくすっと笑う。


「ヒューゴ様は平民出身のせいなのか、私たちなんかにも仲間のように接してくださって」

「……」

「まっすぐでとてもわかりやすい性質の方だから、すぐに皆と打ち解けて」

「そ、そうなの?」


 アイリスは戸惑った。

 あまりにも自分が知っているヒューゴと印象が違う。


(私は……彼が何を考えているか、さっぱりわからないわ)


 憎しみの目で見つめたかと思えば、手当てをしてくれたり、贅沢な部屋と侍女を与えてくれたりする。


「どうしたんです?」

「い、いえ、その……私は彼の笑顔も見たことがないし、彼のことがさっぱりわからないの……」


 思わず本音を吐露してしまい、アイリスはハッとした。


(まずかったかしら……)


 モニカがじっとアイリスを見つめたかと思うと爆笑した。


「あははっ! それはアイリス様が特別な方だからですよ!」

「特別……?」


「あなたの前では格好をつけたいんでしょう。恋した男って皆、好きな女性の前では正気でいられないんですから!」

「そんな好きだなんて……」


 言いかけてアイリスは慌てて口を閉じた。


(モニカたちには私は婚約者ということになっているんだわ。私が奴隷として買われたなんて言ってはいけない)


 笑いすぎて涙が出たのか、モニカが目の端を指でぬぐっている。


(モニカは……事情を知らないからそんな風に思うのね)


 アイリスに対するヒューゴの言動を見ていないから、そう思ってしまうのだ。


「ヒューゴはきっと居心地がいいのね」


 アイリスはぽつりとつぶやいた。


「すごく肩の力が抜けて自然だったわ……」


 あんなヒューゴは初めて見た。

 アイリスの屋敷に引き取られてからも、再会してからも、ヒューゴはずっと抜き身の剣のようなギラギラとした攻撃的な光を帯びていたというのに。


「そりゃあ、自分の城の中にいるんですから」


 モニカがニッと笑ってきた。


「アイリス様はまだ緊張していますね」

「!!」


 モニカがそっとアイリスの肩に手を置く。


「無理もないです。慣れ親しんだ家や土地から離れて、騎士の城にやって来たんですから。でも、すぐ慣れますよ。領民たちは皆、ヒューゴ様を慕っています。その婚約者であるアイリス様も大事にされますから」


 思いやりのこもった優しい言葉だった。

 だが、アイリスの笑みはどうしても引きつってしまう。


(でも、私は奴隷なの……ごめんなさい)


 今後、ちゃんと婚約者として振る舞えるか、アイリスは自信がなかった。

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