第24話:決闘開始
黒い騎士服に身を包んだヒューゴと、深緑色の騎士服のテオ――ふたりの凜々しい立ち姿に、観客が高揚する理由がわかった気がした。
(私も……ヒューゴの戦う姿は見たことがないわ。いったいどんな――)
ヒューゴがゆっくりアイリスに近づいてきた。
「ヒューゴ……」
ヒューゴは特に緊張もしておらず、自然体だった。
目の前に来ると、すっとポケットから白い布を出してきた。
「それ……」
アイリスが贈ったハンカチーフだった。
「これを剣のグリップに巻け。鍔の近くにな」
「は、はい……」
訳もわからず、アイリスは言われたとおりハンカチーフを結んだ。
「あの、私、何て言ったら――」
「勝ってこい、と言えばいい」
ヒューゴがさらりと言う。
「け、怪我をしないで……」
「それは無理だな」
そう言うとヒューゴが立合場の中央に向かっていく。
「それでは、ヒューゴ・ナハト、テオ・リーブス、両名の決闘を開始する! 見届け人はカーネリアン国王ロベルト陛下!」
王の側にいる宰相が高らかに宣言した。
「始め!」
わっと会場が沸くなか、ヒューゴとテオが激しく剣をぶつけ合う。
「……っ!」
アイリスはハラハラしながら見守った。
(ヒューゴ……!!)
凄まじい剣撃の連続に、いつしか観衆たちは沈黙し、固唾を呑んで見守っている。
アイリスは祈るように手を組み合わせた。
刃を潰したと言っても、重い鉄の塊だ。
それが容赦なく振り下ろされるのを見ると、心が凍りつく。
(こんな……! まともに当たったら死んでしまう……!)
事実、直撃しないまでもかすっただけで、二人の服は切れ、血が飛んだ。
「ああ……」
自分が原因でこんなことになってしまうとは。
ヒューゴがしなやかに、だが力強く剣を振るう。
だが、対するテオも有名騎士団の副団長というのは伊達ではなく、着実にかわし、受け止め、隙を狙って剣を繰り出している。
ふたりがどんどん傷だらけになり、息が荒くなる。
なかなか決着がつかない。
体力と集中力が切れたほうが負けるのは自明の理だ。
(ヒューゴ……!)
踏み込んだヒューゴの足がずるっと滑った。
「!!」
その隙を逃さず、テオが剣を振るう。
ヒューゴの無防備な脇腹に剣が当たった。
「ぐうっ!!」
ヒューゴが苦痛に顔を歪め、テオから距離をとる。
「あれは――」
「致命傷じゃないか?」
観客がざわざわし始める。
ヒューゴが剣を構えつつ、片手で脇腹を押さえる。
その口から血が滲んでいた。
誰の目にも限界なのは明らかだ。
だが、ヒューゴは目の前のテオを爛々とした目で見ている。
その目は決して勝利を諦めていない。
「あ――」
アイリスの脳裏に、ヒューゴと初めて会った時のことが去来した。
傷だらけで血が滲み、今にも倒れそうなのに、その金色の目だけが獰猛な光を帯びていた。
決して怯まず、心を折ることもなく、強烈な戦闘の意志だけが浮かんでいた瞳。
(ああ、そうだ、私はあのとき見とれてしまったのだ……)
(どうしてもこの美しい存在を死なせたくなくて)
(それで彼を買った――)
当時と同じ強烈な思いが胸に込み上げる。
絶対に彼を失いたくない。
「もうやめて……! 私の名誉なんてどうでもいいから!」
アイリスは思わず叫んでしまった。
「黙って見てろ! 俺は勝つ!」
そう言うと、ヒューゴが地面を蹴った。
気迫のこもったヒューゴの一撃に、テオがたまらずたたらを踏む。
まさか全身傷だらけのヒューゴが、ここに来てこれほどの力を見せるとは思わなかったようだ。
その隙を逃さず、ヒューゴが更なる追撃を加えた。
「うおおおっ!!」
剣の切っ先がテオの喉元に突きつけられた。
「参った!」
テオがたまらず声を上げる。
わあああっ、と観客席から歓声が沸いた。
「この決闘、ヒューゴ・ナハトの勝利とする!!」
宰相が高らかに宣言する。
「すごい!」
「ヒューゴ様が勝った!!」
立合場はヒューゴを称える声でわき上がった。




