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第45話:潜入

「では、しばしこちらでお待ちください」


 使用人に部屋に案内されたヒューゴたちは黙ってうなずいた。

 黒いターバンを巻いているので、使用人たちはキャラダインが雇ったならず者集団の仲間だと信じ切っている。


 リーダーを町で捕まえて、脅して協力させた甲斐があった。


「キャラダインの屋敷に潜入するのは成功だな」


 ヒューゴの言葉にコディがうなずく。


「便利ですね。この黒いターバン。リーダーはうまくやってますかね」

「やらねば全員殺すと言ってあるからな。ナイトクロウ騎士団の武勇が効いたな」

「決して敵を逃がさず殲滅する、って有名ですもんね」


 その名に恥じない働きをジャレッドはしてくれていた。

 戦いは戦場だけで行われているのではない。


 裏で諜報を担ってくれているジャレッドの手腕のおかげで、これまで足をすくおうとしてきた輩を退(しりぞ)けてきた。


 国境を襲撃したならず者たちをいち早く見つけてきてくれたのは、ジャレッドが部下たちに指示してくれていたおかげだ。

 そして、ならず者たちをさんざ脅しつけ、キャラダインの屋敷に連れてこさせた。


「アイリスは絶対にこの屋敷のどこかにいる。ようやく手に入れたアイリスをあいつは手放さないだろう」

「客人のフリをして、堂々と屋敷を探れますね」


「怪しいのは警備が厳重な場所だ。おそらく手練(てだ)れを見張りにつけているだろう。気をつけろ」

「了解しました!」


 失態を取り戻したいと潜入班に名乗りをあげたコディは張り切っている。

 ヒューゴは三人の部下と共に部屋を出た。


 どうせ、キャラダインはたびたび怪しい人物を呼び寄せている。大して目立たないと判断したのだ。

 堂々としていれば、使用人たちは勝手にキャラダインの客人と思って声をかけていこないだろう、というヒューゴの考えは的を射ていた。


 使用人たちは黒いターバンを巻いたヒューゴを見るとぎょっとした表情になるが、怯えた表情でさっと目をそらせ、問いただしてくることはなかった。


(どこだ、アイリス……)


 地下に閉じ込めるほどの危険性は感じていないはずだ。

 だとすると、二階以上の逃げづらい場所にいる可能性が高い。


(外から見たところ、この屋敷は三階建て。そして、一箇所尖塔があった……)


 尖塔の部屋なら、誰かを隔離するのにぴったりだ。

 逃げる手段も限られている。

 ヒューゴは階段を小走りに上がった。


(そろそろ頃合いか……)

(陽動作戦のお返しをしてやる)


 ヒューゴがにやりと笑ったとき、ちょうどいいタイミングで爆発音が鳴った。



 凄まじい爆発音に、アイリスはびくりとした。

 ワイアットがさっと窓の外を窺う。


「なんだ……?」


 アイリスは胸がドキドキしてきた。


(もしかしたら、ヒューゴが……?)


 そのとき、ドアが激しく叩かれた。


「アイリス、いるのか!」

「あ――」


 ヒューゴの声に応えようとしたとき、背後から口を塞がれた。


「んんっ!!」

「静かに!」


 ワイアットが押し殺した声で囁いてくる。


「アイリス!!」


(私はここよ……!)


 そう叫びたいのに叫べない。

 アイリスは覚悟を決めた。


「んんっ!!」


 ガリッと嫌な音がし、口の中に鉄のような不快な味が広がる。

 アイリスは思いきりワイアットの指を噛んでいた。


「うっ……!」


 たまらずワイアットが手を離す。


「ヒューゴ!!」


 自分でも驚くほどの大きな声が出た。


「アイリス!! 扉から離れてろ!!」


 アイリスはさっと窓際まで下がった。

 しばらくして、大きな爆発音とともに扉が倒れてきた。

 そして、黒いターバンを顔に巻いた男が突入してくる。


「アイリス」


 ホッとしたような声と共に、黒いターバンが外された。


「ヒューゴ!!」


 たった二日離れていただけなのに、もう長い間会っていなかったような懐かしさが込み上げる。

 駆け寄ろうとした瞬間、ぐいっと肩をつかまれ背後に引っ張られた。


「あっ……」


 アイリスを背後へと押しやると、剣を抜いたワイアットが前に出た。


「誰か知らないが、そこをどけ。今なら見逃してやる」


 ヒューゴの言葉に怯むことなく、ワイアットが剣を構える。


「私はワイアット・デイル。キャラダイン様の邪魔をする者は私が倒す」


 ぐっと剣を握る手に力を込めたワイアットを見たヒューゴがすらりと剣を抜いた。


「あ……」


 アイリスはドキドキした。

 こうやって剣を構えるヒューゴを見るのは二度目だ。


 だが、前回は決闘だった。

 今度は本気の殺し合いだ。


(もしヒューゴが死んでしまったら――)


「やめて!」


 アイリスは思わずワイアットに背後から抱きついた。


「アイリス様!!」


 一瞬の隙を見せたワイアットに、ヒューゴが剣を鋭く打ち込む。


「ぐっ……!!」


 ワイアットが間一髪で剣を受ける。

 彼もまたただ者ではない。

 ヒューゴは力押しにせず、一旦体勢を整えた。


「アイリス、危ないから下がっていろ!!」

「で、でも!」

「俺を誰だと思っている!」

「……っ」


 アイリスが下がるや否や、激しい剣の打ち合いが始まった。

 ワイアットはスピードの乗った連撃を繰り出す。

 よけそこねたヒューゴの頬に赤い一線が走る。


「ヒューゴ!」

「問題ない!」


 ヒューゴがにやりと笑うと鋭く踏み込む。

 一閃――目にも止まらぬ速さでヒューゴの剣がワイアットの剣を弾き飛ばしていた。

 そのまま、ワイアットの首筋に峰を打ち込む。


「ぐっ……!」


 たまらずワイアットが崩れ落ちる。


「いい腕だが見切った」

「ヒューゴ、殺さないで!」


 アイリスの懇願にヒューゴがにやりと笑う。


「誰が殺すか勿体ない。おまえ、キャラダインなんかより俺に(つか)えないか?」

「なっ……」


 苦痛に顔を歪めながらワイアットが顔を上げる。


「まあいい。考えておけ」


 ヒューゴが余裕の笑みを浮かべ、剣を鞘に収めた。

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