第27話:聖女の力
「それも聖女の力なんですか?」
ジャレッドに問われ、アイリスはびくっとした。
「どうかしら……」
聖女の力は自然と関連していることが多い。
アイリスが子どもの頃、発揮したのも自然災害の予知だった。
考えてみると、他の人にはない鋭敏な感覚がもたらす能力なのかもしれない。
「ごめんなさい。不安定な力なので何もわからないの。でも、なんとか探してみるわ」
そう言い切るアイリスに、ジャレッドが驚いたように目を見張った。
「城で何かありました……?」
「え?」
「まるで別人のようですよ」
「……絶対にヒューゴを助けたいんです」
昔、白磁草を見つけたときも、父の病気を治したくて必死だった。
集中力が高まり、神経が研ぎ澄まされていた感覚を覚えている。
(あの時の感覚を思い出すのよ、アイリス)
だが、ようやく見つけて帰ってきたときは既に遅く、父は息を引き取っていた。
(今度は絶対に間に合わせてみせる!)
アイリスの指示に従い、ジャレッドがゆっくり馬を進める。
「あっちへ……」
アイリスは森の奥を指差した。
鬱蒼と茂る木々の間を通る。
(なんだろう……奥に少し明るい場所がある)
「滝が近いようですね」
ジャレッドの言葉どおり、ドドドという滝音が近づいてくる。
「あ――」
草が生い茂っているなか、白いものが見えた。
「これは……!」
ジャレッドも息を呑む。
それも当然だ。
白磁草が両手に抱えられるほど、まとめて群生していたのだ。
通常、他の草の中に密やかに一本だけ佇んでいるのが白磁草だ。
まとめて生えているものなど、アイリスも初めて見た。
「な、なんで白磁草がこんなに……!」
ジャレッドが絶句している。
だが、アイリスは落ち着いて群生している場所を観察していた。
近くには滝がある。
以前、侯爵家の領地で見つけたときは、近くに川があった。
(自然の水場の近くに生えやすいの……? 他はなんだろう。土?)
ふたりは馬を降り、白磁草を幾本か摘んだ。
「ジャレッドさん、全部摘んでしまわないで、残りは土ごと持って帰れないかしら」
「どういうことです?」
「今必要な分以外は、移植しようと思うの」
「育てるってことですか!?」
「試してみたいの。もし城の近くで育てば、安定供給できるし」
「わかりました! すぐに手配します」
珍しくジャレッドが頬を紅潮させている。
貴重な白磁草を育成できるかもしれない可能性に沸き立っているのだろう。
それは莫大な金を生むだけではない。
奇跡の治療薬は、どんな相手への取引材料にもできる。
(ヒューゴに恩返しができるかもしれない)
そう思うとアイリスの心も高揚してきた。
(まずはヒューゴに白磁草を持って帰らなくちゃ)
アイリスとジャレッドが城に帰ると、待ちかねた人たちが集まってきた。
皆、期待に満ちた顔をしている。
「白磁草、見つけてきました!」
アイリスが言うと、皆からわっと歓声が上がった。
「アイリス様がみつけてくださった! これでヒューゴを治療できる!」
ジャレッドの言葉に、集まった者たちが一様に尊敬の眼差しをアイリスに向けてきた。
「すごい!」
「さすが聖女様だ!」
「ヒューゴ様は素晴らしい人を選んだな!」
わき起こる感嘆の声に、アイリスは素直に笑えなかった。
(聖女の力なのかわからないけど……今はどうでもいい)
ジャレッドが馬から降ろしてくれる。
「白磁草はどう使うんですか?」
「煎じてお茶にして飲んでもらいます」
アイリスは厨房に行くと、白磁草を丁寧に洗い、適度な長さに切っていった。
小鍋に水を入れて沸騰させ、そこに白磁草を入れる。
コトコト煮込むと、目の粗い布に入れて漉す。
「できたわ……」
アイリスはカップに薬湯を入れると、見守っていたジャレッドとともにヒューゴの寝室へ向かった。
ヒューゴのそばには医師がついていた。
「ヒューゴの具合は?」
「かなりおつらそうだ」
医師が厳しい表情で言う。
ジャレッドが表情を曇らせた。
「薬湯が効いてくれるといいですが……」
「ええ」
アイリスはそっとヒューゴの顔を覗き込んだ。
「ヒューゴ……」
呼びかけても返事はない。
ヒューゴの顔色は蒼白に近い。
汗をびっしりかいて、顔は苦痛に歪んでいる。
アイリスは思わず声を上げた。
「ヒューゴ……! 目を開けて!」
ゆっくりと長い睫毛が震え、金色の目が開いた。
アイリスはホッと息を吐いた。
「薬湯よ! 白磁草を見つけたの。きっとこれでよくなるから、飲んで!」
カップを差し出すが、ヒューゴは体を起こすのも億劫億劫なようで、顔をしかめた。
「……」
「え、何?」
ヒューゴが小さな声で何かを伝えようとしている。
アイリスは耳を近づけた。




