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第11話:王城へ

 翌日、騎士団の紋章付きの馬車に乗り、アイリスはヒューゴと共に王城へと向かった。

 向かい合わせに座ったヒューゴが話しかけてくる。


「おまえは王城へ行ったことはあるのか?」

「いえ、ないわ……」


 アイリスはぎゅっとドレスを握った。

 父が亡くなってからメイド同然の生活だった。社交界デビューもしていない。


(ドキドキする……)


 王に謁見するとあって、一番高級なドレスをモニカが選んでくれた。

 髪も丁寧に結われ、宝石をいくつも身に付けた。


(久しぶりだわ、こんな正装……)


 自然と背筋が伸び、優雅に振る舞う自分がいた。


(忘れていたわ。こんな気持ち……)


 堂々と貴婦人として振る舞うのは心地がいい。


「ふっ」

「え?」


 ヒューゴが口の端をつり上げる。


「やっぱり根っからのお嬢様だな、おまえは。正装がよく似合っている。這い上がって貴族の真似事をしている俺とは根本的に違う」

「そんな……とても素敵だわ。正式な騎士姿……」


 正装の騎士服を着たヒューゴはいつにもましてお伽噺(とぎばなし)の住人のようだった。

 黒髪は後ろに撫でつけているせいで、整った顔立ちがよりあらわになっている。


 だが、本人はそう思っていないらしい。

 アイリスの言葉など耳に入っていないかのようにヒューゴは続けた。


「俺は王城に行くたび、自分が野良犬だと思い知るよ。場違いもいいところだ」


 そう言い捨てながらも、ヒューゴはどこか楽しそうだった。


(場違いなのは私だわ……)


 これから王に会うというのに、どこかくつろいだ様子を見せるヒューゴを羨ましく思った。

 かくいう自分は油断すると萎縮してしまう。


 アイリスはそっとため息をついた。


       *


 大きな跳ね橋を通り、王城に足を踏み入れたアイリスはずっと口を開けたままになってしまった。


(すごいわ……)


 何もかもが自分の想像を超えていた。

 見上げるような巨大な城、美しい装飾、廊下を通る華やかな貴族たち――。


「ヒューゴ様、こちらです」


 近衛兵に案内されて廊下を歩いていると、足が震えてきた。


(これから……私、王様に会うんだ……)


 とても現実とは思えない。

 アイリスはうまく歩けず、ドレスを足にからめてしまった。


「あっ!」


 倒れかけたところを、ヒューゴがしっかと受け止めてくれた。


「どうした。気分でも悪いのか」

「緊張してしまって……」


 アイリスは手足の震えを止めることができなかった。


「しっかり俺につかまっていろ。おまえはそばにいるだけでいいんだ。あとは全部俺がやる」

「ごめんなさい……」

「別に。おまえを婚約者にすると決めたのは俺だ」


 ヒューゴは素っ気なく言ったが、すっと腕を差し出してきた。

 アイリスはおそるおそるその腕を取る。


 がっしりした力強い腕につかまると、少し気分が落ち着いた。


(そうよ。ヒューゴのように背筋を伸ばして……堂々と歩くの。うつむいてはダメ)


 謁見の間に入ると、ずらりと近衛兵が壁際に並んでいた。

 その奥の玉座に豪奢なマントに身を包んだ男性が座っていた。


 王だと一目でわかる迫力だった。


(あれが、カーネリアン国王、ロベルト様……)


 ヒューゴは堂々とした足取りで王の近くまでいくと、すっとひざまずいた。


「こたびは拝謁(たまわ)りまして感謝いたします」

「うむ。婚約者を紹介したいとのことだったな?」


 ちらっと王が視線を向けてきただけで、アイリスは硬直した。


「ははっ! まだ正式に婚約をしておりませんが、まずは王にご報告をと思いまして」


 ヒューゴがそっとアイリスに目をやる。


「アイリス・カークウッド侯爵令嬢です。私が幼少のみぎり、身を寄せていた縁があり、このたび再会したのを機に結婚を申し込みました」

「アイリスです。どうぞよろしくお願いいたします」


 アイリスは必死で手を震えるのを堪えながら礼をした。


「ふたりとも苦しゅうない。めでたいことだな、ヒューゴ。心から祝いを述べさせてもらう」

「ありがたく」


 胸に手を当てて頭を下げたヒューゴに、王の口の端がくっと上がった。


「いや、そなたがディアナを妻にしたい、と言い出すのではないかと期待していたのだが」


 口調は砕けていたが、その青い目は油断ならない光を帯びている。

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