第7話:侍女
「ああ、そうだ。おまえに侍女をつける。何かと女手が必要だろうから」
「そ、そんな……」
アイリスは驚いた。
それではまるで、普通の貴族の令嬢のようだ。
(私、奴隷なのに……)
「モニカを呼べ!」
ヒューゴがベルを鳴らすと、すぐにジャレッドがやってきた。
傍らには茶色の髪をした背の高い女性がいる。
メイド服を着慣れていないのか、少し窮屈そうな様子だ。
モニカと呼ばれた女性は、アイリスと目が合うと一礼してきた。
「初めまして、モニカです。アイリス様、これから身の回りのお世話をさせていただきます」
「よ、よろしく……」
アイリスは戸惑いながらモニカを見つめた。
「さっそくですが、お部屋にご案内します」
モニカの言葉にアイリスは狼狽した。
「えっ、部屋……?」
「はい」
おろおろするアイリスに、ジャレッドが優しく微笑みかける。
「アイリス様のためにヒューゴ様がご用意したんですよ」
「えっ……?」
「余計なことを言うな、ジャレッド!」
少し焦ったようにヒューゴが声を上げる。
「こちらです」
モニカがさっさと部屋を出たので、アイリスは慌てて後をついていった。
「こちらの部屋です」
モニカが二階の南向きの部屋のドアを開けた。
足を踏み入れたアイリスは、思わず息を呑んだ。
「す、すごいわ……」
部屋は美しい調度品で飾られていた。
金色のタッセルのついた薄紫色のカーテンも、飴色の棚やテーブル、ソファや天蓋付きのベッドに至るまで、一目で高級品とわかる。しかも、どれも新品だ。
(こんなの一朝一夕でできないわ。きっと何週間も前から用意して……)
アイリスは父が生きていたときのことを思い出した。
当時はこんな部屋に住んでいた。まだ、アイリスが奇跡の聖女令嬢として持て囃されていたときだ。
「いいのかしら、私……」
奴隷なのに、と言いかけてアイリスは慌てて口をつぐんだ。
(他の人に知られてはいけないんだったわ……)
(外聞が悪いものね。闇オークションで買った女を婚約者にだなんて)
アイリスが落ち着くのを待って、モニカがてきぱきと部屋を案内してくれる。
「こちらのクローゼットに服が用意してあります。身の回りのものは、鏡台に。足りないものがあれば、何なりとお、お申し付け……いたっ」
急にモニカが顔をしかめたので、アイリスは慌てた。
「だ、大丈夫?」
「慣れない言葉を喋ったから、舌を噛んじまったよ……って、あ、すいませ……いや、申し訳ございません」
言いづらそうにするモニカに、アイリスは慌てて手を振った。
「いいのよ、無理しないで」
ふう、とモニカが大きくため息をつく。
「すいませんね。育ちが悪くて。私は元々針仕事を担当していたんですが、急に侍女をやれって言われて……」
「そ、そうなのね」
「貴族のお嬢様を婚約者として迎えるんなら、ちゃんとした侍女を雇えばいいのに、余所者を城に入れたくないとかでね」
「……」
それは建前で、新たな人員を増やす余裕がないのかもしれなかった。
なにせ、大きな出費があったのだ。
(私はここでもお荷物なのね……)
実家で受けてきた罵り言葉が蘇り、アイリスの胸がキリッと痛んだ。
「私、身の回りのことは自分でできるから、あまり気を遣わないで」
「そうですか? まあ、私は手先が器用なんで服を着せたり、髪を結ったりはできますよ」
ざっくばらんなモニカの態度に、アイリスはホッとした。
格式ばったプライドが高い侍女がつくよりも、肩の力を抜いて暮らせそうだ。
そのとき、ガチャッといきなりドアが開いた。
「どうだ、新しい部屋は」
入ってきたのはヒューゴだった。




